64話 私の識らなかった一人
それから一週間。
いやぁ、月曜日君は強敵でしたね?
一度は壊滅しかけた勇者琴音ちゃんパーティだったけれど、みーちゃんの癒しの波動により何とか立て直して、真がいいところで放ったボディブローがじわじわと効き始めたのか、動きが鈍くなったところに誠治のメラ○ーマ……いや、あれはただのメ○か。
そして、一馬がありったけの力で放った槍の一撃が決定打となり、隙を見せたところ、勇者琴音ちゃんの渾身のギガ○ラッシュ! あの時、みんなが元気を分けてくれていなければ負けていたよ……。
そして世界は平和になり土日という名の安息日を全身で享受し弟ニウムを存分に摂取した私は、再び月曜日という魔王と相対していた。
1週間で蘇る魔王ってそれどんなクソゲ? 勇者にこそ休息を与えてあげて欲しいのです。みんな酷使し過ぎだと思うんだよね。
てゆーか、平日五日、休日二日。
これってさぁ……おかしくない?
せめて三対四くらいにしない? いやもう平日二、休日五でも良いよ。何なら平日という概念を消滅させて毎日を休日にしてくれてもいい。
しかし、世の中は働くのが大好きなワーカーホリックだらけ。そんな未来が来ることはあり得ない……。
こうなったら勇者改め魔王琴音ちゃんにでもなって世界から平日を無くしてしまうべきか? きっとちい○わの世界みたいに平和でほのぼのした世界になる気がするんだよね。
いや……なんかキメラ化する人が現れて世紀末な世界になりそう。そのうち笑いながら爪を伸ばして振りかざしてくるに違いない。こうなったら、もう、ね?
やっぱり平日が無いのは良くないかもしれない。何事もバランスというものが大事なのだ。
あぁ、働いてくださっている全ての皆様、本当にありがとうございます。
琴音ちゃんは皆様の労働によって生かされています。
なのでこれからも私の代わりに頑張ってください。
私は学校へ行きます。
「琴ちゃん、相変わらず賑やかだね」
「あれ? 声に出してた?」
「んーん、何も言っていないよ?」
隣を歩くみーちゃんが、いつもの聖母スマイルでくすくすと笑っている。
前回の件といい、やはりこの美少女、私に対してだけ何らかの特殊能力が発現しているのではなかろうか。
「だって琴ちゃん、さっきから百面相してるから」
「顔だった!」
そっか、顔か! よかった!
超能力なんて眉唾故、そうそうあってたまるかって話なのよね!
まぁ、私の存在自体ふぁんたじぃなんですけれどね。
「それより、今日だね」
「今日?」
何やら楽しそうにしているみーちゃんが唐突に告げる。
今日、今日って何かあったっけ? 宿題もないはずだし、OPEN琴NEAI特製のAIが脳内情報を整理してくれたおかげで、今度こそやらないといけないこと、持ってこなきゃいけないものは無いし、ついでに特にイベントも無いよ! って教えてくれたからね。
ふふ、私特製のAI羨ましいかな? 時代先取り系美少女、いや、お姉ちゃんとして世界に名を馳せるのもそう遠くないかもしれない……。
「転校生」
「ア」
おい、早速ハルシネーションしてるんですけれど????
”ごめんね! 間違えちゃった! みーちゃんの言う通り転校生が来る一大イベントがあるんだよ! でも、AIだって間違うんだよ! AIを完全に鵜呑みにするのはネットリテラシー低めかも! よっ、情弱琴音ちゃん!”
くそっ!
自分のAIにぼろくそ言われてしまった……!!!
AIっていつもそうですよね! 正しいって言っておきながら指摘するとあなたの言う通りです!って!
しかし、忘れていた。
いや、正確には忘れてはいなかったんだけれどね。ただちょっと脳内の片隅に押し込まれていただけ。あまりにも綺麗にフラグ回収しちゃったから、一級……いや、特級フラグ建築士に昇格してしまった元凶から目を逸らして日常を満喫していたんだよ。
先週、凩先生から告げられた転校生。
神代優。
自転車でひき逃げしそうになるっていう最低な出会いから始まって、何かと縁があり、気付いたら何故か友達になっていた。ほんとなぜ?
そんで、少し気恥ずかしいやり取りの後に名前で呼び合うことになった、ふにゃふにゃ系イケメン男子。
今日からそんな人物が同じ学校で、しかも同じクラスに来るらしい……ふむ、これなんてギャルゲ? あ、私が主人公なら乙女ゲ? いや、いやいやいや、ちょっと場面を想像したら拒絶反応が出てきちゃった……私は理想の姉になるべくして生まれた乙女ではあるけれど、乙女ゲの主人公という器ではないというか、男と付き合うとかいちゃつくってちょっと無理無理カタツムリ。その証拠にほら、何か鳥肌立ってるし。
うげー、って何か苦虫を嚙み潰したような何とも言えない表情を浮かべてしまう。
「……なんでみーちゃんが楽しそうなの?」
「ふふっ」
「またそれ?!」
まったく、私は微妙な気分だって言うのに、一体何がそんなに面白いんですか。まさか?! 今日一日、私と優君を見て楽しもうとかそういう魂胆ではあるまいな?
……ありそう。
みーちゃんならありえそうで怖い。むしろ既に観察用の双眼鏡とか用意してて、姿が見えない時は遠くから監視しているなんてこともしてそうだ。
学校の教室で双眼鏡は倍率高すぎて逆に見づらいと思うけど。
「琴ちゃん」
「はい?」
「楽しみだね?」
「……まあ、うん」
そう答えると、みーちゃんは少しだけ目を細めた。
うーん、なんだろう。
私をからかっている時の笑顔とはちょっと違う気がする。いつもの、私を見守るみたいな……うー、なんかむず痒くなってしまう顔だ。
「琴ちゃんが楽しみなら、私も楽しみ」
「もー、なにそれ」
「そのままだよ?」
「……そっか」
うん。相変わらずよく分からない。
けれど、まあ、みーちゃんだしね。
そして私は、考えることをやめた。
教室へ入ると、普段よりも明らかに騒がしかった。とはいえ、うちのクラスは元々静かなクラスというわけではない。
真みたいなのもいるし。
真みたいなのもいるし。
あと真みたいなのもいる。
全部真だ!
全部! 全部! 全部だ!
まあ、それはともかく、今日はいつもの朝とは違う種類のざわざわ感が教室中を飛び交っている……そんな感じがする。
「今日だろ? 転校生」
「東京からだって」
「どんな奴かな」
「男なんでしょ?」
「イケメンだったりしてー」
と言ってもその原因はすぐに判明した。
まぁそうだよね。転校生。転校生って言ったら学生が憧れるイベントの一つ。非日常感を味わうための劇薬みたいなもの。昨日まで存在しなかった新キャラクターが、突然レギュラー枠へ参戦してくるんだ。マンガだったら見開きでドカーンと表示されて、次のコマからは主要人物になってもおかしくない。
ゲームなら仲間加入イベント。種泥棒にならないかどこか不安を抱えながらもどんなステータスか気になるところ。
ソシャゲならピックアップガチャ。ただし、最高レア排出率は据え置きなので中々出てこない。あいつは10連で出ているのに私は290連で天井目前。世界の全てが憎い。隣の芝はいつだって青いのだ。
そしてそんな彼の事前情報は東京から来る男子というだけ。
そりゃ皆気になるよねぇ。
あ、私は知ってますけど^u^。
「お、琴音」
「おはよー真」
席の近くで誠治と一馬と話していた真が、こちらに気付いて手を上げる。
「なぁ琴音。今日誰が来るかとか、なんか知ってる?」
「えぇー、知らないなー」
私に振るな、私に。
もろちん知っているとも。知っているけれど、取りあえずはぐらかすことにした。
べ、べべ、別にやましいことなんて何も無いんだからねっ! ただ単純に色々聞かれて説明するのがめんどくさくて知らんぷりしてるってだけなんだからっ!
