誤認
私は王に言われた通り、『ツユヒ』に来ていた。
門は相変わらずだったが、難なく入ることができた。私も門番の方への対応が上手くなったな〜。ただカード見せるだけなんだけどね。
まあそんなこんなでギルドに向かおう。
きっと目的の依頼はすぐに見つかるだろう。
その時、ふと思った。
私は王から"依頼の内容と依頼主"についての情報を一切聞いていなかったな〜と。
やばい?もしかして私は一回戻らないと行けないのかな?
いや、受付の人が何かそれっぽい依頼を知っているかもしれない。そうに違いない。
カランカラン
そうして真っ先に受付に行き、それらしい依頼について聞くと、どうやら心当たりがあるらしい。
「これですね、魔族の討伐です。」
どうやら『シラツキ』の周辺で魔族が人を襲っているらしい。
その依頼を持ち、すぐに外に出た。
「戻るか〜。」
緊急性が高そうだったので、私は全速力で戻ることにした。
「折角だし、あの人の身体能力強化でも使おうかな。」
私は目の前に魔法陣を展開し、そのイメージを頭の中に浮かべた。
すると、魔法陣は光り輝き私を包む。
「体が軽くなった気がする。」
多分成功したのだろう。
良かった、これで『シラツキ』に10分程度で着くことが出来そうだ。
そうして『シラツキ』が見えてくるであろう場所に来た。
しかし、そこは何も無い更地だった。
「道を間違えた?そんなはず無いな、確かに私はここを通ったはず。何が起きてる?」
取り敢えずもう少し奥まで進むことにした。
だが、いくら進んでも『シラツキ』は無く、あろうことか港街が見えて来たのだ。
「え?嘘。なんで?」
理解出来なかった。確かに数十分前は『シラツキ』に居たし、存在していたはず。
一体何が?
その時、私は昔の記憶を思い出した。
私は前世で14歳の時、魔王に負ける2年前にとある魔族と戦ったことがあった。
その魔族は幻覚を見せる特殊な力を宿していた。
どんなやつが相手でも、自身の作った偽りの記憶を相手の記憶に植え付けることで、それが自分の記憶であると誤認させることが出来る。
そんな力だ。
私はその魔族と戦った際、その力を使われたために殺し切れずに逃がしてしまった。
「待って。」
いや、そんなことがあるはずが無い。
『ツユヒ』のギルドだって、依頼にだって『シラツキ』って書いて…
その瞬間、私は悟ってしまった。
だって『シラツキ』なんて書いて無かったのだか
ら。
そいつが、逃がしたそいつがこの世界に居るのなら、私の名前を知って居たのにも納得がいくし、今起きてる状況にも説明が付く。
だが、そいつが居るということは、この世界は前世と同じ世界であることの証明になる。
私は私が死んだ数年後に転生してきたのか?
「そうだったんだ…。」
私は誤認していたのだ。
この世界が"前世"と違う世界だと。
最初に私が居た野原、あそこはきっと"私が魔王に負けた場所"だ。
でなければこの愛刀もあそこに置かれているはずがない。だってこの愛刀は"私"なんだから。
私は緊急でやることが増えた。
急いで『ツユヒ』に戻らなければ。
きっとあの魔族の狙いは、私を『ツユヒ』の遠くに離し、その間に街を崩壊させる。そうして遅れて気づいた私に絶望を与え、始末する。
そういうことなのだろう。
それにしても、やはりあの時点でやっておくべきだった。
普通に考えておかしかった。
『シラツキ』では、門番が私のことを認識した瞬間に王を呼び、王に案内された部屋では私と王以外、まるで元から存在していないように静かだった。
やはりアレは作られた記憶か…!
私は必死に思考しつつ、既に魔族の侵攻が進んでいる『ツユヒ』に着いた。
案の定、そこにはあの魔族が私を待っていたかの様に佇んでいた。
「久しぶりだね…剣聖さん。」
「フェイム…!」
そう、魔族の名前はフェイムと言った。
これが偽の名前なのかどうかなんて判別出来ない。
ただこれは今の私が覚えている唯一の名前だった。
「覚えててくれたんだ。嬉しいね〜。てっきりもう侵食され尽くしたのかと思ってたよ。」
「そんな話はいい、私はここでお前を殺す。」
そう言って私は波絶を手に殺気を放った。
「怖いね〜、でも覚えてる?そう言ってたのに前回は僕を倒せなかったんだよ。」
「そう、でもそれは前回の話だよ。」
私は地面を蹴り、一瞬でフェイムとの間合いに入り、華天を放つ。
しかし、後ろに飛び退いて斬撃を避けられた。
いや違う。今私は間合いに入ってなどなかった。
間合いだと誤認した場所で華天を放ったんだ。
「本当に腹が立つ力だね…!」
今度は間合いなんて気にする必要がないよう、波絶流の中でも異質な技である、乱衝を放った。
しかし、フェイムは動じること無く腕で斬撃の軌道をずらして避けた。
こいつは本当に、下手したら魔王より強いんじゃないかと思うほどイカれた実力を持っている。
身体能力で言ったら魔王に遠く及ばないのだが、あの力のせいで格段に厄介な相手になっている。
「今度はこっちから行かせてもらうよ。どうかすぐに死なないでね?」
そうフェイムが言った刹那、私の体は後方は吹っ飛ばされた。
これもあの力による誤認か?この痛覚すらも誤認させられるのであればそれこそもう太刀打ち出来ないが…。
「後ろだよ。」
背後から声が聞こえて振り向くが、そこにそいつは居なかった。
私はそいつに首を掴まれ、息が吸えなくなった。
「あ…が……。」
全身に力が入らず、波絶を落としてしまった。
「じゃあね。また最初からやり直しだよ♡」
そうして私の意識は暗闇に落ちていった。
「…ここは?」
気づけば目の前には木々すら無い美しい草原が広がっていた。




