望まない者
「美味しかった…!」
久しぶりに食べる海鮮を堪能し、他にも色々買い食いをした後に再びギルドを訪れた。
あの人達は居なくなっていて静かだった。
良い依頼無いかな…。
片っ端からボードに貼られた依頼を見ていくが、あまり良いものは無かった。
「薬草集めしかないか…。」
そう言って薬草集めの依頼を持って受付に行き、受領してもらった。
そのとき、受付の人が言った。
「あの森は生きて帰ってくる人が全く居ないので、くれぐれも気をつけてください。」
「え?」
「そしてあの森は昔、賢者と呼ばれた方が命を落とした所で、噂によると幽霊が人を殺しているらしいんです。恐らく賢者が復讐でもしてるんじゃないですか?」
「え?それ入って大丈夫なんですか?」
「多分ダメなんじゃないですか?」
「えぇ…。」
ー数時間後ー
「死者の森って…。」
依頼に書いてある名前からして絶対入ってはダメなところで薬草集めをしなければならないらしい。
「まあ、なんとかなるか。」
そうして私は軽い気持ちで森に入るのだった。
「うーん。無いね。」
あれからかなりの時間散策しているのだが、薬草1つ見当たらない。しかし、ところどころ木が焼けた痕が残っていた。
「やっぱり一回この森から出よう。」
そう呟いた直後、私は振り向きつつそれを華天で切った。
「誰?そこにいるのは分かってるけど。」
ここの森に入った時からその視線には気づいていた。しかし、攻撃してくるような気配が無かったので今までその何かに攻撃はしなかった。
そして今、私が帰ろうとした瞬間に閃光が飛んできたため、華天で迎撃したのだ。
「気づいてたんだ。凄いね君。」
そんな言葉と一緒に私の前に現れたのは、狐の仮面を被り、ローブを着ていた人型の【何か】だった。
私は警戒を最大まで高め、刀から手を離さなかった。この人はきっと…。
「一応聞くけど、あなたは何者なの?」
「それを聞いてどうなる?」
「っ!」
【何か】は、自分の体の前に魔法陣を展開し、会話の途中に閃光のようなものを放ってきたが、私は寸前のところでそれを切った。
「今何をしたの?」
「君は知らなかったんだろうけど、魔術って言うんだよ。それにしても、さっきの魔術を初見で対処するなんて、君こそ何者なの?」
「私はただの旅人だよ!」
やはりこいつはただ者では無い、明らかにヤバいと思うほどの実力者。しかも、魔術なんて言う私の知らないものを使いこなせるようだ。
出し惜しみはできない。
「また剣術を使えずに負けるのは嫌だからね!波絶流 崩駕!」
だが、【何か】は私の技を喰らう前に魔法陣を展開し、岩のようなものを出して威力を軽減させたからか、無傷であった。
強い、本気を出せば私なんか簡単に倒せるんじゃないかと思う。
「考え事をするのは構わないけど、魔術はどこからでも撃てるんだよ?」
「なっ!?」
その言葉の後、急に私の足元が底無し沼になり、その場から動く事が出来なくなった。また、それだけでは無く、どんどん体が沼に沈んでいっているのだ。
流石にヤバくなってきた。
【何か】はまだ色々な魔術という未知を隠しているようだが、こちらは沼にハマっている以上使える技に色々制限がかかっている。
唯一この沼を抜け出せそうな震斬は、体勢的に出せない。華天などを使おうにも、また魔術によって威力を軽減されるどころか軽々と避けられてしまうだろう。
つまり…だ。
私は既に詰んでいるのだ。
この沼にハマった瞬間、私は詰みが確定した。
「ねぇ、君はもう詰んでるんだから大人しくしてれば?」
【何か】は突然私に話しかけてきた。
もう下半身は完全に沼に沈んでいるため、そんな余裕はこちらに無いのだが。
「君が助かる方法を提示してあげる。」
【何か】はそう言うと沼から私を出した。
「ワタシの正体を当てること。」
正体を当てる…やはりこの人は…。
そうでなければ私を攻撃する必要も、沼から出す必要も無いんだ。
その時完全に理解した、この人の正体も、目的も。
「あなたはこの森で死んだ賢者。そしてここは貴方の復讐の場。あなたは生前この森を訪れた時、不意打ちでもされて死んだんでしょう。そして幽霊となってこの森に縛られた。普通ならここで終わりです。ですがあなたは罪を犯した。幽霊になった今、この手で犯人を殺すことができる。そう思ったのは良いものの、肝心な犯人の顔を知らなかった。だから片っ端から不意打ちで殺し続けた。そうでしょう?」
その答えにその人はうなづいた。
「あなたがやっているのは復讐です。しかし罪の無い人の命すら奪った。"元剣聖"としてそれを許すことは出来ません。」
きっとこの人は、始めからこうして貰うことが目的で…。
その瞬間私は刀に全ての力を込める。
それを見たこの人は笑顔だった。
「我が刀よ、この者の魂を還したまえ!」
さようなら、悲しき賢者さん。
「『波絶流奥義 断廻閃』」
その瞬間、この世界を廻るものは全て斬られた。
きっと最初から望まなかったのだろう。その復讐は最終手段だった。
私はあの人を救うことが出来た。
多くの犠牲を出して。




