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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
二章 もがく者たち
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67:死なせはしない

イデアの言っていた、木の傍までたどり着くと、確かに籠の上に様々な食材が置かれていた。


まだ近くに居る確証はない。だが、フクロウなら受け取りが終わるまで、どこかで見ているだろう。フィラインは彼を呼ぶことにした。


「おー……」

声を上げようとして、フィラインは言いよどんだ。もしイデアが傍に居たらまずいうえに、フクロウがでてくることはないだろう。


まずは耳を澄ませて、気配を探る――なし。

目を見開き、辺りを見渡す――見えない。

家の窓から覗いてないか、確認する――いない。


「あだっ、いだだだ……お腹が、痛い!」

お腹を抱えて座り込む。わざと苦しそうな様子を見せて、隠れていないかを最終確認する。優しいイデアならば、演技が下手だろうと関係なく、駆け寄ってくるに違いない。


逆にこの程度で騙されることのないフクロウは、姿を現すことがない。ゆえにフィラインはこの行動を行ったのである。


イデアがきちんと家に居ることを確信し、フィラインは立ち上がる。森の方へ視線を向けると、目を閉じる。大事なイデアが不安であるという感情を放出しようとする。


「なんでしょうか?」

しかし、するまでもなく声を掛けられた。フィラインが目を開くと木々の後ろから、こっそり姿を覗かせるフクロウが居た。


「呼ばれるだろうとは思っていました。私も用がありましたから」


フクロウは移動する気がないらしく、そのままの位置から話し続けた。よく通る声のおかげで、難なく聞くことが出来る。


しかし、フィラインはそうもいかない。常にではないが、自分の声はもごもごしていて、聞きづらい自覚があった。


仕方なく森の中まで入っていくことにした。後で草木や虫が毛に付いていないか、確認することを面倒に思いながら。


「で、そっちの用ってなんだ?先に言ってくれ」

「お察しの通り、イデアのことです」

「へ?」

フィラインは全く察していなかった。てっきりクラールス殴り込みのことだと、思っていたからだ。


「以前言いましたよね、私の子が己の身を犠牲にするほど、大事な存在だと」

「……ああ!」

思い出すと同時に、フィラインの(かん)に障った。自分やアーシェの方が、イデアのことを大事にしているという、ちょっとした対抗心からだった。


「ここ最近イデアのことを見ていましたが、良くないように思えます。私が「だめだ!!!」


フィラインは言い終わる前に、無理やり割り込んだ。あまりにも珍しかったのか、フクロウから動揺の感情が伝わってくる。


それもそうだろう、フィラインはフクロウに対し、一目置いている。ラシルドと同様に敬意を持って接し、決して声を荒げるようなことをしないからだ。


「フクロウは、もう充分に手伝ってくれてる」

通常の役割に加えて、村民が集まればいつも取りまとめている。自分を含め、アーシェたちの為に食料を運び、不備はないか影から気を配っているのだ。


「大体は理解しているかもしれない。だが、あの状態のイデアをじかに見せることも、説明することもしたくないんだ」

真の意味で共有できるのは、アーシェだけでいいとフィラインは思っている。見ること自体が苦痛であり、イデア自身の負担になりかねない。


「それにさ、イデアに言ったんだ。大丈夫だ、この猫に任せろと。何度も、何度も、何度も!!フクロウの要請を受ければ別の者に頼り、あれだけ言っておいて、本当に何もしていないことになる。これ以上、返事だけの、中身なし野郎になりたくないんだよ!!」


