勇者
前世では最強と呼ばれた者が2人居た。
勇者と魔王。
対極の存在であり、だからこそ人間と魔族の関係が悪かった原因である。
勇者はどこまで行っても勇者だった。
一度街に足を踏み入れたら、その街で争いも犯罪も起こらなくなった。
困っている人が居たら片っ端から助けていた。
そんな人だった。
ではここで前世の私について話そう。
私は物心ついた頃には既に波絶を振っていた。
理由は少し複雑で、周りの大人は最初から私を剣聖として勇者の仲間にさせようとしていたのだ。
産まれる前から私の人生は決まったレールの上に乗っていた。
それから私が変わったのは勇者と会ってからだった。
勇者は最初に私に会った時に言った。
「君が僕の仲間になる剣聖かな?話は聞いてるよ。」
「そうだけど、貴方が勇者?」
「そう、今代の勇者。君は波って言うんだったっけ?不思議な名前だね。あ、親が居ないんだっけ?あははwごめんね。」
あの時、私は産まれて初めて殺意を知った。
人の事情を理解してなお、煽るようなやつを初めて見たから。
しかもそれが勇者なのが余計に腹立たしかったから。
「そうそう、君が良ければ僕の嫁にでもなってよ。こんな綺麗な女性だって知らなかったからさー、絶対後悔しないよ?」
その時、プツリと何かが切れた音がした気がする。
「死ね。」
そうして私はその王城の中で業を使った。
それも、全力の。手加減などする気も無かったから。
勇者は死ななかったが、王城はボロボロに切り裂かれていた。
ハッと意識を取り戻した時には既にその惨状が広がっていた。
「ここまで強いとは思わなかったよ。まあこの惨状は僕のせいってことで話をつけてあげる。」
そう言いながら勇者は私に近づいてきて、私の……………。
あれからどれくらい経ったか、ようやく『シラツキ』に到着した。
思っていた数倍大きく、下手したらここがこの世界の王都なのではないだろうか?
「なんかどこの場所も門付いてるな〜。」
この世界の人間は防衛が凄まじいな。
まあいつも通り門に近づいた時、門番から声をかけられた。
「すいません、身分を…え?」
声をかけられたかと思いきや、途中で驚いた様な素振りをして門の中に走って行った。
何か不思議な予感がした。
しばらくして、門番が帰ってきたと思ったら、何やら王様まで来たようだ。
私指名手配でもされてる?
そう思っていたが、王が話しかけてきた。
「波様、勇者様をお探しですか?」
波様…?何故私の名前を知っているんだろう。
「まあ探していますが、何故私の名前を?」
その問いに、王は何かマズいことをしたのか、周りの兵達と話し合いを始めた。
何か裏がありそう。
「まあ詳しいことは中で話します。一旦状況説明をするので付いてきてください。」
まあきっとこの様子だと色んなことを説明してくれるのだろう。
少しして、王城の応接室に入った。
だが、その居るメンバーが中々に不思議だった。
私、王、王の側近の方、勇者
この4人だった。
一体何を話すんだろう。そんなことを考えると、自然と背筋が伸びていた。
そうしてついに、王はその現状について話すのだった。
「今から話すのは、この国の成り立ちと波様の今後についてです。」
「私の今後…?」
そこに居た中で、"私だけが"その言葉に反応していた。
「えぇ、まあそれは国の成り立ちを話した後に詳しく言いたいと思います。ではまず、国の成り立ちについてですが、この国は元々魔族によって作られた国だったのです。」
「魔族によって国が?」
「そうです。では何故今は人間が占領しているのか、それは簡単なことです。勇者様がその魔族達を倒し、私達に土地を丸ごと譲ってくれたのです。」
占領…ね。
どうやら私の勘に間違いは無かったようだ。
「そしてその土地を私達が2年程度かけてこのような姿に作り変えたのです。」
「その譲った勇者はどこへ?」
「勇者様はその後『アルム』へ行かれました。」
「『アルム』?そのような場所があるのですか?」
「あった。と言うのが正しいですがね。」
「ああ…そうなんですか。」
じゃあ今はどこなのだろうか?そんなことを思ったが、後に行けば分かるだろう。
「まあ国の成り立ちはここまでにしておきましょう。」
となれば次は私の今後について…か。
「波様、貴女はこれから西に向かい、『ツユヒ』にてとある依頼を受けていただきたいのです。」
「とある依頼ですか?」
「はい。内容について今は言えませんが、とにかく受けていただきたい依頼があるのです。」
「その依頼はこの国で受けられないのですか?王は知っているようですが…。」
「えぇ、依頼はその場所にあるギルドがその場所でだけ受注できるようになっていますから。」
「そうだったんですね、すいません。私の知識不足で。」
「いやいや、そう気にすることではありません。そして、波様の今後についての話というのはこれだけです。」
「そうなんですか?」
「ここで私が嘘を吐く理由などありませんから。」
「そうですよね、ではもう失礼しても?」
「構いません。依頼の方は頼みましたよ。」
「ご心配なく。」
そうして私は、その"圧倒的とまで言える違和感"について言及することなく、その場から逃げるように去って『ツユヒ』に向かうのだった。




