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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
二章 もがく者たち
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68:奇跡を信じて

三人でアーシェたちの家へたどり着いた時、家は言われた通り燃えていた。しかし、不思議と燃え広がることはないようだ。

「フクロウに、あんたの所の子かい?来てくれたんだね」


ラウラの首が痛くなるほど大きいクマの獣人、アーシェが傍にやってきた。火に当てられたのか、少し焦げ臭い。背中の白い毛が少し無くなっている。


「はい。レザルタスには念のために、クラールスとその子が往診を呼ぶように。そして、ぬし様の指示を仰ぐように言っておきました」

「そいつはありがたいねぇ」


穏やかに話すアーシェの横から、ピリピリした気配がラウラに伝わってくる。

「フィライン、何やってんだい」

アーシェが話すと同時に、庇うようにフクロウが前に立った。このことから、ネコの獣人フィラインのせいであることは明らかである。


ラウラは道中共行動を共にしたが、話しかけられることは一切なかった。だと言うのに、なぜ今更このような態度を取るのかと、不思議に思った。

「救いを差し出す手を、叩き押すなと言いましたよね?」

フクロウは呆れたように言う。


「……ああ」

不機嫌なのか、しっぽをバタバタと動かす音が聞こえる。ラウラが少し前に姿を見た時、耳は折れ曲がっていた。返事もどことなく、そっけない。

「もしかして……はあ、困った子だねぇ。聞きたいことがあるなら、さっさと聞けばいいだろうに」


「イデアを助けてくれ」

「それは分かっているし、わたしも出来る限りのことはするつもりです。でも、まずは様子を聞かないと」

「………っぐ」


会って間もないにも関わらず、印象は最悪なようだ。おそらく彼はイデアの保護者である。その彼から嫌われているということは、イデアが自分のことについて何か言ったのだろうか。そんな不安が胸によぎる。


「こっ、このバカがあああぁあ!!」

アーシェは大声で怒鳴ると、フィラインの頭を殴った。獣の人というよりも、獣らしく力強い打撃である。そのまま彼は地面に倒れこみ、動かなくなった。

「あの……えっ?」


ラウラは獣人たちの身体能力の高さは何度も目にしている。しかし、純粋な力として他者に振るわれたのは見たことがない。桁違い過ぎる力の衝撃で、次の言葉を発することができなくなった。


「ごめんねぇ、フクロウの子。まさか傷つけようとするなんて。普段は完璧に抑えれてるのにねぇ。イデアの危機で焦ってるのもあるけど、人見知りなんだよ……まったく」

アーシェは笑顔で話すが、以前フィラインは動かない。


「ええと、アーシェさん?」

「なんだね?」

「フィラインさんは大丈夫なんでしょうか?」

「ま、そのうち起きんだろうね。余計なことをさせないように、弱らせたほうがちょうどいいし、頭も覚める」

「はあ……」


あまりに突然ことで、ラウラはなんと言ったらいいか分からなかった。しかし、よく考えてみれば昔こんな光景を見たことがある気がした。確か、兵士相手に話をしたとき、礼を欠く態度を取った者が殴られていたのを見たことがある。そのようなものだろうと、ラウラは自分を納得させた。


「今更だけど、あちしはアーシェで、そこで寝てるのがフィライン。二人ともイデアの保護者だよ」

この二人に挟まれて過ごしたイデアは、一体どうなっているのだろうか。ラウラは想像しようとしたが、できなかった。


「ラウラミド・レ・ミケランジェリと言います」

その場で一礼すると、アーシェが微笑んだ。


「随分と育ちの……いや、それより本題だね。道中軽く過程を聞いた前提で問おうか。あんた、これをどうにかできるんかい?」


いきなりそう言われて、はいと言える訳がなかった。穏やかそうに見えて、このクマの獣人は肉体派なのだろうと、ラウラは思った。


「先ほど言った通り、詳しく聞いてからです。これはイデアが魔法で生み出したもので、間違いありませんか?」

「そうだよ。二階からやけに響く声で詠唱をはじめたと思ったら、あっという間さ」


通常の詠唱は長い。いくらでも止める余地はある。それを出来なかったということは、できない理由があったからである。ラウラは嫌な予感がした。


「分かりました、一先ずわたしが出来る限りの方法で、試してみようと思います」


ラウラは燃える家の近くに寄る。過去に火で追い立てられた、嫌な記憶が脳裏に浮かぶ。だが、そんなことを考えている場合ではない。頭を何度か振ると、口の横に手をあてて、叫んだ。

