Scene 8(Side-B)
それにしても、今日の『悪夢』はなんだったんだろう?
バナナの皮を落として自分で滑るだなんて、あのチェルシー嬢はそんなことをして自分の話が通じるとでも思っているんだろうか。
そんなことを考えながら学園の廊下を歩いていると、向かい側から荷物の山が歩いてきた。
いや、荷物が歩いているんじゃない。荷物を抱えている学生の背が低くてそう見えるらしい。
その学生が俺の横を通り抜ける際に、荷物がぐらりと揺れた。
「危ない!」
咄嗟に両手でその荷物を受け止める。
荷物は無事だった。が、令嬢の方は気持ちのいいくらいに綺麗に転んだ。
「いったーー!!」
「だ、大丈夫か?」
令嬢が顔を上げる。マチルダ嬢だった。
「はっ! ブルーノ様! だ、大丈夫ですっ」
大丈夫と言うが、あの転び方だ。どこかは痛むだろうに。
「この荷物、どうしたんだ? どこかへ運ぶのか?」
「ああ、えっと、先生のところに届けなくてはいけなくて……」
「貴女一人で?」
「……本当は、他の女の子たちが先生に頼まれたんですけど…… あの、私が代わりにやることになって……」
なるほど、つまりは仕事を押し付けられたのか。
「わかった。俺が手伝おう」
「あっ、ありがとうございます!」
この程度の量、俺なら大したことはないしな。
さっき受け止めたそのままで、荷物を抱えて歩き出すと、マチルダ嬢も付いてきた。
「ブルーノ様、お優しいんですね」
「そうか?」
別に特別なことをしているつもりはない。
荷物が自分目掛けて崩れてきたので、受け止めただけだし。むしろ転んだ令嬢を放っておいて自力で立たせている。
関わってしまった以上、貴族令嬢に手を貸しておかないと「気が利かない男」のレッテルを貼られるだけだろう。
「あら、ブルーノ様」
聞き覚えのある声がした。レオノーラだ。
「随分なお荷物ですね。お手伝いしましょうか?」
彼女は俺の抱えている荷物を見てそう言った。
いやいや、さすがに女性に力仕事を手伝わせるつもりはないし、手伝わせたらまた何か周りに言われるに決まっている。
「いいや、このくらいは大丈夫だ」
「はい、私も一緒ですし、大丈夫です」
隣にいたマチルダ嬢も、俺に合わせるように言った。
てか、そのマチルダ嬢は手ぶらなんだがな。
レオノーラは、マチルダ嬢の方をちらりとだけ見て「わかりました」と言った。
そして、俺の耳元にそっと口を寄せた。
「お一人で行動されない方が良いかと思いますよ」
こう小さな声で耳打ちをする。そして、
「ブルーノ様、またお昼休みにお会いしましょう」
レオノーラは、にっこりと貴族らしい笑みを寄越すと、そのまま去っていった。
って、今のはなんだったんだ?




