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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
二章 もがく者たち
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80:少年と人形

家へ入ってすぐの場所。食事を取るためのカウンターや、多くの者たちが寝ていた広い部屋にはいなかった。ラウラたちの騒ぎを聞いて移動したのか、それとも元から居なかったかは分からない。


ラウラはこの家でしばらく暮らしていた。だが、どこになにがあるか詳しく知らない。片っ端から部屋を確認してみることにした。


一つ目の部屋はどう見ても食糧庫であった。大多数はそれであるが、よく見ると隅の方に新品らしき皿が積まれている。間違っても落としてはいけない。そう思いラウラは気を引きしめる。

これ以上貴重な皿を割ってしまえば、この先どう責任を取ればいいのか分からなくなるだろう。ラウラは顔をのぞかせただけで、入るのはやめておいた。


次の部屋はどうやらロッカの寝室らしい。前に訪問したことがあるのと、脱ぎ散らかされた寝間着がそれを物語っている。ベッドの隅の方にはくしゃくしゃになったシーツが丸められていた。


「わたしだけではなかったのね」

ラウラは似たようなありさまに、ホッと胸をなでおろす。だが、すぐに年の差を思い出した。


「……ま、まあいいわ。次に行きましょう」


その後ラウラはいくつか見て回った。どこも掃除が行き届いているのか塵一つもない部屋ばかりで、物が徹底的に端に置かれていた。こけた拍子に骨が外れる可能性を排除しているのだろう。家の持ち主であるカルボスの人柄見て取れる。


最終的に残る部屋は一つだけとなった。部屋というよりは物置と言ったほうがいいだろう。あまりにもきれいすぎた各部屋に対し、ここはどことなく汚れていた。


ドアノブには埃が付いていた跡があり、掴むのをためらわせる。


「お……だから……どうか」

部屋の中から声が聞こえた瞬間戸惑いは捨て、ラウラは勢いよくドアを開けた。


予想通り目当ての人物が居た。暗く小さな部屋に棚だけが置かれている。そこで二人は向かい合っていた。ルイネは膝をつくと座り込むペリアの手を掴み、うつ向いている、一見なんともないように見えるが、彼女の手はロープで縛られていた。


「誰?」

突如差し込んだ光に気が付かないわけがない。ルイネは強く言い放つと、顔元を擦り振り向いた。ぬぐって隠したようだが、涙を流した跡が見て取れる。しかし、ルイネの眼光は鋭かった。


「……ああ、あなたですか」

まるで予想していたかのような口ぶりだ。ここでラウラは一つの確信を得た。


「こんにちは。今日はあなたに質問と確認を……それと忠告に来たわ。このままだと、最悪な気分で虫唾が走る覚めを向かえることになるわよ?」


ラウラが軽く一礼すると、ルイネは苦虫を噛み潰したような顔をする。前とは違って嫌悪を隠す気がないのか、あからさまである。


「なんですか、それ?もう充分最悪な気分ですけど。それにこんな時にこのタイミングで、ボクがはいそうですねと信じるとでも?」


どこかで聞いたことがあるセリフである。ラウラは顔が引きつりそうになった。咄嗟に隠そうとしたが、この場では逆効果だ。ルイネのような人物にはかえってさらけ出した方がいい。


「その言い方止めてくれるかしら?こんな所で似た部分が出るって……はあ。あれと同じ問答を繰り返すなんて、嫌になる……」


ラウラの反応は予想外だったのか、ルイネは目を見開いて驚いている。


「ごめんなさい、取り乱したわ。あなたがわたしを信じるとは思ってない。先ほど言った通り、忠告よ。ただ心の片隅に置いておいて欲しいの」


「忠告だろうとなんだろうと。ボクはあなたと言葉を交わしたくない」

ルイネはそう言い切るとペリアの方へ顔を向けた。


「ねえ、ルイネ。ちゃんと聞いて欲しいの。ラウラちゃ「やめて!!」

ペリアが声を掛けた瞬間、ルイネは大声で怒鳴った。狭い部屋のせいか、それはよく響いた。


「お願い……ボク以外の存在と話さないで。本当は顔も合わせて欲しくないんだ。だからボクは……」

「ルイネ、落ち着くの。ペリアはちゃんとここに居るの」


腕を動かそうとしたのか、ロープが軋む音がする。


「そうだね。でもあなたは行ってしまう。色んな者に声を掛けられてしまう。必要ならボクが全部やる。だからペリアはもう外に出ないで」

ルイネは寂しそうに声を漏らすと、ペリアの肩を掴んだ。


「ルイネ、ゆっくり深呼吸するの。そうそう。それで聞いて。この村に居る限りペリアは「嫌だ!」

ルイネは手に力を入れた。あまりの強さにペリアの左肩が歪んでいるのが見える。


「……一人にしないで。置いていかないで。ずっとボクだけを見ていて。もう嫌なんだ。気持ち悪い熱を持った手でベタベタ触られるのは。無機質なペリアだけが……あぁ……ボクは……ボクは人形じゃない」


頭を抱えると、一人でブツブツとなにかをつぶやいている。どう見ても、ロッカの時と同じだ。おそらく理由もそうなのだろう。二人は保護者に執着し、自分だけを見て欲しいと願っている。


「そうだ……今ボクの手元には本物の生きた人形がいる。もうボクは二度と人形にはならな……」

酷く独善的な言葉であった。ルイネは途中で己の言動の罪深さに気づいたのか、ハッと言葉を止めた。


「ごっ……ごめんなさい。ボクはなんて酷いことを」

ルイネは肩から手を外すと頭を抱えた。ペリアはまた手を伸ばそうとしたのか、ぎしりと軋む音が聞こえる。縛られたこの状態で手を伸ばすのは不可能だ。ペリアはそのままルイネに寄りかかった。


「大丈夫なの。ルイネはただかわいそうな目に遭っただけ。きちんと間違いにも気づけるいい子なの」

肩越しに見えるペリアの表情はもちろん変わらない。だがその口調には、優しさがあふれているのを感じられた。

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