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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
24/82

23:診察に同伴しに行こう

ラウラは朝日とともに目を覚ました。珍しいこともあるものだと考えながら、上体を起こすとその場で伸びをする。久しぶりに悪夢を見ずに睡眠をとれたおかげか、ラウラはすこぶる快調であった。


昨日倒れかけた時、過労に心労が重なったのだろうと診断され、ラウラはすぐに家へと帰宅した。夕飯を取る気力もなくそのままベッドに倒れこむと、眠りに落ちてしまったのだ。


せっかく早く起きたのだから、今日は何をしようかと考えを巡らせる。昨日の出来事を思い出すと胸が重たくなるが、暗くなっている場合ではない。

朝食後にカテリーナたちと共に、ロッカのもとへ向かう予定であるからだ。自分の犯した罪や嫌悪に向き合うのはそのあとだ。ラウラはそう考えてまた先延ばしにすることにした。


そうやって、ラウラは自分の不安定な心を守った。



部屋の扉を開けると、きれいに片付けられている空間が目に入った。前と違い、机には花が飾られテーブルクロスも敷かれている。


まずは何か飲み物を飲もうとコップを探していると、後ろから戸が開く音が聞こえた。


「おはようございます。早起きなんですね。遅くなって申し訳ありません」

「おはよう!エミリア」


思っていたより大声が出てしまったのか、ラウラは顔を少し赤くすると、手で口をふさいだ。

「その、今までずっと一人だったから。よろしくね、エミリア」

「はい、ラウラ様」


それからラウラはエミリアに普段着を難なく着せてもらうと、部屋のシーツを整え始めた。少なくとも起きたときよりは幾分かマシであるが、クシャクシャなことに変わりはない。しばらく苦闘しているとエミリアが部屋の扉を叩いた。


「朝食の準備が整いましたのでいらしてください」

「いかがされましたか……?開けますよ」


エミリアが扉を開けると、そこにはシーツを複雑な形に丸め頭を抱えたラウラの姿があった。


「あっ、あの。えーっと。整えようと思って、その」

ラウラは塊を伸ばしてどうにか戻そうとするが、大した変化にはならなかった。

「そちらは後で洗濯いたしますからお気になさらず、放っておいてください」

「……はい」



「これ、すごくおいしい。いったいどうやって、こんな上手くできるのかしら」

ラウラは心からそう思い発言したが、エミリアは独り言ととらえたようだ。返事がない。


「エミリア?」

「すみません、ぼーっとしていましたね。なんでしょうか?」

「もしかしてエミリアって朝に弱い?」

「いえ、そんなはずはないのですが」


「具合が悪いのだったら診てもらう?女医さんを紹介できるけど」

「そこまで深刻ではないので。必要になった時はお願いします」


エミリアは力なく微笑むが目は笑っていない。顔色もほんの少し良くないようにも見える。きっと自分と同じように、毎晩悪夢を見ているのだろうとラウラは考えた。



「それでは行ってきます。どのくらい掛かるかわからないから、お昼は向こうで食べていくね。体調が悪いと思ったら無理しないで。わたしが起こしてしまったのもあるし、お昼寝するのはどうかな」

「ありがとうございます。少しずつ良くなってきましたので、もう大丈夫です」

「そう……気を付けてね」


ラウラは後ろ髪をひかれながら、家の戸を開けて前へ踏み出すと、さらさらした筋肉質な何かにぶつかった。


「わっ、何?」

「おっと、呼ぶ前に出て来たか。調子はどうだ?」

ヤギの獣人レザルタスが、少し屈み込むとラウラに視線を合わせた。


「わたしは何とも。ただ、え……」

後ろを向くと、エミリアは真っ青な顔をして首を横に振っていた。視線がレザルタスの方にあることから、彼が苦手なのだろうと判断した。前へ向き直ると同じく、レザルタスも硬直している。


「いやあ、誰が悪いってわけじゃないけど。そ、そうだ今日はフクロウいないよな?」

「はい、あれから帰ってきてないと思いますけど」


「ならいいや。よし、行こう行こう。カルボスの所だろ?」

先を歩くレザルタスを気にしながら、ラウラは一度エミリアの傍に戻った。


「大丈夫?」

「え、ええ。少々あの方が苦手なだけです。行ってください」

「わかったけど、気を付けてね。行ってきます」



後を追うが歩幅が違いすぎて全く追いつかない。やがて追従することを諦めると、レザルタスがくるりと振り返った。


「あ、いけねえ」


レザルタスはすごい勢いで走り出すと、とび上がりラウラの横へ着地した。ドスンと地響きが鳴り響き、すぐ近くの家から「うるせえぞ」と怒鳴り声が聞こえた。


「悪い悪い」

クラールスより力はあるが、彼ほど長く軽やかに跳躍はできないのだろうと、ラウラは考えた。


「無駄に歩かせてごめんな、さ、乗った乗った」

レザルタスはその場に膝をつくと背中を叩いた。下方を向いているせいか、瞳孔が半回転している。


「えっ、結構です」

「うっそぉ………い、いや細かいこと気にすんなって!それとも抱えた方が」

「本当に必要ありませんから」

「それじゃあオレが来た意味って……」


「ぬし様に健勝であることを伝えて頂ければ、充分ですので」

「なんか距離あるなー、前も思ったけど。もしかしてフクロウに何か言われた?」

「いえ、とんでもない」


ラウラにとってレザルタスは、下町によくいるような距離感の掴めないタイプである。今までそのような者とは殆ど会話をしたことがなく、どう接していいのかラウラは考えあぐねていた。


「うーんやっぱりオレ怖い?でもあれは役割上仕方なくというか。あ、もちろんぬし様が悪いわけじゃなくて」

「あの、本当に結構ですので」


「っは、レザルタス、何やってるの?」

肩に手は届かなかったのか、レザルタスは後ろから蹴られた。しかしびくともしていない。


「なっ、おい!クラールス何すんだよ」

案の定レザルタスは痛いと言うことはなかった。


「頑丈が取り柄なんだからそのくらいなんともないよね?それよりどっか行ってくれる?」

ウサギの獣人クラールスが腕を組んで立っていた。


「出会い頭にそれ酷くね?」

「カテリーナが怖がるから、付いてきてほしくないんだけど」

「オレは!ラウラちゃんの様子を見なくちゃなんねえの!」

「カルボスやカルボスのあの子は、別に危害を加えないと思うけど?」


「んなことわかんねえだろ。特に後者は……それにカルボスもクラールスも、いざってときは自分の所の子を最優先するに決まってんだから、オレは必要だ」

「はあ、仕方ないなあ。だったら後ろの方で黙っていてくれる?」


「へーへー、わかりました」

「本当にわかってる?それでなくても君の姿を見たらカテリーナは……」

「わかったって!以前にもましてしつけえな」

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