「いやいや、その反応絶対知ってるだろ」
「ハァ? ホントに知らないヨ。誰だろうね、バナナ」
「バナナってなんだよ。てか誠治だって気になるだろ?」
「興味ない」
「いや、そこは興味もてよ……ちなみに一馬は?」
「俺、バナナ嫌いなんだよね……」
「関係ねぇよ!」
今日も平常運転である。
いや~安心するよね。こうやってバカみたいな会話しているのって。
「お前ら、そろそろ席につけ」
そして、そんな平和な時間は凩先生の登場によって終了した。
教室の空気がぴたりと止まり、先生はいつも通り教卓の前まで歩いてくる。そしてその後ろから例の転校生が入ってくるものと思ったんだけれど……。
先生一人だった。
あれ? 転校生は? あ、もしかして職員室に置いてきた? なんか置いてきたらそのまま永遠にそこにいそうな雰囲気あるもんね。置物かな?
「さて、今日からこのクラスに一人加わる。先週話した通りだ」
ざわ……。
一瞬だけ教室に声が広がるが、鋭い視線が生徒たちに向くとまた静寂が訪れる。けれど、高まった期待感までは消せないらしい。クラス全体がソワソワとした妙な雰囲気であるのは変わらない。そして、それ自体は凩先生も咎めることはなかった。
凩先生が一息ついたのち、扉へ視線を向けた。
「入れ」
「はい」
聞き覚えのある声。
教室の扉が開き、一人の男子生徒が入ってきた。
柔らかそうな髪。
整った顔立ち。
優しげに下がった目元。
新しい制服をきちんと着こなし、緊張している――ようには見えるけれど、それでも背筋は真っ直ぐ伸びていた。
うん。
知ってる。
紛うことなき神代優君だ。
ただ……なんだろう……最後に会った時よりも、ちょっとだけ印象が違う気がした。なんてーの? あの時は捨てられそうなチワワになったり、ふにゃふにゃ笑ったり、ちょっとノリが良すぎて気持ち悪かったりしたのに、もう少しこう……柔らかいというか……親しみやすいというか。
今目の前にいる優君は、それより少しだけ、どこか中学生とは思えないような引き締まった空気を感じた。
ふぅ~ん……なるほど。これが学校用優君ってことなのかな。意外と公私は分けるっぽいタイプなのかも?
「神代。自己紹介」
「はい」
優君は黒板の前に立つと、教室全体を見回してから柔らかく笑った。
「神代優です。東京から引っ越してきました。まだ弘前のことも、この学校のことも分からないことばかりなので、色々教えてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」
淀みなく流暢に言い切ると最後にぺこり。
綺麗に頭を下げる。
何その自己紹介。百点満点過ぎない? もっとこう、「東京から来ました神代です、よろしく!」くらいじゃないの? その辺の中学生、しかも小学校から上がってきたばっかのガキンチョがするような自己紹介じゃなくなくない?
あのー、新入社員挨拶みたいな安定感出すの、やめてもらっていっすか?
とそんな私の心のジト目とは裏腹に教室の中には喧噪が広がっていく。
「うわっ、かっこよくない?」
「やば」
「標準語、っていうの? なんか東京って感じする」
ふむふむ、女子たちの黄色い声が良く響くの~。
分かる。気持ちは分かるよ~。私だって初見では顔面偏差値高ぇなと思ったのよ。でもね、そいつ。頼めば何の躊躇もなくお姉さまって呼んでくれたりするくらいなんだよ。見た目よりノリ軽いよ。軽すぎてうっすい発泡スチロールくらいフワッていくよ。キュイィィィィィイイイイイイイイ。
そんなことを考えていた、その時だった。
何かを探すようだった優君の視線がこちらで止まる。
「あ」
うわ、目が合っちゃった。
瞬間、さっきまでの綺麗な微笑みが、少しだけ崩れた。いや、崩れたというのは言い方が悪いか。桜祭りで見た、あのふにゃっとした笑顔に近付いたのだ。
「琴音!」
「お?」
呼ばれてしまった。なんかここで反応しないのもかわいそうなので普通に片手を上げる。
「おはよー優君。ずいぶん早かったねぇ」
「うん! 思ったより色々早く決まってさ。今日からよろしくね」
「はーい、よろしくー」
新しい友達、しかもそんなに交流がなく、そもそも前世の記憶にも存在しない人。だから、学校であったらもしかしたら気まずくて会話なんてできないかもって、ちょっとだけ不安だったんだけれど……思いのほか普通に会話できちゃった。
元社会人故、ある程度どんな人とでもコミュニケーションは行えるのである。
…………。
しーん。
……ん? あれれ、なんだろ? なんか、妙に静かだなぁ。つい数秒前まで女子の黄色い声が飛び交っていたはずなんだけれど。
ちょっと気になり私は周囲を見る。
するとどうだ――何故かみな私を見ていた。
「……え? なに?」
「琴音」
真が、非常にゆっくりとこちらへ顔を向ける。
「知り合い?」
「ゑ?」
「いや、え? じゃねぇよ! しかも名前呼び?!」
「あぁー……」
そういうこと?
