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まず絶望ありき。ゆるい暮らしがしたいのですが魔王になるって本当ですか?  作者: 10MA


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005童顔の勇者

「あなたは、昨日の異教徒・・・!」


女は左手で腰の剣に触れ、右手の指を開いた。

隣のアリィが、魔力をその身に宿す気配がする。

一触即発。そんな言葉が頭に浮かんだ。

しかし、金髪の女はすぐにその構えを解く。


「ーあ、そういうことですか」

「どういうこと?」

「いいからこちらへ、少しお話ししましょう」


急に歩き出した女の背中を追うと、昨日の広場へ出た。噴水の前のベンチに腰をかける。

タケルを中央に、両端に女性が座る。両手に花状態だが、この二人が戦い始めたら被害を最も被るのもこの席だ。


「昨日はすみませんでした。貴女、魔族だったんですね」


前屈みになり、顔を左端にいるアリィに向けて話を始める。

アリィは答えに困り、眉をひそめてタケルを見る。

バトンを渡されたようだ。代わりに答えてやる。


「分かるのか?」

「ええ、まぁ。ついさっきですが。あれだけの魔力を武器も持たずに扱われると、さすがにそうかなって」

「え、すごいな。何その才能」


女性は拳で自分の胸を誇らしげに叩く。


「私の名前はスフィア。勇者です!」


勇者?あまり良い思い出の無い言葉だ。


「それは自称とかでなく?」

「なんてこと言うんですか!ちゃんと教会から認められた勇者ですよぉ!ほらぁ!」


そう言って手袋を脱ぐと、左手の甲に赤い花の形のような模様がある。

「ほら」と言われても全然見覚えが無い。


「これ描いたら勇者なの?」

「なっ!?本当に何も知らないんですね!これは勇者の力が宿り、それが教会に認められると頂けるありがたい刻印なんですよ!」

「そういうのがあるのか・・・」

「あるんですっ!調子狂うなぁ〜。ここは『おー!』ってなるとこなんだけどなぁ〜?」


腕を組んで、しきりに首をひねるスフィア。


魔王は簡単だ。名前こそ大仰だが、魔族の国を統治する王が魔王。この世界に何人かいる。

だがそれに対して勇者とは何だろうか。何を持ってしてそう呼ぶのか。役職なのか、称号なのか、仕事なのか。

結局自分には分からなかった。

自分にとっては、弱者を助け、強きを挫く『在り方』だと思っていたが、そうはなれなかった。


「まぁとにかく、なんか強い人だな?」

「もうそれでいいですよぉ〜」


スフィアはがっくりとした様子でベンチの背もたれに寄りかかった。その様子を見て、今度はアリィが動き出す。


「お話終わりました?もう行っていいですか?」

「あなたねぇ・・・!半分あなたの話をしていたのですけれど!?静かだと思ったら興味無しってことね!?」

「だって私達はあなたではなく、ギルドに用があって来たのですから。早く行かないとお仕事無くなっちゃいますし」

「え!?あ!そうなんだ、ごめんなさい!私ったら」


スフィアは頭を抱えて立ち上がり、慌てている。

辺りをキョロキョロと見回すが意味は無いだろう、本当に混乱しているようだ。素直で感情がすぐ出るタイプなのかも知れない。

そうしているうちにポケットから四つに折られた紙を取り出し、広げて見せた。


「じゃ、じゃあこれで!」

「この紙は、依頼書ですか?」

「私からあなた達に依頼します!私とパーティを組んで、これに挑みましょう。報酬はきっちり二等分です」


目の前に出された紙に目を通す。

依頼内容は魔物の討伐。討伐対象はワイバーンとある。

報酬金額は二等分しても十分過ぎるほどだった、こんな高額な依頼は見たた事がない。


「報酬たっかっ!なにこれ!?なんか紙も豪華で見た事ないぞ!」

「えっへん!これはギルドが認めた冒険者にしか出さない依頼です。貴族や教会からの依頼なので、身元のしっかりとした人しか受けられないんです。報酬も高めでしょ〜?」

「確かにこれはすごい。よし、行きましょう」

「即決!?ワイバーンよ!?もちろん誘うからには私が守ってあげるけど、少しはビビりなさいよ!」


竜種、ワイバーン。二本の脚に大きな翼を持つドラゴン。炎を吐き、尾は鋭く毒を持つという。

普通に歩いていて出会うような魔物ではない。細身の体と翼を活かして、他の生物には住み辛い高い山や、岩場を縄張りにする事が多い。

縄張り争いに敗れた個体が、人里近くに降りてくる事もある。


「なるほど、竜種の討伐依頼が無いのは貴族らが独占していたのか」

「そうよ。力の象徴としてワイバーンを紋章にしている貴族もいるくらいだから、牙や鱗を欲しがってね」

「いいね。たくさん集めて売ろうか」

「わー、良いですね!勇者さんに貴族を紹介して貰えば、高く売れるんじゃないですか?」

「あまり勇者を舐めないでもらいたいものね!?そして貴女、基本冷たい割にずいぶんとこの男には甘いわね!?」

「そりゃタケル様は私のご主人様ですし」

「あなた達結局どんな関係なのよ・・・」


がっくり疲れた様子のスフィアに、自己紹介にしていない事に気付いた。


「ぁあごめん、俺はタケル。この子はアリィ」

「アレクサンドリアです。アリィと呼んでください」

「俺達は旅をしながら冒険者やってる」

「へえそうなの。あなたは人間よね?」

「たぶんそう」

「たぶんなの!?」


この世界で生まれたわけではないので分からない。元の世界でも人間だったが、それがこの世界でイコールとは限らないだろう。よく分からないがなぜか強い力を使えるし。

面倒なので自分が転生者だということと、アリィとの出会いは伏せて、事情を説明した。


「そうなの、アリィさんが子供の頃から6年も旅を・・・ん?待ってアリィさんって今いくつ?」

「16だな」

「じゅうろっく!?」

「タケル様、今年で17ですよ」

「じゅうななっ!?その感じで!?年下じゃないの!!」

「声でっか。スフィアはいくつなんだよ」

「私は20歳よ!」


スフィアとアリィを交互に見比べる。


「まぁ、がんばれ?」

「勇者を、泣かせる気・・・?」


項垂れるスフィアの肩を優しく叩いてやる。

肩当ての金属音が虚しく響いた。

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