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お姉ちゃんが欲しいと思っていたら、俺がお姉ちゃんになったので理想の姉を目指す。  作者: kit
5章 知らない日常

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63話 連休が明ければいつもの日常!……のはずだった。

 ゴールデンウィーク。

 その名を聞くだけで心が躍る、黄金に輝く素晴らしき連休だ。学校は当然の如くないし、朝だって多少ゆっくりしても怒られない。

 お出掛けして、桜を見て、美味しいものを食べて、家族と過ごして……あ、ついでに新しい友達なんかも出来ちゃったりして。

 いやぁ、実に素晴らしい日々だった。


 まさしくゴールデン。


 黄金。


 エル・ドラード。


 この世の楽園とは、もしかすると連休のことを指していたのかもしれない。社会人のみんなはよくわかるよね? 連休って何よりも尊いものなんだって……。


 え? 別に簡単に有給で取れるし? 有給消化できないと労基様にお叱り受けちゃうし? 休み取れないって普通ないからw って?


 ……君たち、正座!!!


 いいかい?! 世の中には一般企業様から見たらビックリの中小企業なんてたくさん存在しているんだよ?!! もうね、星の数ほど存在しているの!! GWなんてかき入れ時だぁって頑張る小売店やサービス業もあるし、「まだ……終わらねぇからよぉ……とまるんじゃねぇぞ……」ってなんか白い髪をした男の人が倒れながらもダイイングメッセージもといダイイングフィジカルコミュニケ―ションによって次の仕事を割り振ってくるなんて恐ろしい世界もたくさんあるのだよ!!

 つまり、休みを簡単に享受できる者と、休みから遠ざけられてしまう者とで2極化が進み、世界は分断され、混沌を生み、大いなる争いに発展――。


 は、しないんだけどさ。


 とにかく、休みは尊いし、どんな楽園にも、いつか終わりはやってくるものである。


「姉ちゃん。遅刻するよー」

「…………」

「姉ちゃん、聞いてる?」

「…………」

「死んだ?」

「生きてるわい!」


 ガバッと顔を上げる。


 目の前には呆れた顔をしたけーちゃんと、その隣でパンをもぐもぐしているよーちゃん。そして私はと言えば、食卓に突っ伏していた。


 何故か?


 ふふっ、聞くまでもあるまい。


 今日は――。


「月曜日だよ……」

「うん。月曜日」

「月曜日なんだよ……」

「だから?」

「なんで月曜日って存在するの?」

「知らないよ」


 ひどい!


 お姉ちゃんがこの世の理不尽について真剣に問い掛けているというのに、この弟の冷たさたるや! しかも啓一君よ。そーはゆーが、君も月曜日は嫌いだったはずではないかね?

 お姉ちゃんは知っているぞ……月曜日の朝になると、普段以上に布団から出ようとしないことを。


 まったく、自分はしっかり起きて良い子ですよなんてすましちゃって、可愛いんだからっ!


「琴音。早く食べないと本当に遅刻するよ」

「はい」


 母上の一言によってけーちゃんたちへのちゅきちゅきは未然に防がれた。危ない危ない。油断すると何かが溢れてきてしまいそうになるので、助かった。


 一命を取り留めた私は大人しく食卓へ向き直り、味噌汁を啜る。


 ふぃ~温かいなりぃ……。


 五臓六腑に染み渡るとはまさにこのこと。

 何となく疲れているというか、気だるげな朝に効く至高の一杯だ。


 日本人に生まれてよかったと思える瞬間ランキングがあるなら、味噌汁を飲んだ時はかなり上位に入ると思う。


 なんてことを考えつつ、ちらりとけーちゃんとよーちゃんを見る。


 連休中はなんだかんだで一緒にいる時間が長かった。


 だからかな。これから学校へ行って、夕方まで顔を見られないと思うと、ちょっとだけ寂しいなって。いや、ちょっとだけだよ?

 別に学校を休んで一日中弟たちを愛でていたいとか、そういうことではない。あ、いや、しててもいいんだけれども、やぶさかではないんだけれども。


 でも、学校は大事。


 教育を受けることは子供の義務……じゃなかった。教育を受けさせるのが保護者の義務で、受けるのは権利だったか。


 ともかく!


 学生たるもの勉学に励まねばならぬわけよ。心機一転、頼れる姉たるもの勉学も一流であってこそ。やはり弟たちの見本になるべきであるからして、学校に行きたくないなどとふてくされたり面倒くさがる様子など見せたらあっか~ん、だらけ見せずに、姉力見~せて~。


 ……???


「姉ちゃん、きもい」

「何故?!」

「さっきまでだらけてたのに、急にピシッとするから」


 よーちゃんも心なしかジト目だ。

 解せぬ。

 だけれど、弟たちは良く見ているらしい。いやん、お姉ちゃん、二人の視線を一身に浴びて気持ち良くなるどころか、悲しい気持ちになっちゃうわ。私の渾身の誤魔化しは効かなかったのだ。


 そんなこんなで平和(?)な朝を終えた私は、久しぶりの通学路を歩いていた。と言っても、別に何ヶ月も学校へ行っていなかったわけではない。


 たった数日。


 たった数日なんだけれど、連休というものは……恐ろしいね。


 一度学校から離れた生活に慣れてしまうと、制服を着て通学鞄を持って歩いているだけで、なんだか随分と久しぶりな気分になる。


 会社員時代もそうだったなぁ。


 シフト勤務で、常に人手不足の24時間体制。無茶な連勤こそなかったものの、多くて2連休。しかも12時間の夜勤の後の2連休だから実質寝て終わりの1日休暇。日頃の疲れが取れるどころか、世間の連休報告に怨嗟と嘆きの声を上げながら出勤する。そして休み明けでパソコンを起動してメールボックスを開いて恐怖するのだ。


 未読三桁。


 知らