22:不適格な罪と過去(4)
広い部屋にラシルドだけが残されていた。溜息をつくと、マントをはためかせて座りなおし、顎に肘を付けた。
「戻ってきたか」
左手で肘を抱え、うつむいた状態でカテリーナがゆっくりと歩いてくる。
「よくクラールスを置いてこれたものだ。あいつはしつこいだろう?」
「私が必要な処置はなかったようなので。少しお手洗いに行くと言っておきました」
「なるほどな」
「その……なぜ」
「心当たりがあるから、そなたと初対面時に言ったことに応えたのだろう?安心せよ。クラールスはおろか、他の誰もこれを聞いてはいない」
「私はこれからどうなるのでしょうか?」
「言った通りだ。医師として尽くせと。それに我の呼び寄せは先ほども言った通り穴がある。そして、こうも考えている。好きなことをしたい人がそれを行い、貨幣が必要のない場を作りたいと。そなたはそれに引っかかったのだ」
「ですが、私は……私は!」
「まだ溜め込んでいるのならばもっと素直に言えばいいものの。なんだ、実は実験を楽しんでいたことか?ニンゲン以外も解剖したことがあることか?それとも治癒魔法が使えることか?」
「そ!そ……そこまでご存知でなぜ……」
「聞けば想像は付く。到って普通の人物があんな目に遭えば大体まともでいられない。楽しむか狂うしか選択肢はない。それに先ほどの話にはいくつか穴がある」
「話忘れたという可能性……とか」
「この場に及んで言いよどむか。まあいい、あの後弟の腕はどうなったか。弔ったなど、言っていない。おそらく解体したのだろう。息を吸うように行ってきたことだからな」
「違います!私がはただ何をされたのか……原因を知りたくて……笑ってなんか…楽しんでなんかいないんです」
そう言うと、カテリーナは手で顔を押さえた。その隙間から見える口元は歪んでいるように見える。
「ふむ。まあ、そう言うことにしておこうか。次にどうやって治癒魔法を得たのか。おそらく生体実験の過程だろう。魔法行使者自身を外科手術で強化し、魔法で補助などおっと、これ以上はそなたの体調に支障をきたしそうだ。ここまでにしておくか。ともあれ術中は不安定な状況に陥るのだから、聞き出すことくらいするだろう」
「なぜそこまでわかるんですか……まるで見て来たかのような」
「ニンゲンの所業には大体想像がつく。今や魔法はニンゲンのものになりつつあるからな。それに我には優秀な目がある」
「医師であることだけでなく治癒魔法のことも開示したほうがいいのでしょうか……私は」
「そなたの懸念は当たっている。魔法に関してはそなた以外に使えるものが居る。秘匿せずともいずれ明らかになるだろう。今わざわざ開示する必要はない」
「承知いたしました。ここまで知られているのでしたら、もう隠し立ても誤魔化しもしません。申し訳ありませんでした」
「謝ることはない。そなたが今罪なき者を害する人間でないことはわかっている。ただ一つ誓ってほしい」
ラシルドはゆっくりと人差し指を立てた。
「どんなことに愉悦を持っていようといい。それを嫌々やらずに楽しむというのも、条件の一つだったのだからな。ただクラールスとラウラ。そなたに信頼を寄せた者を決して裏切る真似はするな」
「……仰せのままに、ぬし様」




