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まず絶望ありき。ゆるい暮らしがしたいのですが魔王になるって本当ですか?  作者: 10MA


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006ワイバーン戦

落ち込むスフィアを励まして、なんとか街の外へ出た。

太陽が輝き、頬を撫でる風が心地良い。

これから魔物討伐という血生臭いイベントに行くとは思えない。


「さて、地図によるとワイバーンが出たのはあっちの荒野の方ね」

「見渡す限り草が生い茂っていて、荒野って感じじゃないんだがー」

「文句言わないの。強い魔物が街の近くで出ないのは良いことじゃない」


報酬だけでなく、町の事も考えているのは、さすが勇者という事なのだろうか。


「なぁ、勇者って何人いるんだ?」

「えー、知らないわよそんなの。でも流石にそう簡単にはなれないわよ。魔法が使える事、加護も使える事、戦える事、そして何より民を思う正義の心と、正しい行いね!これが無いと教会も認めてくれないわ」

「なるほどね・・・」


スフィアは簡単に言ったが、魔法と加護の両方を一人の人間が使いこなしている姿なんて見た事がない。

それぞれ出せる結果は似ていても、そこに至る過程が全く違う。これができるだけでも大した才能だ。

そして「正しい行い」というのは全くもって耳が痛い言葉だった。胸を張ってそれが言えるなら、やはり彼女は勇者なのだろう。


「スフィアって勇者なんだな」

「ずっとそう言ってるのだわ!?」


思わず溢れた本音に、自分でもはっとしたが、事情を知らないスフィアが察する事は無い。

だが隣を歩くあの時の少女には、伝わってしまったようだ。眉が僅かに下がっている。しかしすぐに真剣な顔を向けて言い放つ。


「タケル様は私の神様ですよ!勇者より偉いんですから。ね?」


これは参った。いつまでも甘えてばかりの少女だったのに、こんな気遣いができるとは。

不思議と落ちかけていた自信が、甦ったような気がする。


「ははっ、ありがとなアリィ」


照れ隠しついでに、頭を押さえつけるように強く撫でてやる。


「んふふふ、96日ぶりに撫でてもらいましたー」

「数えてるのはさすがに怖いよアリィ・・・」

「あなた達、イチャつくにしても本人を目の前にして、勇者より偉いとかよく言えるものなのだわ」


そんな調子で目的地へと進んでいく。

踏みしめる地面が、ようやく草原から少しずつ茶色い土へと変わっていく。緑の葉をつけた木は無く、葉を全て落として、生きているのかどうかも分からない茶色い木が所々に立っている。さらに乾燥した風は、朽ちた葉や砂を運んで来る。


「こんな所に生き物がいるのか?」

「ワイバーンですもの。食事の時だけ他の場所に飛んでいけばいいでしょうし。眠るだけなら周りに誰もいなくて快適なんじゃないかしら」

「それもそうか。さて目的のやつはー」


空を見上げるが、ドラゴンどころか鳥の影すら無い。

もしかして現れるまで待つのだろうか。確かに報酬は大したものだったが、何日も拘束されたら意味がない。

目を凝らしてぐるりと周囲を見渡すが、同じような景色があるばかり。生き物の気配が無い。

アリィも目を閉じ、耳を澄まして、生き物の気配を探っているようだ。


「全然分かりませんねえ。どこにいるんでしょうか」

「ふふん、ここは私の出番のようね。見てなさい」


そう言うとスフィアは硬い地面に膝をつき、胸の前で手を組む。

何かぶつぶつと呟くと、体の周りが淡く輝き出した。

何かの加護を使っているのだろう。

しばらくの間そうしていたが、「よし」と言うと立ち上がって、膝の土を手で叩いて落としている。


「うん、場所が分かったわよ。動かれる前に早く行きましょう」

「加護か?」

「ええ、周囲の生き物を感知する加護よ」


そう言って早足で歩き出した。腰に下げた剣に手をかけている。そう遠くないらしい。


「便利ですね、加護。私の魔法にあんなのありませんよ」

「魔力は体を通して使うもんな。広範囲を把握するなんて性質上無理っぽいよな。加護は本当に神様ってやつが上から見てるのかもな」

「見てるだけなら居ても意味ないですよ」

「・・・かもな」


音量を落とした会話は、鎧の金属音でスフィアの耳には届いていないだろう。聞かれていたら標的がワイバーンから自分達に切り替わってもおかしくない。

目の前を急ぐスフィアが、急に足を止める。


「!?」

「止まってください。います!」


切り立った岩肌の崖が見えると、スフィアは近くの大きな岩の影に素早く身を潜める。

タケルとアリィもそれに倣い、岩の影に身を屈める。

姿は見えないが、静寂の中に、羽ばたく音が聞こえる。

その音は段々と大きなり、相当大きな生き物であることを想像させた。

スフィアは身を屈めたまま、腰の剣を引き抜いた。


「二人はここで待っていてください」


岩陰から飛び出すスフィア。


「やぁぁぁぁ!」


タケルとアリィも立ち上がる。紛れもないワイバーンがそこにいた。

スフィアの倍以上はある大きな翼の生えたトカゲが、翼を広げて、空から見下ろしている。

スフィアの剣は届きそうもない。

だが右手に持った剣の刀身を、左手で下から上へと撫でるように触れると、刀身が輝き出す。

両手で持ち直し、ワイバーンへ一振りすると、剣から光が飛んだ。

飛んだ半月型の光は、ワイバーンの胴へと直撃する。


「ギャァァァ!」


落ちはしなかったが、声をあげ、羽ばたきがわずかに止まった。ダメージはあるらしい。

続けて剣をもう一振りして光を飛ばす。

だが大きく羽ばいて高く上がり、躱された光はどこかへ飛んで消えてしまった。

ワイバーンは首を真っ直ぐ上に伸ばし、大きく口を開いている。

口の周りの空気が歪んで見えた瞬間、首を勢いよく下げ、開かれた口から炎を吐き出した。


「分かりやすいっ!」


スフィアが剣を振ると、炎が舞い上がった。

ワイバーンとスフィアの炎は空中でぶつかりって消えた。

スフィアはワイバーンが攻撃を避けた瞬間に、魔法の用意を始めていた。紋様を持たない人間のはずなのに、魔法の発動が異様に早い。

しかも加護を使った直後に魔法を使う切り替えの早さ。


人間は武器を通して魔法を使用する。

体に紋様が無いため、紋様の役割を担う特別な武器に、魔力を通す必要があるのだ。

道具を使う人間の魔法は、自身の体の一部かのように魔力を使う魔族に比べると劣るはずである。


「すげえなスフィア。人間とは思えない早さと精度だな」

「アリィならもっとできますよ!」

「お前は魔族だろ」


少し離れたところで戦いを見守る。必要なら参戦しようと思ったが、ワイバーンを圧倒しているように見える。

身体能力も高い。ワイバーンが低い位置に飛んでくると、岩を蹴って高く跳び、直接剣を振るった。

しかし、さすがに相手はドラゴン。空で身軽に舞う相手に、スフィアの剣は大したダメージは与えられないようだ。


押してはいるが、決定打に欠け、時間がかかりそうに見える。


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