「イデア!聞いて!あなたがドレミちゃんと呼んでくれた、ラウラミド・レ・ミケランジェリよ!」


しかし何の反応もなかった。それどころか、炎が揺らめき、飛びちった火の粉が頬を掠る。

「……っく、やっぱりだめね」


ラウラは後ろに下がると、フクロウの元へ戻った。

「ラウラミド、頬が」

先ほど熱を感じた頬を気にしているのか、手をあげると触れる直前で止めた。


「このくらい大したことないわ。それより、頼みがあるの。家に戻って、ヴァイオリンを取ってきて欲しいの」

「分かりました。すぐに戻りますが、気を付けてください」

フクロウはショールをはためかせて、目の前から消えた。


「さて」

意味はないが、ラウラは気合を入れる為に腕をまくった。その腕に視線を感じたが、気にしている場合ではない。再び火元に近づくと詠唱を始めた。


「……しもべであるこの者は乞い願います」

相変わらずラウラにとって、嫌いな文である。父親は力に溺れて気にしていないようだったが、冷静に考えれば同じであろう。雑念が何度も心に浮かび、追い払う。そんなことをしながら、ようやく詠唱を終える。


ラウラの視線の先に、水球が生まれた。前に行使した時よりも大きい。しかし、この火に対してはあまりに小さすぎる。それはそのまま下方に落下すると、ラウラの足一個分程消火した。


「やっぱり、だめね」

ラウラは溜息をつく。自分の力は良く分かっている。イデアがどうやって、一回で持続性のある広範囲の火を保っているのか、分からなかった。おそらくは捕らわれている間に発見したことだろう。


背後から二人の視線を感じる。後ろを振り向くと、フィラインの目が開いているのが見えた。言われることは予想ができる。イデアに対して、自分の力はあまりにも弱く非効率すぎる。


どうやって、イデアがここまで出来るようになったのか、聞きに行こう。戻ろうとすると、ラウラの目の前にフクロウが現れた。突然すぎて、止まることが出来ずにぶつかってしまう。

「いたっ」


顔を打ち付けたラウラは違和感を覚える。ぶつけた箇所はフクロウの腹部あたりである。今まで近づいたことはあるが、こんな硬質なものはなかった。何かを隠しているのだろうか。手を伸ばそうとすると、フクロウは後退り、ラウラにケースを突き付けた。


「……すみません。お持ちしました」

「ありがとう」

気になるが、今はそれよりイデアである。ラウラは大人しく受け取ると、ヴァイオリンを取り出した。


「イデア、聞いて!」

その場でラウラは演奏を開始する。もっと近づいた方がよく聞こえただろうが、燃え移ってしまうことを恐れたからだ。久しぶりだからか、複数の視線を感じるからか。こんな重要な時に、ラウラの指はよく動かない。薬指どころか、中指も固まっている。


たった二本の指では無理があった。曲の体裁すら保てない、酷いものである。それでもあきらめずにラウラは弾き続けた。幸い周りの者たちはあまり聞いたことがないのか、顔をしかめていない。ただ不思議そうな顔で二人は見ている。フクロウの様子は良く分からない。


最後まであとわずかという所で、ラウラの指は耐えきれず弦を落としてしまった。


「ああっ、ああぁ!!ありえない!下手過ぎる!」

悔しさと苛立ちでラウラは叫ぶ。その声を聞いたフィラインは、なぜかびくりと体を震わせる。


「そうよね、もっとうまく……せめて元通り弾けるようになってからよね。ごめんなさい、フクロウ。今のわたしではうまく使えなかったわ」

ラウラはケースにしまい込むと、フクロウに手渡した。

「いいえ、お気にせず。それよりも、無理はしないでください」


指の具合にフクロウは気づいているのだろう。ラウラは頷いた。

「フィラインさんのことを言えないわ……わたし、焦っていたみたい。きちんと協力を要請しないとね」

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