表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
二章 もがく者たち
73/82

72:平和な村の実情(上)

お待たせしました!前回のラウラは激怒した!からのギスギス回です。

「久しぶりだな、ラウラ」

ラシルドは吊り下げたイデアを肩に乗せた。

「いいえ、まったく久しぶりではありません」


少し前と同じことを話すが、全く異なる態度である。ラウラは怒りで瞳が吊り上がり、油断しないように気を張っている。ラシルドは高揚のあまり、常時口元が緩み、動きもどことなく浮かれている。


「いいや、我はずっと心待ちにしていた。数秒、数分が永遠にも感じる程だった。こんな感覚を覚えたのは、どれだけ昔だったことか」


「挨拶はどうでもいい。それより、言いなさい。何度も言わせないで」

「そなたは説得に失敗した。だから助けたまでだが?」

ラシルドは腕を組むと、イデアを乗せている肩の反対方向へ首を傾げた。


「あんなに雑に扱って、苦しめさせて、助けたとでも?」

ラウラの口調は攻撃的だった。それに対し、ラシルドは変わらず楽しそうに話し続ける。


「それもそうだな。これが善か悪か、他の者も交えて判断するといい」

「ラウラミド?」

何の前触れもなく、ラウラのすぐ横にフクロウが現れた。


「ちょうどいい、フクロウ。椅子を持ってこい。淑女のベッドに腰かけるのは、さすがに憚られる」

「それより、ラウラミドは……」


「そなたの子はどう見ても無事だ。いいから、行ってこい。レザルタスが何か言っても無視しておけ」

「随分とご機嫌なようですね……はあ、分かりました」

フクロウは不満げながらも、指示に従い姿を消した。


「イデア!?」


フィラインがやってきた。その後を追うように、バタバタと移動する音が聞こえる。これはアーシェだろう。

「なぜぬし様が……?」

「渡しておこう、そなたの大事な子だ」


ラシルドがイデアを手渡す。フィラインは壊れ物を扱うように、そっと抱きかかえた。それと同時にフクロウが玉座に手を当てた状態で戻ってきた。複数あるのか、前に見たものと同じかは分からない。


「お待たせしました。お望みのものです」

ラシルドはマントをはためかせると、座った。よく見る動作であるが、ラウラを苛立たせる。その横に静かに立っている、フクロウに対しても同じ感情を抱く始末である。それほどまでに、ラウラは怒りに満ちていた。


「さて、そろそろだろう。我が何を成したか、判断するといい」

「……ん……んぅ……んん」

フィラインの腕の中のイデアが身じろぎすると、ゆっくり目を見開いた。


「イデア!」

フィラインとラウラは同時に声を上げる。ラウラが近づいたせいか、フィラインは少し体を硬直させている。


「……え、ネコの……獣人!?」

逃げようと腕の中で暴れたせいで、落ちると尻もちをつく。

「な、なに?あ、あたしを食べてもおいしくないと思うよ」


器用にそのまま後ろに下がると、ラウラにぶつかった。

「うわっ、誰?」


イデアは振り向いて、ラウラの顔を見るとホッとした表情を浮かべる。

「よかった、人間だ……って、そんな場合じゃない、早く逃げないと」

「……え?」

ラウラは言葉が出てこなかった。自分だけでなく、フィラインも認識できていない。


「というか、なんで部屋に居るんだろ」

「イデア!」

アーシェが入口からその巨体を覗かせる。

「うわあああ!えっ、ネコよりずっとまずいって。クマとか会ったら即死……え、なにここ!」

正面だけでなく、背後にも視線を向けるとイデアの顔が青ざめてきた。


「異形……だよね?はじめて見たけど、多分。ほんと、ここどこなの?孤児院のみんなは……っひ、こわいって。無理無理無理ぃ」

そう言うとイデアは恐怖のあまり気を失った。倒れそうになるイデアをアーシェが支える。


今までの様子から、イデアはどう考えても記憶を消されている。それもラウラと出会ったあとの事、全てを。


「ふざけるなああぁああ!!!」「ありがとうございます!!!」

ラウラとフィラインは同時に叫んだ。


ラウラは真逆のことを言った、フィラインを睨みつける。彼はあまりにも恐ろしかったのか、後ずさって壁に背中をぶつけるしまつである。


「なぜ喜ぶ!?意味が分からない……己の存在を記憶から消されて、何が嬉しい!?」

「ひっ……」

「あまり脅すでない。まともな答えが得られんぞ」

ラシルドは頬杖をつくと、ニヤニヤしながら間に入った。


「あなたがそれを言うか」

「だが、事実だ」

ラウラはフィラインに視線を向ける。しっぽは足の間に挟まれ、情けない顔をしている。


「はあ……だったら、あなたを睨むことにするわ」

フィラインに背を向けると、ラシルドを見据えた。

「フハハ、それは嬉しいな。ずっと見てくれて構わないぞ?」

からかうような言い方にラウラは反応しそうになるが、そんな場合ではない。一睨みすると、流すことにした。


「……ごほん。さあ、答えてもらえるかしら?あなたが、なぜ、喜んだのか」

ラウラは喉を調整すると、できるだけ優しく聞こえるように演技した。

「た、確かに衝撃は受けた。だが関係なら、また構築すればいいだけのことだ」

「思い出させる、ではなくリセットするのね。今までの思い出は、ゴミ捨て場にでも捨てるのかしら?」


言葉は刺々しいが、口調は必要以上に柔らかい。その落差にフィラインは首を傾げるが、恐れることはなかった。

「悔しいが、イデアの為なら仕方がない。辛い記憶は全て消えた。思い出して苦しまないことを、この猫は喜ばしく思う」



「へぇ、そうなんだ……さて、ぬしラシルド。詳しく答えてもらえるかしら?あなたは記憶を消したの?」

「いや、違う」


「意外にきちんと答えたわね。そう、あなたは封印と言った。それって永遠じゃないわよね?」

「厳密に言えば、あれは記憶に封を施すというよりも、嫌な記憶を和らげる程度のものだ」

「それにしては強く見えたけど?ねえ、あなたも聞こえたわよね?イデアの叫び」


ラウラは端の方で、身を縮めているフィラインに声を掛ける。

「……あぁ」

フィラインは強者二人に気後れしているのか、か細く同意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