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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
25/82

24:悪ガキの悪あがき

クラールスたちと供に歩いていくと、すぐにカルボスの家へ到着した。ドアのすぐ近くにカテリーナが立っており、ラウラたちに気が付くと駆け寄ってきた。


「あ、ラウラちゃん、こんにちは。クラールスもおかえり。後ろのかた……えっ」

レザルタスの姿を認識すると、カテリーナはクラールスの後ろに隠れた。


「大丈夫。黙るように言ってあるから」

「うん………ありがとう」


レザルタスは特に落ち込んだ様子もなく、ひたすらに無であった。まるでぬしの家に居るときのような態度にも見える。


「その、さっきあのような態度をとっておいてあれですけど、わたし、怖くはないから。その、落ち込まないで?」


ラウラが声をかけてもレザルタスは無反応であった。律儀に約束を守っているようだ。


「レザルタス?」


ラウラが呼び掛けるとしっぽがピンと立ち上がり、まるで犬のように左右にブンブン振った。ラウラはそれを確認すると微笑ましさに表情がやわらいだ。きっと大丈夫だろうと思い、カテリーナたちとともに、カルボス家へと入っていった。



「キサマたち!また来たのか!あっ……いや、悪い意味じゃなくて……その……あー、んんんっ……なんか飲んでく?それとも早めの昼ごはん?」

「今日はそうじゃ……いや、カルボスに先に話してからの方がいいか。カテリーナ、ラウラさん、大丈夫?」


「もちろんだよ」

「はい、最初からそのつもりだったので」

「だってさ、頼むよカルボス」


「ぷっぷぷぷー。クラールス!相変わらずの対応だな!レザルタスのことガン無視じゃーん」

カルボスは両手で指さすと、器用に眼窩の炎を曲げて弧を描く。そのおかげでどう見ても、からかっているのが分かる。


「さ、カテリーナは一番端に座って」

「あるぇ、オレ様のことも無視ですかー、はい」


クラールスは椅子をカテリーナのために引くと早々に座らせた。少しラウラと話をしたかったのか、ちらりと一瞥するがすぐに諦めたようだ。ギイと椅子がきしむ音がするとレザルタスが椅子を引いている。