なるほど、そりゃそうか。
皆からすれば東京から来た転校生……当然、今日が初対面なわけだよね。なのに、その転校生がいきなりクラスメイトを名前呼びした。
It's me KOTONE。
「友達だから?」
「いつの間に?!」
「ゴールデンウィーク」
「聞いてねぇぞ!」
「言ってないもん」
「てかなんで美鈴は知ってんだよ!!」
「ふふっ」
「だから答えになってねぇし!」
真 は こんらん した!
「ホームルーム中だ」
『はい!』
一瞬にして騒がしくなった教室の中だが、凩先生の声によってまたも一瞬で鎮火する。いやー、一言で教室の空気を変えるんだからね、ぱねぇっす先生。
「神代の席はあそこだ。分からないことがあれば周りに聞け」
「はい」
優君は凩先生の言葉に従い教室の一番後ろ、左端の窓側の席へと向かっていった。
いや~、窓側かつ一番後ろの席って主人公席ってやつじゃない? ほら良く学園物の描写でボーッと窓の外を見ているとかあるじゃん。優君も存在とか顔とかがもう主人公って感じだし……おー、何か全然違和感なく想像できてしまった。
「あと川田」
「はい?」
そんな感じで優君の後ろ姿を見ていると不意に声が掛かり、ちょっと変な返事をしてしまった。
「知り合いなら休み時間にでも学校を案内してやれ」
「……私ですか?」
「他に誰がいる」
いや、いるでしょうよ! 学級委員長とか! 学校案内という仕事において、私より百倍適任そうな役職が!
別に嫌ってわけじゃないけれど、なんか……なんかなんだよね!
ほら、私って理想のお姉ちゃんを目指して常日頃切磋琢磨していましてね、学校の中のことなんていい感じにボッチ飯できそうなところから、光合成しやすいところまで幅広く知っているんですけれどね? ある意味適任と言えば……適任だね!!!
「嫌か?」
「あ、いえ! わかりました!」
仕方ないネ。
優君は弟じゃないけれど、ここはお姉ちゃん力を上げる一環として一肌脱いであげましょう! あ、一肌っていうのは服の事じゃなくて――。
「琴音が案内してくれるなら安心だね。よろしくね」
「任せたまえ優君。私がこの学校の表から裏まで余すことなく――」
「余計なことまで教えるな」
「あ、ハイ」
そんなこんなで慌ただしいホームルームから始まり、気付けばお昼休み。幸いにも今日は委員会のお仕事はないので、教室でご飯を食べることになったんだけれど……。
予想通りというべきか。
「神代君、東京のどこから来たの?」
「部活やってた?」
「彼女いる?」
「好きな芸能人は?」
「ちょ、順番に聞いてよ」
優君の席の周囲には、あっという間に人だかりが出来ていた。
しゅっげぇー。これが転校生ぱうわーってやつかな。いや、転校生だからってだけじゃないな。
顔だ。
やはり顔なのだ。
この世界は残酷なのである。
イケメンというだけでスタートダッシュにボーナスポイントが付与されます。そのボーナスポイントは度々発生するので、それだけで人生イージーモード確定です。
ちなみに、琴音ちゃんだって可愛いよ!
多分!
いや絶対!
”これが自画自賛だね! 私記憶したよっ! ちなみにこう言うのは**ナルシスト**って言うみたいだよっ!”
クソッ! このAI生意気だぞっ!
「はーすげぇな、あいつ」
「そーだねぇ」
少し離れたところから、私と真は人だかりを眺めていた。いつでもみーちゃんは私の隣。誠治と一馬もいつの間にかいる。
「で?」
「何?」
真が椅子の背もたれで頬杖を突きながらこちらを見てくる。
「どうやって知り合った」
「えー、まだ聞くの?」
「聞くだろ普通!」
真の好奇心は尽きないらしい。
とは言え、流石にもうはぐらかすも何もないので、仕方なく、桜祭りで偶然会ったことだけざっくり説明する。
おばあちゃん関連とか着物関連とかを全部話すと長くなるので、その辺はカット。
なんやかんや、へのへのもへじで友達になった!
以上。
「へぇ……」
「何その顔」
「いや別に?」
何とも言えない表情を浮かべながら、何か言いたげな雰囲気だけれど、それ以上は口を開かなかった。なんなんだか。
「でも、琴ちゃん」
「ん?」
みーちゃんが私の腕へするりと抱きついてくる。ふへ、柔らかいしいい匂いがしゅる……へへ、何がとは言わないよ、私も乙女なので……ただ強いて言えば女で良かったなって。
「お友達が増えて良かったね」
「え、うん。まあね」
「ふふっ」
言っていることは普通なんだけれど、なんてーの、腕へ抱きつく必要があったのだろうか。いや、役得なので嬉しいですし、今後とも是非ご贔屓にって感じなんだけれどね。
あと何故優君の方を見ながら笑っているのだろうか?
なんか、『よかったね! ふふ!』っていう微笑ましさだけじゃなくて、ちょっとだけ含みがあるような気もする。
……まあ、みーちゃんだしね!
気のせいということにしよう。
みーちゃん天使! プリチー! 愛しているぜ!
「おーい神代!」
そんな私の心境など知らず、真が人だかりへ向かって手を上げた。
あの状態の優君に向けて声を掛けるとは……流石コミュ強。とは言え、声を掛けるだけでは人気者に届かせるのは難しいみたいで、人だかりの中へ躊躇なく入っていく。
「昼、一緒に食おうぜ。琴音の知り合いなんだろ?」
「え、いいの?」
「いいも何も、その方が話しやすいだろ」
真はそう言って、にっと笑った。
「……」
こういうところなんだよね。
こいつって、弄ってくるし、たまにやり過ぎるし、非常に腹立つことも多いけれど……でも、誰かが輪の外にいたら、こうやって何の迷いもなく声を掛けられるし、連れ出せる。多分、本人はそんな大層なことをしているつもりなんてないんだろうけどね。
だからこそ、良いやつなんだよなぁって……前世でも最後まで親友でいれたんだよなって思える。
「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」
「おう」
「あ、僕、何か持ってくるものとかある?」
「いや別に。いつも適当に集まって食ってるだけだし」
「そっか」
優君は周囲の子たちにも「また後で」と自然に声を掛けてから、こちらへ歩いてくる。
なんというか……スマート過ぎない? いや、もちろん顔補正とかもありそうだけれど、それぞれに対して気遣いがあるっていうか、中学一年生ができるようなもんじゃ(ry
「改めてよろしく。荒木真」
「神代優。よろしく、真君」
「真でいいぞ」
「じゃあ真。僕も優でいいよ」
「おう、優!」
コミュ強とコミュ強が合わさるとどうなるかって? 一瞬で名前呼びさっ☆
私が桜祭りであれだけ謎の儀式を経て名前呼びになったのは何だったんだ。
「河谷誠治」
「よろしく、誠治君」
「ん」
「俺は渡部一馬! 俺も一馬でいいからよ! よろしく!」
「うん、よろしく、一馬」
「こっちはみーちゃんこと成瀬美鈴!」
そんな流れでそれぞれが自己紹介を始めたので、みーちゃんのことは私から紹介してあげよう! って思ったんだけど。
「琴ちゃん?」
「なぁに?」
「なんで琴ちゃんが紹介するの?」
「え、案内役だから?」
「まだ案内始まってないよ?」
「雰囲気!」
細かいことはいいの!
