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婚約破棄の舞台は夢の中  作者: 都鳥


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4/10

Scene 4(Side-B)

 いつものようにベッドの上で体を起こし、大きく息を吐く。

 立ち上がり、壁に掛けられた鏡に自分を映し、名を呼んだ。


「よお、ブルーノ」

 ちゃんと目が覚めている。ここが現実の世界で、これが現実の俺だ。

 いつもと同じように、現実の朝はやってきた。



 気怠(けだる)い午前の授業が終わり昼休みになると、教室は昼食の準備で少し(にぎ)やかになる。


 学園では婚約者がいるのなら、昼食を共にとるのが一般的だ。

 婚約者同士で連れだって教室を出ていく者もいれば、婚約者を呼ぶ声も聞こえるし、婚約者を呼びに他の教室に向かう者も、様々だ。


 俺にも婚約者がいる。

 俺の婚約者は公爵令嬢のレオノーラ。それなりに美人だが、やや気が強い。


 彼女のことが好きなのかと聞かれたら、すぐには(うなず)くことはできない。でも別に嫌いではないし、それなりに情もある。

 彼女の方も俺に悪い印象は持っていないようだ。

 まあ、家同士が決めた貴族間の婚約など、そんなもんだろう。



 いつものように教室で待っていると、レオノーラが昼食の入ったバスケットを持って俺を誘いにくる。

「ブルーノ様」

 俺を呼ぶ声に軽く手を挙げて応えた。


 友人たちには、たまには俺の方から彼女を迎えにいけと言われるが、俺には気恥ずかしくてそんなことはできない。

 レオノーラも俺を誘いにくるのが楽しそうだし、別にこれでいいじゃないか。


「今日は中庭で食べませんか? いい天気ですよ」

 そう彼女が言うので、中庭にある雰囲気のいいガゼボで食べることになった。


 彼女が持ってきたバスケットを開けると、今日の弁当はサンドイッチだ。

「ローストビーフ、お好きでしたよね」

 そう言って彼女がひとつ、大きめのサンドイッチを選んで手渡してくれた。


 このガゼボで食べていると、あの『悪夢』の中でみたアンジェラ嬢を思い出す。そういえば、あの時彼女が食べていたのもサンドイッチだった。

 俺はあのクズ王子みたいに、婚約者を一人にしてはいないからな。そんな、言い訳がましいことを思いながら、レオノーラのくれたサンドイッチにかぶりつく。


 ああ、いつも通り美味いな。

 彼女は俺の好みを把握してくれていて、サンドイッチの時には必ずローストビーフのサンドを用意してくれている。

 それだけじゃなく、肉も大きめに切ってあるし、マスタードも多めに塗ってある。

 別にわざわざ俺が頼んだわけじゃないのに。


 そうだ、こういうのが好きだとか、わざわざ言ってはいないのに。なんでだ?

 レオノーラの方を見ると、もぐもぐさせている口元を慌ててハンカチで隠した。


「ブルーノ様、どうかされました?」

「あ、いや…… どうして俺の好みを知っているのかなと、そう思って……」

 そう言うと、レオノーラはくすりと笑った。


「あら、こうしていつも昼食をご一緒していますもの。そのくらい、わかってきますわ」

 ……そうなのか。でも俺はレオノーラの好きな食べ物なんて、ほとんど知らない。

 それだけでなく、好きな本や花のことも。


 レオノーラとは家同士が決めた婚約者だ。自分で選んだわけじゃない。

 でもそんな俺を知ろうとしてくれたことが、なんだか恥ずかしいような嬉しいような、そんな気持ちになった。


「そうか。レオノーラが俺の好みをシェフに伝えてくれているんだな。だからいつも美味いのか。ありがとう」

 普段の俺なら、レオノーラに礼の言葉なんて恥ずかしくて言えないのに。

 今日は何故だか自然にそれが口から出た。


 レオノーラは一瞬驚いたような顔になって、それから今度は恥ずかしそうに両手で口元を抑えて顔を()らせた。

「ブ、ブルーノ様に喜んでいただけて、良かったです。で、でも…… そのサンドイッチは、シェフが作ったものではなくて……」

「……え?」

「わ、私が作ったものが、ブルーノ様のお口に合ったのでしたら、とても嬉しい……です」


 これは、彼女のお手製だったのか……

 もしかして、今までの昼食もそうだったのか? そんなこと一度も言わなかったじゃないか。


 レオノーラが俺の顔色を(うかが)うように、ちらりと上目遣いでこちらを見る。

 いつもはやや気が強く、物事をはっきり言うレオノーラが恥じらっている姿がとても可愛い。


 こんな可愛い婚約者が、俺のことを思って俺の為に何かしてくれている。それなのに、俺は彼女を迎えにいくことすらしていない。


「いつも、美味い昼食をありがとう。レオノーラ」

 改めて言うと、顔を真っ赤にさせたままの彼女が嬉しそうに微笑んだ。


 その笑顔に胸が熱くなりそうな自分を感じながら、顔色を気取られぬよう慌てて次のサンドイッチにかぶりついた。

 味付けして焼いたチキンが入っていて、やっぱりこれも美味かった。

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