「あ!」

ボーッとしている間にやられてしまったと、ラウラは少し悔しくなった。行き場のないこの感情を発散すべく、ラウラはレザルタスの為に椅子を引いた。

「どうぞ!」


ラウラは満足して目の前の椅子に座る。レザルタスの反応はない。彼には悪いが、話さないレザルタスは確かに接しやすいとラウラは思った。


「で、話って何?」

食後のお茶を飲んでいる時、カウンターの向こうにカルボスがやってきた。椅子を持ってくると丁度クラールスの前に座り頬杖をつく。


「あんたの所の子を診ようと思うんだ」

「ん?いつも来てくれてるよね」


「そうじゃなくて、その……僕のところのカテリーナが医師なんだ、だから……」

名前を呼ばれた瞬間、カテリーナはびくりと身を振るわせた。


「ほお!それはよかったな。外に出てきたってことは大分よくなったということか。うちの子も早くそうなったらいいんだけど……」


「ほら、カテリーナ。だから言っただろ」

「うん……」

「片付けが終わったら案内するからちょっと待ってね」

「わかった」



「ロッカ!きゃ」

カルボスが大声で前回と同じことを叫びそうになった時、クラールスはカルボスの頭蓋骨を取り外した。


「きゃ、ぎゃああぁあああ!な、なに?なんでえぇええぇ!?」


残った胴体が取り返そうと手を伸ばしてくる。しかし頭蓋骨はすぐにレザルタスに手渡された。無言でそれを受け取るとカルボスの目を覆い持ちなおした。


「事前に伝えておくことも考えたけど……言ってもきっと、どもるか同じこと言いそうだったからさ。この方が早い」


レザルタスも黙って頷いていた。仲が悪いようで呼吸の合う二人である。

「このクールウサギさんめ!伝えようよぉおお!意思の疎通大事だよ!?」


「カルボス?ねえ、何?また足の小指をぶつけたとかとれたとか?」

カルボスがその場で騒いでいると、部屋の奥の方からロッカの声が聞こえ、目の前のドアが開かれた。


「あ……」

ロッカは瞬時に閉めようとしたが、それは叶わなかった。なぜならレザルタスが足を挟み込んでいるからだ。


「え、なにこれ……は?びくともしないんだけど……って、悪魔ぁあああぁあ!!」

顔を上げ、レザルタスを認識すると、ロッカは大声で叫び声を上げた。そしてベッドに飛び込むとシーツを頭からかぶった。


「安心して、今日も診察に来ただけだから」

「ごほっ、体調悪いし気分最悪だから。早くその化け物連れて帰ってよ!」

「まあそこまで怯えるならすぐ退出させるけど」

「ア、アタシは動物アレルギーなの!獣人は全部ムリ!くしゅん。ほら、くしゃみが……いいから出て行ってよ」


くしゃみはどう聞いても自然なものでなく、棒読みである。ロッカはラウラとカテリーナのことに気づいていないらしい。


クラールスはカテリーナのほうを見ると頷く。レザルタスは心配そうに見つめている。しかし、クラールスが同伴しないのを見て決心したのか身を引く。カテリーナとラウラを残し退出した。


「ロッカ?ロッカー」

カルボスがロッカを呼ぶ声が鳴り響くが、すぐに聞こえなくなった。

「さて、診察の時間だね。よろしく、ロッカさん」


「は?女の声?」

ロッカが隙間から顔を覗かせ、カテリーナの顔を確認すると、シーツを投げ捨てた。

「誰?ババアが何の用?勝手に入ってくんじゃねえし」

「ば……」


カテリーナはロッカに罵倒された瞬間、硬直した。


「ロッカさん、彼女はカテリーナさんって言って女医さんなんですって」

「んっんー?誰かと思ったら、服も着れない何もできないお子ちゃまじゃん。正義の味方ごっこでもしにきまちたか~?」


ラウラは怒ったというよりも言葉を失った。今まで罵倒されたことは何度もあった。しかしどれも遠回しや皮肉めいたものばかりで、ここまで直接的な表現をされたことがないからだ。


昔イデアの友人だという下層出身の子供とあったことがある。彼らはあの時彼らなりに気を使っていてくれていたのだろう。ラウラは今はじめて理解することができた。


「ぷぷぷ、お嬢様育ちにはちょっと辛かったでちゅね。ほーら、べろべろばー」

ロッカは何度も赤子をあやすような態度を取る。二人はまだ固まっていた。


「さ、そろそろ帰れよ」

先ほどの高いテンションと声は一転し、低くなる。


「……私はさ、君みたいの散々診てきてるんだよね。まさかここにこういう子がいるとは思ってなかったからさ。ちょっとびっくりしちゃったよ、ハハハ」

額に手を当てて笑うが、目は笑っていない。


「何このババア、キモいんだけど」

ロッカの方からカテリーナの表情は見えていないのか、気にせず暴言を吐き続ける。


「いやあ、懐かしい。そういう子って、大抵処置を始めればおとなしくなるんだよね。痛い、もうしません。止めてくださいーって」

そういうとカテリーナは鞄から手袋を取り出し装着する。


「ラウラちゃん、ちょっとこれ持ってて」

カテリーナはラウラに試験管のようなものを渡すと、鞄の中から注射器を取り出した。


「ありがと」

カテリーナは注射器に中身を移し替えると、片手で構える。


「さ、ちょっとじっとしていてもらおうか?」

「は?え?なになになに、怖いんだけど」

ロッカは詰め寄ってくるカテリーナに距離を置こうとするが、やがて壁にぶつかり追い詰められた。


「ちょっと我慢しようね」

「ひっ、ね、ねえそこのヒヨコ頭、助けてよ!」

「頑張って、すぐに終わるから」


ラウラは片手でロッカの手を掴んだ。

「動いたら失敗しちゃうよ?腫れあがる程度で済めばいいけど、下手したら神経が傷ついて」

「ひ、いいぃいいい」



「うーん。診た感じだと内部損傷はなさそうだね。前に吐血したのは口の中を噛んだか何かかな。擦り傷等外部損傷はほとんど消えている。さすがクラールスだ」

カテリーナは満面の笑みで診察を終えた。


「っち」

「ん?何か言った?」

「ひえっ、う……何でもないです」

「喉の腫れも目の充血もない。ここで寝ているのが不健康なくらい健康体だね。しいて言えばまだ栄養不足気味だから、きちんと食事を取って適度な運動をすれば何の問題もない」


「い、言いつける気かよ」

「そりゃあ、ね。報告はしないと。君の保護者だって心配してるだろうし」

「あっそ……」


「ま、今日はここまでだね。また来るよ」

「二度と」

「何?」

退出しようとしていたカテリーナが振り向くと、ロッカは身を縮こませた。

「……すみません」

ラウラはカテリーナの後を追おうとしたが、ロッカに声をかけようと振り返る。


ロッカは中指を立て舌を突き出していた。

「その……お大事に」

ラウラは声をかけるとその場を後にした。

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