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第7章 勇者たちの再興。もうひとつの10・19〜⑦〜

「阪急のニュースは、どこでわかるんやろう?」


 オリオンズ対バファローズのダブルヘッダー第二戦の中継を観ながら、少年は父にたずねる。


「それは、夕方のニュースを見ればわかるやろう? チャンネルを変えてみるか?」


 父の言葉で、リビングのテレビは、プロ野球中継から夕方のニュースに変えられる。


「プロ野球、パシフィック・リーグの阪急ブレーブスが、オリエントリースに球団を譲渡することになりました」


 夕方のニュースは、速報として淡々と阪急とオリエントリースの記者会見の模様を伝えるばかりだった。

 この球団売却劇の真相が明らかになるのは、後になってからのことだ。


「オリエントリース? レンタカーを経営してる会社みたいやけど、聞いたこともない名前やなぁ……」


 父親のつぶやきに佐藤少年もうなずく。


(スーパーのダイエーみたいに、みんな知ってる会社やったら、イメージも湧くけど……)


 少年は、そんなことを感じていたが、とりあえず、ブレーブスの名前が残るということと、ホークスのように本拠地が移転するわけでは無いということも同時に報道されたため、少し胸を撫で下ろした。


「しかし、阪急が身売りしたということは、ブレーブスこども会に入会しても、もうファミリーランドのチケットは、貰われへんかもな」


 父が冗談めかして言うと、


「いや、もうファミリーランドに行く年齢(トシ)でも無いわ」


と少年は言い返す。親子の会話の話題に上がった宝塚ファミリーランドは、西宮球場のある西宮北口駅から、電車で15分ほどの宝塚駅のそばにあったレジャー施設だが、昭和末期の遊園地は、半年後には小学校の最高学年になる少年にとって、さほど魅力のある施設では無くなっていた。


「まあ、親会社は代わっても、ブレーブスの名前と西宮球場は残るみたいやし、あとは、近鉄を応援しよか?」


 父親の言葉で、リビングのテレビのチャンネルは、再びプロ野球中継に戻る。


 午後三時に始まった第一戦に続き、午後六時前に始まった第二戦は、引き分けが許されないバファローズが7回に勝ち越したものの、その後は、同点劇と勝ち越し劇が続き、一進一退のまま同点で最終回を迎えた。


 この頃には、バファローズの本拠地がある関西地区だけでなく、日本中がこの世紀の一戦に釘付けとなり、当初は近畿地方をはじめとした一部地域のみで行われていたテレビ中継は、キー局の編成幹部の決断もあり、全国放送に差し替えられていた。


 午後9時から始まった全国中継に続き、午後10時の『ニュースステーション』では、番組冒頭でメインキャスターの久米宏が、ワイプ画面で事情を説明。


「今日はお伝えするニュースが山程あるんですが、実はパ・リーグの優勝決定がかかっている試合が、いま山場、9回の表2アウトまで進んでおりまして、ここで野球の中継をやめるわけにもいかず、とりあえず9回の裏までご覧いただいて、ニュースステーションは、あのー、いつもより10分終わる時間を延長してお送りするということで、ここんところで手を打って、しばらく9回の裏までご覧いただきたいと思います」


 プロ野球中継のみならず、日本のテレビ放送の歴史に残る場面が見られるのは、このあとだ。


 9回表、バファローズは2アウトとなった後、大石が二塁打を放ち二死二塁とした。

 そして、次打者新井の打球は、三塁線を襲うもサード水上の好守に阻まれ無得点。


「止める! 水上! This is プロ野球! まさに、打ちも打ったり新井! よく止めた水上! 白熱のゲームが、好プレーを演出!」


 実況担当の安部憲幸アナウンサーが、こう絶叫したことで、このシーンや「This is プロ野球!」というフレーズが後年まで語り継がれるようになった。


 この手に汗握る攻防を受け、ニューススタジオの久米宏は、


「This is ニュースステーションでございます。ニュースステーション今9回の表までお送りしましたが、裏までお送りします。で今日は延長の場合13回まで行きます。え、どんな番組に今夜はなるか分からないんですが、伝えるニュースもいっぱいあるし助けて下さい」


という表現で、視聴者に理解を求めた。


 結局、番組は当初予定していた企画をすべて休止したうえで、第二戦の中継を事実上優先。攻守交代の合間などを縫って、主なニュースを伝えることになった。


 そして、午後10時41分にバファローズの羽田が併殺打に倒れて引き分け以下の結果が確定したことで、3分後の午後10時44分にライオンズのペナントレース制覇が正式に決定すると、第二戦の中継と並行しながら、西武ライオンズ球場のライブビジョンでテレビ中継の映像を見ていたファンの様子を取材していたアナウンサーが生中継で胴上げの瞬間を伝えた。


「スゴイ試合を観たな……こんな試合があったら……近鉄ファンは、もう今日は、眠られへんやろ」


 父親が何気なくつぶやいた一言に、佐藤少年は心の中で反発した。


(眠られへんのは、バファローズのファンだけやないわ……ブレーブスは……福本や松永に、ブレービーは、どうなるんや……?)


 少年は、その週末に行われるブレーブスとオリオンズの最終戦だけは、なんとしても西宮球場に駆けつけようと、心に誓うのだった。

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