「成瀬美鈴です。よろしくね、神代君」
「よろしく、成瀬さん」
優君とみーちゃんが笑顔で挨拶を交わす。
…………?
二人とも笑顔……笑顔なんだけれどね。
なんだろうか。
こう見えない何かが飛んでいるような……気のせいか! 気のせいだよね! 二人とも初めましてだし、他の奴らが違和感なく打ち解けすぎというか、これが寧ろ普通? だよね!
「どうしたの、琴ちゃん?」
「なんでもないよっ!」
触らぬ神に祟りなしって言葉があるからね。
私は何も見ていない。何も感じていない。琴音ちゃんは平和主義者です。
自己紹介イベントを消化した後、少し遅めの昼食となった。
「東京ってやっぱ人多い?」
「こっちよりは多いかな。都内なんかは特にそう」
「電車とか毎日満員?」
「そうだね。時間帯にもよるけれど……朝と夕方は凄く混むかな」
「ゲームやる?」
「やるよ。そんなに詳しくはないけど」
「マジ? 何やんの?」
なんか、取り囲む人が変わっただけで質問攻めになっているのは変わらないんだね。
ちなみに主に質問しているのは真だよ。
まあ、優君も嫌そうではないし、良いんだけどさ。
「琴音は桜祭りで何話したんだ?」
「なんでまた私に戻るの?!」
「なんでって……そりゃどうやって友達になったか気になるだろ」
「だからなんやかんやへのへのもへじだよ」
「なんやかんやもわかんないけど、へのへのもへじってなんだよ」
「え? 知らないの? 京都や大阪あたりで発祥したとされて江戸時代中期頃から流行り出した人の顔をひらがなで模したものだよ。ほら、案山子とかに使われたりするやつ」
「いや、それは知ってるしって……マジ? そんな昔からあんの?」
「ふふっ(私はわかっているからねと言わんばかりの聖母スマイル)」
何か適当に煙に巻いたり。
いつもの昼休みなのに、一人増えただけで、なんだか随分違って感じる。
変な感じはしないし、どちらかと言うとより賑やかになって楽しいし、こんな時間が沢山あるといいなって思うくらいには気に入った。
だけれど、心の片隅になんだか違和感。
優君は発泡スチロールよりも軽いノリで真の勢いにも普通についていくし。
誠治の短い返答にも困った顔をしない。
みーちゃんの謎スマイルにも笑顔で対応している。
私が話を脱線させれば、普通に乗ってくる。
誰が相手であろうとその場その場に合わせて対応している――。
あぁ、そうか。
対応力だ。
優君は相手に合わせるのがとても上手なんだ。
桜祭りでもそうだった。
私がお姉さまと呼べと言えば、その場でお姉さまと呼んだ。普通なら嫌だよとかって笑って避けると思う。
今日だって、名前でいいと言えばすぐ名前で呼ぶし、話す相手に合わせて、自然に距離を変えている。
何度も言うけれど、これは普通の中学生が行えるようなものじゃないと思う。私だって前世を知っているからこそある程度の処世術ができるだけで、何も知らない『私』だったらきっとこんな風にはいかない。
普通の中学生にしては、なんというか――妙に完成されすぎている。
私みたいに、中身だけ余計に歳を食っていたりして。
……いや。
もしかしたら――神代優君は私と同じ『転生者』なのかもしれない。
ちらりと優君を片目に盗み見る。
いたって自然に見える笑顔で、楽しそうに真たちと会話をしている。今はモン○ンの話でもしているところだ。ティ○レックスが強いとかそんなことを言っている。
どっからどう見ても、歳相応の少年にしか見えないけれど、でもそれがもし仮面だったとしたら? 彼も何かをやり直したくてここに来たのだとしたら?
