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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
二章 もがく者たち
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74:苛立ちと葛藤

今のラウラは非力だ。自分一人の力で、生きることさえできない。結局はフクロウに与えられた部屋に戻っている。帰宅時のラウラの酷い形相を見て、エミリアは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。


言葉で説得することができなかった。

あの時は、イデアに会うことで精一杯であった。苦手な魔法を行使し、血を多く失ったのだ。ラウラとイデアの体調は最悪であった。そんな状態で、まともに話し合いなどできるわけがない。


力で押さえることもできなかった。

もしイデアに魔法を使われ、暴れられたら、ラウラは到底かなわないだろう。そもそも同じ土俵に立てていなかったのだ。少なくとも、イデアを抑えられる程度に魔法を磨く必要がある。


そしてあの腹の立つラシルドに、一泡吹かせたい。できれば顎にでも、拳を叩きつけてやりたい。理不尽な暴力に遭い、それを嫌っていると言うのに乱暴な欲求があらわれる。



「屈服させたい……謝らせたい」

ラウラは魔法についての理論を書きながらつぶやいた。欲望を表すかのように、筆跡は荒くなる。その言動は見下していた、悪辣な貴族と同じであった。自身の本性は、やはり変わらない。嫌悪しているくせに、父親と自分はそっくりだ。ラウラはそれに気づくと、顔をしかめる。それを隠すように、手で覆った。


ラシルドが目の前にいなくなってから、少しは落ち着いたと思った。だが、あの存在を思い出すたびに、怒りが沸き起こる。

今、この場に居ないはずだと言うのに、気配を感じる気がする。あれだけのことができたのだ。きっと、村内の様子をのぞき見することくらい、たやすいだろう。


「……おかしいわ。なんでこんなに落ち着かないの?」

よく考えてみれば、あれほど怒りの感情を爆発させたのは変だ。ラウラは出自の事情から、表情を作ることができる。本来ならば、不服があろうとも感情を殺し、冷静に問うことができただろう。


ラシルドは特殊例の者たちに、精神作用を施していないと言っていた。それは嘘だったのだろうか?


実は自分が、特殊例に入っていないことを考えたが、ラシルドはラウラのことを、特別だと言った。それに、彼はあの場でやけにラウラを煽る言動をした。精神を操作できるのならば、その必要はない。

どんな意図をもって、あの行動をしたのか全く理解できなかった。


「あぁ……だめ、集中しないと」

ここで魔法を行使するつもりはない。だが、このままではいくら理論を考えても、前回の二の舞になるだろう。ラウラは次第に煮詰まっていくのを感じた。一旦筆を置くと溜息をつく。


「一体、なんなのかしら?」


たった一人の大切な友達を、蔑ろにされたからか。己の無力からか。ラウラは生きてきて、これ程までに怒ったことがない。


持て余す感情に、ただ動揺した。



「ラウラ様」

エミリアがラウラの部屋の扉を、遠慮気味に叩いた。開けることはせず、そのまま要件を告げる。


「アーシェ様とフィ「絶対に通さないで。今のわたしに、話す気はない」

ラウラは声を大きく遮った。らしくない言動に、エミリアは驚いたのか、少し間が開く。


「は、はい。承知しました。会う気がないことを、お伝えいたします」

「……ごめんなさい。お願いね」

向こう側に居る、エミリアの表情は見えない。だが、さぞ動揺しているだろう。ラウラは申し訳なさが伝わるよう、声に感情を込めた。



しばらくすると、エミリアは戻ってきた。

「お二人から伝言です」

「聞きたくないわ」

ラウラは即答する。

「その……ですが、どうしてもイデア様の事で。一言、言いたいことがあると」


ラウラが怒っているのは、ラシルドと自分自身である。アーシェや特にフィラインとは意見が合わなかったが、対立したいわけではない。ましてやエミリアを困らせることは、絶対に間違っている。


もっと誠実に落ち着いて接しなければ。言っても伝わるとは限らない。だが言わなければ何も伝わらない。ラウラはそう自分に言い聞かせ、胸を抑えながらゆっくり深呼吸をした。


「大人げなかったわ。言ってもらえるかしら?」

「ラウラ様は子供ではないですが、まだ大人でもありませんよ」

エミリアは気を使ってくれているのか、あくまで優しい。現時点、生活面で甘えている。これ以上負担をかけることを、ラウラはしたくなかった。


「イデアの現状維持は任せろ。そう言っていました」

らしい言葉だと思った。彼らにはおちてきてから、今まで保った実績がある。それにこの調子だと、人間以外の存在に驚くイデアをどうにか納得できたのだろう。


「分かったわ。ありがとう」

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