フィラインは息継ぎも少なく、立て続けに話し終わった。そのせいで、呼吸が荒く乱れている。フクロウは慰めることも急かすこともせず、ただ落ち着くのを待っていた。


「興奮して、悪かった」

「いえ……これが変動ですか」

「なんだ、それは?」

フィラインは意味深な言葉に眉をひそめる。


「ぬし様の呟いていたことです。お気になさらず。それより、あなたの決意は分かりました。ただ、条件はあれども私は瞬時に移動できますし、とても便利だと思いますが?」

「そうだが、きっとイデアに吹き飛ばされて終わるだろうな」


「腕力において、私は貧弱ですからね」

「ははっ、違いない。この猫のほうが力においては、上回るな」

フクロウと同じように、茶化す対応を取る。


「ただ一つだけ、言っておきたいことがあります。私の子はイデアの状態を心配しています。きっと、いつか会うことを望むでしょう」

「その子はイデアとどういう関係なんだ?」

「察するに友人だったのでしょう。そして、償いをしたいと思っています」


昔は仲が良かったのかもしれない。償いという言葉が気になるが、おそらく辛い過去に相当するのだろう。


それはつまり、イデアがあれほど苦しんでいる記憶に、起因することになる。直接的ではないかもしれないが、会えば良くなるか悪くなるか。博打のような存在だ。




――これ以上悪化すれば、それは死あるのみである。




「頼む!例え望んでも、しばらくは止めて欲しい。できたらあまり考えないよう、心の片隅に置く位にしてほしい」

「私に子を思考誘導しろとでも言うのですか?」


「ほら!そこだ。どんな保護者も自分の子を最優先する。だから(・・・)フクロウに、イデアは任せられない」

フクロウの威圧的な態度に反抗し、揚げ足を取るようなことを言う。だが、それは事実であった。


「……ふう、分りました。私は現状維持に努めるとしましょう。ですが、本当にまずい時は呼びなさい。救いを差し出す手を、己が判断で叩き落としてはいけません。いいですね?」

「承知した。婆さんにもこの話は伝えておこう」





それからフィラインは努力した。もう一人の保護者である、アーシェと話し合いあらゆる対策を考えた。慎重に実行した。


一方でイデアとはなんて事のない、平和な日常を送った。素の彼女とは徐々に仲が良くなっているのを感じたが、肝心な所でどうにもならない日々が続く。



ある日豹変したイデアは、いつもより辛そうに見えた。泣き叫び、床に転がっているのはいつものことである。ただ、ほんの少し様子がおかしく感じたのだ。


叫びが長いせいか、心拍数が不安定なせいか、過呼吸のせいか、それは分からない。だが、それぞれが重なった結果フィラインはいつもと違う行動を取った。


議論と実験を重ねた結果ではない。衝動的に、倒れているイデアを抱きかかえた。暴れた拍子に殴られようが、お構いなしに、そっと包み込む。


「イデア!戻って来てくれ!」

同じように涙を流しながら、フィラインは叫んだ。動きが止まったように見えたのも束の間。


「戻……え、あ……これ……うあ……ああああぁぁあああ!!!」


渾身の力で、イデアはフィラインを突き飛ばす。


「狭い水桶、終わらぬ苦痛、水の魔法!」


その詠唱はいつもと違っていた。家の損傷を顧みず、フィラインの体が痛くなるほど、強い力で外へと押し出した。よれよれになった状態で、なんとか顔を上げるがイデアの姿は見えない。


「戦場の狼煙、燃え尽きぬ日々、火の魔法!!」


イデアの詠唱ははっきりと聞き取れた。二階の彼女の部屋からたちまち火の手が上がる。それはあっという間に家全体を包み込んだ。そして何かが倒れる音が聞こえる。フィラインはすぐ、反対側の窓の方に向かう。


「婆さん!!」

アーシェが倒れていた。背中に火が燃え移っている。フィラインは服を脱ぐと、はたいて消火する。幸い軽かったのか、すぐに延焼を抑えることが出来た。


「大丈夫か?」

「平気だよ。腰が温められて、なんだか良くなったような気がするくらいさ。それより……イデアだね」

「……この猫のせいだ……いつもと違うことをしたから」


フィラインはすぐにでも飛び込みたい気持ちで一杯だった。だが、その体を燃やすことは、アーシェのことから分かっている。何より、獣人の体は全身毛に包まれている。イデアを探しに乗り込んだとしても、たどり着く前に簡単に焼死してしまうだろう。


「あんたはイデアを助けようとしたんだろ?」

「だが、空回った」

「いつもと何か違うと思ったから、行動したんだろうねぇ。それがなかったら、もっと大変だったかもしれない。そうだと、あちしは思う」

「……………」



二人は大きな火に包まれている家を見つめ続ける。そして、しばらくすると気づいた。火は家を崩さない所か、周りの草木や薪も燃やしていないことを。


「あの火は、生き物だけを焼くんだね」

「イデアは中にいる!だったら」

前へ歩みを進めようとするフィラインの肩を、アーシェは止めた。


「風の時は身を包んでいることが多い。その魔法は行使者を傷つけていないだろ?だから、絶対にイデアは無事だよ。いいから助けを呼んできな。もうあちしらの手には負えない」


「でっ、でも!」

フィラインはこの場を離れることが心配で仕方なかった。


「でもじゃない!イデアを助けるために、助けを呼ぶんだよ。いいね?」


そしてフィラインは村中を駆け、フクロウの元へとたどり着いた。

これにて、フィライン視点は終わりです。

「57:巻き込まれた少女の苦悶」に繋がります。次話はその続きです。

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