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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
二章 もがく者たち
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78:勇者は膝をつき、そして立ち上がる

ラウラは入口を通るために、歩みを進める。その前にはロッカが立っており、依然と通せんぼをしたままであった。ラウラのことを見ると、少し怖いのか顔を逸らしている。まだ屈服するつもりはないのか、せめてもの抵抗と口を尖らせていた。


「んっ、んだよ、ミニクソババアめ。ヒーローごっこかよ」


一見ロッカは明るく見える。だがその過去は暗く、根深いトラウマが確実に存在する。この村の者であるということは、そういうことである。

なにより、おちてきたばかりの時。彼女は自らの口で飢餓にあったこと、大切な存在が亡くなったことを言っている。今はそれを忘れるか誤魔化すかをして暮らしているのだろう。


「悪いけど、あなたに用はないの。そこ、通るわね」

「あがっ……が……」

少し強く言えばこの通りである。ロッカは器用にナイフを持った手で胸を抑え、膝から崩れ落ちた。少し危なっかしく、冷や冷やする動作だ。その隙にラウラは横を通過しようとする。


「大丈夫かっ!しっかりしろロッカ!このオレさまが付いているぞっ!」

カルボスは励ます為か大きい声で叫ぶ。その響くような声量に頭が痛くなり、ラウラは耳をふさいで足を止めた。その隙にロッカはゆっくりと立ち上がり、行く手をふさいだ。


「……そうだ。いまアタシは一人じゃない(・・・・・・)。ダチとおに……た、たのもしい仲間がついている。決して屈するものか!」

「もう膝はついていたと思うけど?」

ラウラが突っ込むと、ロッカは顔を真っ赤にして憤慨する。


「うっ、うるせえな。だからてめえはババアなんだよ。ガミガミ小言いっぱいの、口だけヤローめ」

無視することを諦め、ラウラはまじめにロッカの悪口を聞くことにした。


「頭きんきらきんのピッカピカー!」

カルボスも楽しそうに便乗し始める。

「いろいろとかがやき過ぎてまぶしいんだよ!なにさまだれさま、かみさまのつもりってか?」


「やーいやーい、なんか……そう!すごすぎるヤツめ!頭の良さを出しまくりだぞっ」

「そうだそうだ!かしこくて、きれ……あれ、なんかヘンだ。なあ、カルボス。いつのまにかアタシら、あいつほめてね?」

ロッカは首を傾げた。


「気のせいだっ!」

「そうかな……な、なんだよ。なんとか言えよ!?」

口を閉じ興味深そうに聞いていたラウラに対し、ロッカが突っ込む。


「あなたって、やっぱり根はいい子なんでしょうね」

前に罵倒されたときは驚いたが、きちんと聞いてみれば大したことは言っていない。カルボスの影響もあるだろうが、もはや悪口ですらない。


「は?キモいだけど。てっ、てめえ。ちょっとほめれば、どーにかできると思ってんのかよ?」

まさか図星をつかれるとは思っていなく、ラウラはすぐに答えることができなかった。


彼女の罵倒はある種の威嚇だ。表情を取り繕ったり、皮をかぶるようなよくわからない存在に対して行うのだろう。つまりラウラやカテリーナ、室内に居るはずの彼とも相性が悪い。それをうまく隠すか、彼女の大事なものを褒める。または素直に対応すれば、普通に接することができるはずだ。


「そうだぞっ。ロッカはなんか、めっちゃ手ごわい。もっともっと、褒めないとダメだっ!偉い!すごい!つよーい!かっこいーい!」

「へあっ……あ……い、いやあ。別にそれほどでも。ア、アタシにんなこと言ったって。なにも出ないけど?」

ロッカはどう見ても照れていて、かなり嬉しそうだ。このことから、ラウラはある確証を得た。


そもそもロッカは、わざとカルボスに傷つけさせた疑惑がある。ラウラは大きな街出身で、異形や獣人について詳しくない。だが、ロッカは所作や言葉遣いから田舎出身であることが察せられる。彼らがどのような害を及ぼすのか、知っていたに違いない。


他傷事件が起きたあと、ロッカはずっと体調が良くないふりをしていた。外にもほとんど出ていない。さらに今回の騒ぎで、言いかけていたことがある。

おそらく彼女はカルボスを兄と重ねて見ている、またはそう思い込んでいるのだろう。


カルボスはこの村で料理をすることを役割としている。毎日必要とされるため、割と忙しい。必然とロッカの相手をする時間も減る。すなわち、カルボスに構ってもらうために、前回も今回も騒動を起こしたのだろう。


僅かな間であるが、少し見ているだけで色んなものが見えてきた。今更であるが、きちんと自己紹介をして話し合えば、分かり合えるだろう。彼女が抱えているトラウマをほんの少しでも、和らげることができるかもしれない。人間が人間同士と手を取り合う。それは理想の結果だろう。ラシルドにとって。だからラウラはそうしたくなかった。


たいして付き合いのない自分よりも、まずは一番の身内と話すべきだ。

「ねえ、ロッカさん」

ラウラが話しかけると、ロッカは嫌そうに口を曲げる。


「これはこれは、ようございました。ラウラ様は大変お優しい。きちんと来てくださったのですね」

声がかけられた瞬間、ロッカは反抗的な表情から恐怖に変わった。後ろを振り向かなくても、分かる。同じような状況を一度見ているからだ。


「あ……が……あっ、悪魔ぁあああぁあ!!!」

「……あ」

ラウラの背後には、ヤギの獣人レザルタスが立っていた。

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