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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
34/82

33:村外の事実(上)

ラウラとレザルタスは、およそ十分ほど村の端の方まで歩いて行った。最初は何軒か家がちらほら見えたが次第に何もなくなる。歩き進めるにつれて徐々に寒さを感じると、ラウラは腕を抱え背中が丸くなっていった。


道は平坦であったため、ラウラはある境から急に雪原が存在しているのを目にとらえていた。そこではじめて疑問に思った。


なぜ村のある場所は雪など積もらず、乾いた地面で厚着をせずとも過ごしていられるのか。それに対し、自分たちがおちてきた場所は雪原だった。あの場所は村外だったのだろうか?


おちてきて以来、それが当たり前の生活であり、不思議に思わなかったことに気づく。


「そろそろ境目だな……って、あ……わ、わりぃペリアの所でコート借りるんだったな。オレは何ともないからうっかりしてた。戻るか?」

「必要ないわ。これくらいなんともないもの」

「っつってもなー…うーん。まあ急げばなんとかなるか」


そう言うとレザルタスは上着をそっとかぶせた。肩にボタンで留められているマントは背丈こそないものの、上着より長いためラウラでは引きずってしまう。端を引っ張るとスカーフのように前で結んだ。


「これでいいな、ちょっと不格好だけどないよりマシだろ」

ラウラは昔からの習慣でされるがままになったが、ハッとそのことに気づく。しかし今更返すわけにもいかず、貸し出された衣服は分厚く暖かい。重いのが難点であるが暖かさには変えられない。


「借りてしまっていいの?無理していない?」

ラウラが首を傾げるとレザルタスは固まった。そして急に後ろを向くと頭を押さえている。


「え?やっぱり返した方が……」

服を脱ごうと手をかけた瞬間、レザルタスがくるりと振り返った。


「とんでもございません。わたくしは種族柄寒さに強いのです。ラウラ様の身を守ることは命令であり義務であり、そして自身の意思でありますから、お気にせず」

「え……急にどうしたの?」


ラウラはこの話し方の方が接しやすいと思っていた。事実そうであるし、レザルタスの素の状態には慣れつつあるが未だ馴染んでいない。

だがクラールスやラテと楽しそうに話しているのを見て、考えを少し改めたのである。


「さて、この先はわたくしが背負っていきます。振り落としても落とさせない自信はございますが、念のためしっかりつかまっていてくださいね。ラウラ様の力でしたら首を絞めても問題ありませんし」


レザルタスは突っ込まれたくないのか、ラウラが話す間もなく急に早口で話し出す。そしてその場に跪くと回転してラウラに背を向けた。


「さ、お乗りください。待ち人のためにも全速力で駆け抜けます」

その言い方はずるいと思いながらも、これ以上問答していても仕方がない。ラウラはぎこちない手つきで腕を回す。よくよく考えればおぶさるなど見たことがあるだけで、されたことが一度もないことに気づく。


「うーん……もう少し上に。締め上げるように力を入れてください……そうそう、いいですね。では、行きますよ」


レザルタスが飛ぶように走り出すと、急に肌が引き締まるような寒さを感じた。それと同時に寂寥感に苛まれる。寒さは予想していたが、これは妙であった。代り映えのない侘しい景色のせいかと思ったが、それにしても唐突すぎる。


今すぐ村へと戻り、暖かいベッドに飛び込みたい衝動に駆られる。そのためにはラウラを背負っていてくれるレザルタスを振りほどかねばならない。その事実に気づいたとき、ラウラは我に返った。そんなことは決してはいけないと。


目を閉じ呼吸を整え、しばらくすると落ち着いた。根底に寂しさは残るが今は一人ではないのだ。


「あ、ごめん。ラウラちゃん。ちょっとムリだ」


急に停止すると、急いでラウラを降ろした。大きな音をたてて、踏み込むとかなり離れた位置まで飛んでいく。こんな雪原に置いて、何をしに行くのだろうかとラウラが不安になったとき、まるで雷のような轟音が辺りに響いた。


そして、レザルタスの前にある木はミシミシと音をたてて、前方に倒れていくのが見えた。

「ぐ……あ……アアアァアアアアァアア!!」


レザルタスが大声で叫び始める。頭を抱えると、すぐにその場に座り込んでしまった。


「レザルタス!?どうしたの?」

ラウラは何度も呼ぶが、反応はない。


「メ……メェ……メエエ……」

やがてか細い声ではあるが、まるで動物のヤギのような声が聞こえてきた。いよいよこれはまずいだろうと、ラウラが一歩踏み出したとき、唐突にレザルタスは立ち上がった。


「ックソ!ふざけんな……ああ……胸糞わりぃ……」


ゆっくりラウラの方へ振り返ると、まるで憂さ晴らしかのように力強く地面を蹴り、ラウラの元へ向かった。あまりにも圧倒的な勢いにラウラはひるんでしまい、踏み出した足を後ろに下げた。それに気づいたレザルタスラウラの元まであと少しという所で制止した。


「……悪い……気持ち悪かったよな」

「ええ、少しだけ」

「………え」


ラウラは自分の気分のことについて尋ねられたと思い答えたが、レザルタスの衝撃の受けた顔を見て、間違いであったと気づいた。

「あ、違うの!その、わたしの気分のことかと思って。レザルタスが気持ち悪いとかではなくて……ええと、どうしたの?尋常ではない様子だったけど」


「……ああ、なんだ。そうか……よかった。今回はラウラちゃんも居るし、耐えれるんだと思ったんだけどな。境界を越えるとああなるんだよ。過去のトラウマがよみがえって、どうしようもなく不安になる。オレだけでなく村の皆全員が、だ」


ラウラは少し前、不自然な程気持ちが不安定になったことを思い出した。トラウマという点では一致しないが、きっとこのことだろう。


「そういうことね。すごく、嫌な感じだった」

「オレは何回も出てるけどよ、それでもこれだ。ぬし様とフクロウは絶対心配ないって言ってたけど、それでも……一回も出たことがなかったラウラちゃんにはきつかっただろ?」


「いいえ、レザルタス程ではないと思うけど」

「……えっ、マジかよ……二人が太鼓判を押すだけあるな。オレは心配で仕方がなかったってのに……本当に。ふう、大変お騒がせ致しました。では、ラウラ様。参りましょうか

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