そう考えると、優君という新しい友人は要観察対象になるのかもしれない。
『ワタシ』の人生設計においてのイレギュラーである優君。もし彼が『ワタシ』の障害物になるのだとしたら――。
いや。
いやいやいや。
何考えている私。彼がどんな人物だろうと別にどうだっていいだろう。人それぞれなんだし、私が何を識っていようと今を生きるのは今の人たちだ。
「琴音?」
「ふぇ?」
「またぼーっとしてる」
「いやいや! 何でもないよ!」
「そう?」
優君が不思議そうに首を傾げる。不意に声が掛かったのと、ちょうど優君について考えていてしまったから、私は適当に笑って誤魔化した。
その時。
「そういえば優って、何が好きなんだ?」
真が何気なく聞いた。
「好きなもの?」
「ゲームでもスポーツでも食い物でも。なんかあるだろ」
「ああ、そういうことか」
優君は少しだけ考えるように視線を上げる。
ほんの一瞬。
それから、いつもの柔らかい笑顔に戻った。
「色々かな。ゲームも嫌いじゃないし、運動するのも好きだよ。食べ物もそんなに好き嫌いないし。こっちに来たばかりだから、みんなのおすすめとか教えてもらえたら嬉しいな」
「お、じゃあ今度ゲームやろうぜ」
「いいね」
「弘前なら食い物も色々あるしな」
「楽しみだなぁ」
会話はそのまま流れていく。
私も特に気にしなかった。
ただ、やっぱり今の答え、『百点満点』の回答であったことは間違いない。
何が好きかと聞かれて、誰の話にも合わせられる答え。でも、転校初日なら、こんなものなのかもしれない。
よく考え戦略的に会話している人間かもしれないし、人に合わせるのがとにかく上手な人間なのかもしれない。実際真みたいなナチュラルコミュ強みたいなのもいるし。
てか、知らない相手にいきなり好きなものを熱弁する私の方がおかしいまであるよね。
……いや、おかしくないが?
琴音ちゃんなりのコミュニケーションですが何か?
「琴音、昼休みの残りで学校案内してくれるんだよね?」
「あ、そうだった!」
おっと危ない、危ない……完全に忘れてた。
時間はあっという間、有限なのである。
「任せなさい! この学校のことなら何でも聞いてよ!」
「さっき情報委員会の場所、一瞬どっちだっけって言ってなかった?」
「みーちゃん?!」
「ふふっ」
「……大丈夫?」
「優君まで心配そうな顔しないでね?」
大丈夫大丈夫。へーきへーきだって。すっげぇよ、簡単だから。
10分で校内周りきれっから、ちょっとワッーってやって、パパパッと行って、オワリッ! きっと! メイビー! 多分!
こうして――私の識らなかった一人が、気付けば、いつもの昼休みの中に混ざっていた。
たった半日。
まだ今日が始まってから数時間しか経っていない。
なのに、不思議と前からそこにいたみたいに笑っている。
思うところはあるけど……まあ。
悪くない。
悪くないんじゃないかな。
「よーし! ご飯の後は琴音ちゃんプレゼンツ、校内完全攻略ツアーだ!」
「完全攻略って何するの?」
「秘密の部屋とか探す?」
「学校に秘密の部屋はねぇだろ」
「チッチッチッ、真君、夢がないねぇ! 学校というものには秘密の一つや二つ――」
「川田。午後の授業に遅れたら分かってるな」
教室の前方から、いつの間にかいた凩先生の声が飛んできた。
「…………」
「琴音?」
「通常ルートのみで安全にご案内いたします」
「急に旅行会社みたいになったな」
真の言葉に、皆が笑う。
その中に優君の笑い声も、ちゃんと混ざっていた。
”文字数多いねっ!”
”切り時わからなくなって突っ走ったからだよねっ!”
”ちなみにスターオーシャンが好きなんだよっ!”
”新作もしくはリメイクが作成されるかもって噂だよっ!”




