19:不適格な罪と過去(1)
カテリーナはフォルツァ家の長女であり長子であった。
しかし家督を継ぐのは幼い長男であり特にそのことに疑問も抱かず反発もせずおよそ十歳まで安寧とした毎日を送っていた。
そんな彼女の生活が一変したのはちょうど妹が生まれた年のこと、家が没落してしまったのだ。原因はお人よしの父親が騙され大量の借金を負ったこと。それに耐えることができなかった父親は家族に心中を迫るが、拒否した母親が子供たちを連れて逃げ出した。
その後、父親は一人首を吊った。
この命をもって借金を帳消しにしてほしいと遺書が残してあったが、当然それが叶えられることはない。家財道具事ごと家は没収され、新しい家を探していたカテリーナたちは身ぐるみを剥がされ、ボロ着の状態で完全に貴族から追放された。何とか住む場所を見つけたが、今まで清潔で安全な暮らしをしていたカテリーナ達には厳しい生活だった。
母親は生まれも育ちも貴族ゆえに貨幣を稼ぐことはできなかった。しかしその代わりに弟とまだ幼い妹の面倒を見て、慣れない家事を四苦八苦しながらやり遂げていた。そんな傍らでカテリーナはなんとか金銭を工面しようと動いていた。端から返済を期待されていないのか、それとも哀れに思ったのか取り立ては頻繁に発生しなかった。
しかしまだ莫大な金額の借金が残っているのは事実だ。自身の身ごと売ることも考えたが、カテリーナはひょろひょろと痩せていて、中性的な容姿だ。高い金額を払う顧客たちにとってはあまり価値も需要もない。
何よりそんなことをするか、その前に露見したら母親が精神的にどうにかなってしまうことは確実だ。家族に背負わせたくなかったカテリーナは必死に探し、ようやくある働き口を見つけた。
それは遺体安置所での雑用だった。主に最下層の人物や不幸な死に方をした者の後処理だ。カテリーナはまだ子供であるため一人で全てを行うことはできない。しかし、なんでもやる雑用助手として重宝されていた
。
やりたがる者は多くない。特に父親と同じ死を迎えた者や、依頼で死者の中身を壺に移し替えるときは何度も発狂しそうになった。賃金はこの年の子供として破格であり、家族がまともに生活できていることを糧にカテリーナはやり遂げた。
そんなことが数年続き最早解体に関して手慣れたカテリーナは医師助手になるための試験を受けることにした。身分に応じて会場が分かれていたが、カテリーナは当然貧民医の方に分類された。
そこでカテリーナは満点の成績を叩き出し、興味本位で与えられた貴族の用の試験でも好成績を収めることができた。その後特別に何人かの試験管と面接をし、後日呼び出されたカテリーナは貧民、貴族、双方の医師助手として働き始めた。
それから十八歳になったカテリーナは限界を感じていた。看護や実際に相対する技術は学べたが賃金は以前に比べたら少なすぎる。同じ時期に助手になった仲間たちはとうに医師として一人で動いている。
そろそろ学校へ行ける年齢となった弟の費用も工面しなければならず、さらに慣れない環境が続き母親がついに身を壊し薬代を稼がなければいけない。なりふり構っていられないとカテリーナは独立することにした。
しかし医師仲間からは反発を受け、露骨な嫌がらせを受けた。いやいや頭を下げるかまた安置所に戻ろうかと考えていた時、不思議になことにあれから一度も会うことがなかった当時の試験管の一人と再会した。カテリーナは童顔というより幼少時から顔面の変化が乏しい。それが幸運だったのかもしれない。
今までのことに憤った彼はあらゆる嫌がらせ、妨害、中傷等からカテリーナを守った。そのお礼に今後何かあった時必ず助けると約束し、ようやくカテリーナはまともに医師として活動し始めることができた。
だが、行動に制限はなくなっても相変わらず、カテリーナが必要とされることは少なかった。開業医として自分の診療所を持てば、安定した収入は得られただろうが、そもそも建てたり借りる金銭がない。
出張医か貴族のお抱えになるしかなく、後者は夢物語のようなものである。たまに医師として助けを求められても、患者は始終嫌そうな顔をしていた。腕に不足があるわけではない。現貧民元貴族という微妙な境遇に加え、ほぼ存在しない女医であることが、信用を得られない要因であった。




