Scene 10(Side-B)
あれ以来、あの変な『悪夢』を見なくなった。
さっぱりしたと思う反面、アンジェラ嬢があれからどうなったのか、気にはなっていた。
でももう俺にはどうしようもできないのもわかっている。
それから約1年。『現実の俺』もようやく学園を卒業することになった。
この学園でも卒業式の後にはパーティーが開かれる。
当然のように、あの『悪夢』のことを思い出してしまう。
しかし、思い出したところでこの学園には王子が通っているなんてこともないし、まさか婚約破棄騒ぎを起こすような奴もいないと思うけどな。
婚約者がいるのなら、パーティーには婚約者を伴って参加し、ファーストダンスを二人で踊るのが決まりになっている。
当然、俺はレオノーラと一緒に会場に足を踏み入れた。
と、俺たちの目の前に一人の令嬢が立ちふさがる。
「ブルーノ様、どうか私とファーストダンスを踊ってください!」
そう言って俺に手を差し出したのは、マチルダ嬢だった。なんだこりゃ。なんの茶番だ?
俺たちだけではない。周りの学生たちも呆気にとられている中、俺の隣のレオノーラがふぅと小さくため息を吐いた。
「マチルダさん。ブルーノ様は私の婚約者ですよ。いったいどういうおつもりでしょうか?」
レオノーラが強く言うと、マチルダ嬢は怯えるように身を縮めた。
「そんな言い方ひどい…… 私はブルーノ様と仲良くなりたいだけなんです」
うん? 別にひどい言い方じゃあないだろう?
それに、なんで俺なんだ?
「ブルーノ様には何度も何度も助けていただきました。きっとブルーノ様も私のことが好きなんだと思います!」
げ! なんだそれ、全く意味がわからん。
「ブルーノ様、彼女の言っていることは真実でしょうか?」
怒ったようなレオノーラの言葉に、何も言えずにふるふると首だけを横に振る。
これは現実だよな。でもまるでこれはあの『悪夢』だ。なんでこんなことになったんだ。俺があの騒ぎの関係者になるだなんて。
いい加減にしてくれ。これが『悪夢』なら、さっさと覚めてほしい。
「まったく、馬鹿らしい」
レオノーラが小声で言った言葉は、多分俺にだけ聞こえた。
「彼女の様子に、気が付かなかったんですの? 彼女、いつも貴方を気にされていましたよ」
そう告げられて、いつだかレオノーラに「一人で行動しないほうがいい」と言われてたことを思い出した。
そうか、こういうことだったのか。
「ブルーノ様は貴女が困っているところを助けただけですよ」
そう告げたレオノーラの視線を避けて、マチルダ嬢はうるうるとした目で俺を見つめる。
いや、やめてくれ。
本当に俺はそんなつもりはないし、彼女に過剰に関わったつもりも全くないんだ。
「い、愛しいレオノーラの言う通りだ。確かに貴女が困っていたところに手を貸したことが何度かあるが、ただの偶然で貴女に好意を抱いているわけではない。俺にはレオノーラがいるし、レオノーラ以外に興味はない」
そうきっぱりと告げる。レオノーラが俺と組んでいた腕にぎゅっと力を入れたのを感じた。
肩を落としたマチルダ嬢を置いて、二人で会場の中央へ向かった。
レオノーラとのファーストダンスの最中、彼女が小さく口を開く。
「今度こそ、貴方と踊れましたわ」
今度こそとはどういう意味だろう?
今までだって、彼女と踊る機会は何度もあった。
これが初めてではないのに。レオノーラにとって、この卒業パーティーのダンスはそれだけ特別なんだろうか?
「ふふふ、まるで夢のようです」
俺を見つめる彼女の瞳に目を奪われる。美しい、翠玉のような瞳だと、そう思った。
お読みくださりありがとうございました。
こちらの作品の初出は、『悪夢』テーマのアンソロジー本に書き下ろしたものでした。
私、ファンタジー系の貴族やら身分やらアレコレがちょっと苦手でして…… なので、今まで『冒険者』メインの話ばかり書いていたわけですが、まあ沢山読むと少しはわかってくるものですね。それならと、今更ながら婚約破棄物に挑戦してみました。
と言ってもただの婚約破棄ではないですけどね。メインは『悪夢』です。夢物です。
ラストは、敢えて色々な捉え方ができるようにしてあります。
ラストまで読むと、作品タイトルにも意味があるように思えませんか?
あなたにはどんなラストが見えたでしょうか?
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どうぞよろしくお願いしますー(*´▽`)




