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異形とニンゲンたちの共同生活  作者: 猫御使みーる
一章 おちてきた者たち
22/82

21:不適格な罪と過去(3)

妹を見守ることができなくなるのが心残りであることを告げ、それでも恩を返す為受けると答えたカテリーナはある場所へ連れていかれた。


昔懐かしい安置所である。そこでカテリーナは持ち運ばれた遺体の損傷状態、解剖時のスケッチをするように申し付けられた。

この時はまだよかった。昔やっていたこととそう大差はなかったからだ。


例え妙な傷がついていようとも、無法者の遺体を数多く見てきたカテリーナにとっては大したことではない。さすがに真っ黒に焼け、人間であった頃の名残が全くない遺体は辛いものであったが、どうにかやり遂げた。


この時点で何人かの医療従事者が行方をくらませた。


次は今すぐ死んでもおかしくない者たちが運び込まれた。どう扱ってもいいから治せと申し付けられた。無茶な要請であったが死力を尽くしたにも関わらず、ほぼ全員と言っていい人間たちが命を終わらせた。中には今まで使用実験をしたことがない薬物を投与せざるを得ないときもあったが、成功したのはほんの一例だ。


遂に生きた人間が運び込まれた。どこの部位をどう傷つけどの程度まで耐えられるか。どこまで人の手で戻せるのかの実験を申し付けられた。

戦時下とは言えこれには反発する人が多くカテリーナも当然その中の一人であった。


出ていくとき恩師に何度か止められたが、さすがに殺人まがいのことをすることはできないと断った。彼は目を細目ながらその後なにも言わずにカテリーナを見送った。


帰宅後、広くなった家の中央に四角い箱が置かれていた。中には黒ずんだ腕が一本仕舞われていた。その腕自体はただの不気味なものであったが、指には見覚えのある指輪が付けられていた。


弟が身に付けていたものである。カテリーナは指輪選びに連れていかれたので、その形をよく覚えていた。


半狂乱でカテリーナは走った。走って、かつて男装女医をしていた貴族の家へと向かった。カテリーナを見いだしてくれた婦人はもう亡くなっており、夫も息子もすでに戦争で亡くなっている。残された娘がこう言った。


「もう古い医師など必要ない。今は新しい魔法医師の時代であると」


事実町のどこかしろに存在した医師の姿は消え、魔法医師に取って変わっていた。それならば残りの人生は慎ましく妹の側で生きようと、カテリーナは自宅に戻った。自宅には見慣れない一通の封筒があった。そこにはこう書いてあった。


「今日下町のパン屋が燃える。妹の身も望めば今すぐにでも。止めたければもとの場所へ」

直後家からすぐ見えるパン屋が、爆発といっても過言では無いほどに燃え上がった。


「ああ、戻るしかない」

カテリーナはそう呟くと自ら逃げ出した安置所へと舞い戻った。


そこでは引き続き当初予定されていた実験を行った。何人もの人間たちが無駄に死んでいった。さらに実験はエスカレートした。麻酔が薄い場合、ない場合。そして遂には魔法を用いた混合実験も行った。


魔法の代わりとして医療は使えるのか。魔法の傷と人為的な傷を受けた場合どちらの治療がより適しているのか。外科手術を施行し、互いの部位を交換接合した後魔法による治癒でどう回復するのか。


どれも優れているのは魔法であった。強いて言えば魔法で治癒をしたものはその後の体調を崩したり、短命である気がしたがそれを報告すると一蹴された。

カテリーナたちは、己の存在価値がどんどんすり減っていくような心地である。


そして魔法を使うものたちは決して治癒魔法を教えることはなかった。詠唱時はいつもごまかすように呟くか大声でわからなくするかのニ択であった。


ようやく解放されたのは、戦火がカテリーナの住む地を襲った時だった。妹の住む家はあっという間に消し炭と化し、近隣の住民たちは逃げ惑う。


徒歩で逃げることなどできず、家族を失ったカテリーナに動く気力はなかった。


「もうこんな世界は嫌。どこか遠くへ連れていってほしい」

その瞬間辺りは光輝き砕かれ、床どころか地面に穴が空いた。落ちていく。そう思ったとき、カテリーナは雪原の上へと倒れこんでいた。



カテリーナの話が終わったとき、ラウラは目から涙がこぼれ落ちるのを感じていた。


自分の父親が、ラウラ自身が行ったことにどう影響があったのか、分かっていたつもりで分かっていなかったのではないかと考える。自分を再び責めそうになるが、少し心配そうにフクロウが見ている。レザルタスも同じく見ているが、感情が今一つ読み取れなかった。今はそんな場ではないとぐっとこらえた。


「ふむ、確かに我の呼び寄せには穴がある」

「ですが!待ってくださいぬし様」

ウサギの獣人クラールスが掴みかかりそな勢いで立ち上がる。それを取り押さえようとヤギの獣人レザルタスが動く。

「お止めなさい。まだ必要ありません」

フクロウが腕を伸ばして制止した。


「承知いたしました」

レザルタスが後ろに下がると再びラシルドは口を開いた。

「ふ、クラールス、そなたは本当によく変わってくれたな。我は大変喜ばしく思うぞ」

くくくと含み笑いをするとぬしは顔を上げた。


「そして我の呼び寄せの第一条件は、迫害され深く傷ついていること。次に村に必要とされかつ適性のあるものが、この地に住まう資格を持つことになる。今回はやけに人数が多いうえに、瞬時に現れたがそれに間違いはない」


「つまりそなたはただの被害者だ。そうであろう?クラールスよ」

「は、はい!」

「お心が広すぎます……私はここに落ちた者の大半とは違い、害を与え搾取する側だったんですよ」


「まだ自分を責めるのであれば納得できるまで精々この村へ尽くすといい。この村にたった一人しかいない医師としてな」

「ラウラミド?」


フクロウが声をかけたと同時に、ラウラは力が抜け後ろに倒れこみそうになった。

なんとか押し戻ろうと、足に力を入れるがどうにもならない。体を打ち付ける寸前、サラサラした何かが背中を支えて事なきを得た。

「……あ……ごめんなさい。無事に話が終わったと思ったら気が抜けて。大丈夫、自分で立てます」

「まだ万全の体調でないのだろう。別室で少し休んでから家へ帰るといい」


レザルタスはラウラをそのまま持ち上げると、退出した。

「私も失礼いたします、ぬし様」

フクロウがその後を。

「ラウラちゃん大丈夫?」

カテリーナ、クラールスが続いた。

次話でカテリーナの罪編は終わりです。日常に戻ります。

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