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第7章 勇者たちの再興。もうひとつの10・19〜⑥〜

 少年時代の佐藤だけでなく、プロ野球ファンや関係者の誰もが耳を疑った阪急ブレーブスの球団譲渡。


 それは、阪急グループと譲渡先のオリエント・リース(当時の社名)、さらに両者の橋渡し役となった三和銀行の一部の関係者の間で極秘裏に進められたものであった。


 この年、阪急にいつもと違った動きがあるとすれば、あまりにも早い段階で上田利治監督の続投が発表されていたことだ。実は、阪急側は球団譲渡の第一条件として上田監督の続投を入れており、売却前に契約を済ませておけ

ば続投は確実という意図があったと言われている。

 しかし、上田監督の続投話だけで身売りの計画があることを見抜ける人物などおらず、身売りどころか、創業家の小林家から小林公平が新オーナーとなり、ブレーブスの将来は盤石とまで思われていた。


 創業家だからこそブレーブスの売却に動くことができてしまったことは皮肉な話だが、小林は阪急電鉄の幹部社員である古寺に、


「宝塚歌劇とブレーブスという阪急のシンボルはともに赤字だ。プロ野球は12球団あるが、歌劇は希少価値がある。お荷物を二つも抱える必要はない」


と宣告しており、野球が歌劇かどちらから撤退するのかと言えば、野球との判断を伝えていたという。


 しかしこの時点で具体的な身売り話があったわけではなく、計画はおぼろげなものだった。


 この譲渡計画が具体化したきっかけとなったのは、幹部社員・古寺の宮古島視察だった。彼は三和銀行の頭取が主宰する若手経営幹部の勉強会のメンバーの一人で、そのメンバーの中にオリエントリース(現オリックス)の幹部社員が参加しており、彼が視察後の会食中、


「来年から社名変更することになり、短期間に集中させるには広告費がかなり掛かる。いっそプロ野球の球団を買おうか」


という話が社内で出ていると計画を口にしたことを聞き逃さなかったことだという。


 オリエントリースの社内で新社名周知の手段として球団を持つという案を思いついたのは、現在もオリックスバファローズのオーナーを務める宮内義彦だった。


 ただ、当時はプロ野球の球団を売り買いすることに大きな障壁が、いくつもあり会食の場では笑い話として扱われていて、阪急幹部の古寺は、その場でオリエントリースに対して何のアクションも起こさなかったものの、球団を欲しがっている企業があると小林オーナーに報告を入れた。


 こうして、売り手買い手が出揃う形になったが、この時点でも、ブレーブス売却の話は一切表に出ておらず、オリエントリースは、何度も身売りの話が出ていたホークスを買収するのではないかとウワサされていた。


 さらに、先述のように多くの名選手を抱える人気チームで、歴史もある名門球団を売り出すと公言すると反対運動が起きる恐れがあり、阪急の経営陣としては、なるべく目立たずに事を進めたい思いがあった。

 そこで、経営幹部としては、どこか他球団が売却を決めるのであればその同じ年に売却を決めたい、具体的に言えば、南海グループが、難波再開発を機にホークス球団を売却する可能性があるので、同年に売れれば最善だという意向を持っていた。


 こうして、阪急グループは、企業の若手幹部会を主宰する三和銀行頭取を通じて、ブレーブスをオリエントリースの新会社に売却する動きを本格化させていく。さらに、阪急の意向を受けた銀行頭取が、オリエントリースに「本気で球団を買収する気があるのか」と確認すると、「もちろん本気です」という返答を得た。


 そこで、頭取は、「条件次第で阪急が売ってもいいと考えている。その条件は、南海がホークスを売った時だ」と伝える。この報告を受けオリエントリース社内では、阪急ブレーブス買収へ向けての調査や検討が、8月の終わりから開始され、現オーナーの宮内は、「これは買収できる可能性があるかもしれない」と手応えをつかんだという。


 一方、ブレーブスの選手たちといえば、身売りの話など一切耳にしておらず、翌年の阪急ブレーブスのプロモーションビデオの撮影を行っていた。このビデオには阪急グループの東宝に所属する人気女優・沢口靖子が、応援メガホンを持って、ニッコリと微笑み、各地区の出身選手たちが、


「僕たちと一緒に頑張りましょう!」


と呼びかける映像になっていた。


 このように、シーズン中に密かに行われていた球団譲渡交渉をブレーブスのファンの面々が知る由もなく、パ・リーグの優勝が決まろうか、という試合の最中に、テレビ中継で、その事実を知った佐藤少年にとっては、まさに青天の霹靂の出来事だった。


 少年は、夕方になって仕事から帰ってきて、「近鉄の試合、どうなってる?」とたずねる父に、


「お父ちゃん、阪急が……ブレーブスが、身売りするらしい……」


と、泣きそうな声で伝える。


「なんでや? 身売りするのは、南海ちゃうんか? 阪急はどこにブレーブスを売るねん?」


「それは、まだわからへんみたい……」

 

 父親と少年の疑問は、夕方の記者会見で明らかになる。


「この度、阪急ブレーブスは、五十有余年の歴史に終止符を打ちまして、球団をオリエントリース株式会社様に譲渡することになりました」


 企業が必要とする機械、設備、車両、IT機器などを代わりに購入し、それらを長期的に貸し出すビジネスを行う球団の譲渡先であるリース会社は、佐藤家の父子が聞いたこともない社名だった。


 その記者会見の席で、「パ・リーグの優勝決定の日に」ということを詫びる趣旨の発言が飛び出し、会見が終了した頃、川崎球場では、バファローズがオリオンズに勝利し、ダブルヘッダーの第二戦に優勝の望みを繋いでいた。

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