Scene 9(Side-F)
ついに、俺の卒業パーティーの日がやってきた。
「ハナフォード伯爵令嬢、アンジェラよ。貴様との婚約を破棄する!」
パーティーの会場に突如として、響き渡るクズ王子の声。
結局……このシーンは変わらないんだな。やっぱり、馬鹿らしい。そう思って声があがった方を見る。
が、目に飛び込んできたのは『いつもの光景』ではなかった。
視線の先、パーティーの参加者たちが輪を作る中心に居るのは、クズ王子レイモンドと噂の相手のチェルシー嬢。
そして二人の前にいるアンジェラ嬢は、今まで何度も見た『悪夢』のときのように俯いてはいない。まっすぐに強い視線で二人の方を睨みつけていた。
「お前はこのチェルシーを虐めていたそうだな! 彼女の持ち物を隠したり、突き飛ばして転ばせたりしたそうじゃないか!」
クズが唾を飛ばしながらそう言うと、アンジェラ嬢は視線を逸らすことなく背すじを伸ばしたままで口を開いた。
「殿下、それは誤解です。わたくしはそのようなことを一切しておりません。彼女が自分で物を失くされて、彼女が自らバナナの皮で滑っただけです。その時に、わたくし自身は何もしていないことを、学園の皆さまが証言してくださいます。それとも何か証拠でもあるのでしょうか?」
彼女の言葉に、周りが騒めく。しかし、聞こえる声はアンジェラ嬢を非難するものではない。むしろ、彼女を擁護するものばかりだ。
「し、しかし…… このチェルシーがそう言っていたんだぞ!」
王子はしどろもどろに弁解を口にする。
「私には後ろ暗いことは何もございません。ですが婚約破棄はありがたくお受けいたします」
「ありがたく、だと? 俺との婚約を破棄することがありがたいと、そう言っているのか! お前、自分の立場がわかっているのか?」
バッカじゃねえか? 自分から婚約破棄したくせに。
婚約破棄なんてしないでくださいーとか言いながら、アンジェラ嬢が泣いて縋るのを期待でもしていたのか?
「はい、せいせいしました。とても嬉しく思いますわ。では」
そうきっぱりと告げると、アンジェラ嬢は未練の欠片もないかのように、くるりと振り返り、カツカツと高い靴音をさせて会場を去っていった。
「おお、かっけー」
エディが呟くのが聞こえると、そこで『悪夢』から目覚めた。




