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婚約破棄の舞台は夢の中  作者: 都鳥


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2/10

Scene 2(Side-B)

 いつものようにベッドで目が覚める。

 体を起こすと大きく息を吐く。立ち上がり、壁に掛けられた鏡に自分を映す。

 そしてその名を呼んだ。

「よお、ブルーノ」


 ブルーノ・ラル・ダズウェル。ダズウェル伯爵家の長男で跡取り、それが俺だ。

 こうして自分の名を呼び『本当の俺』を確認するまでが、『悪夢』を見た朝のルーティンだ。


 そうでもしないと、自分を見失ってしまいそうになるのだ。

 どちらの自分が本当の俺なのか、わからなくなってしまいそうになるのだ。



 『悪夢』の終わり方がいつもと少し違っただけで、他はいつも通りの朝だった。

 いつものように馬車で学園へ向かい、教室で友人たちと朝の挨拶を交わす。


 学友たちとなんてことのない会話をしているうちに、いつものように部屋に教師が入ってきて、いつものように授業が始まる。

 そんななんてことのない、いつもの日常が始まるはずなのに、今日は少しだけいつもとは違った。


 教師と一緒に見知らぬ令嬢が壇上に上がると、教室のここかしこからひそひそ声があがる。

「編入生を紹介しよう」

 教師の声で、小さなざわめきがぴたりと止んだ。


「マチルダ・アナ・ブリックと申します。よ、よろしくお願いいたします」

 令嬢はぎこちない所作でカーテシーをした。慣れていないようだ。


「なあブルーノ。彼女、どこの家の令嬢だろう? 知っているか?」

 隣の席の悪友……もとい、親友のジェレミーが小声で俺に尋ねる。

「……いや、知らないな。ブリック家の名も聞いたことがない」


 うちは公爵家で、俺は公爵家の跡取りだ。めぼしい家の子息子女の情報はおおよそ頭に叩き込んである。

 その俺が知らないのだ。下位の貴族家の者か、それとも田舎貴族なのか。


「そういえば、どこかの男爵家で養女を迎えたって聞いたな。彼女のことじゃないか?」

「なるほど、それなら納得だ」

 ジェレミーは珍しい物を見るかのように、編入生をしげしげと眺める。

「場所慣れしていないようだし、余程の箱入り娘なのか、それとも平民の出か? でも彼女、なかなかに可愛いんじゃないか?」


 まったく…… 可愛いというのは素直な感想だろうが、お前には婚約者がいるだろう?

 まあ、だから俺にだけ聞こえるように言ってるんだろうけどな。


「なんだ。素っ気ないな」

「俺は興味ないからな」

 そう言うと、ジェレミーはつまらなそうにふぅんと言った。


 今日がいつもと違ったのは朝のその時だけで、その後に始まった授業はやっぱりいつも通りだった。

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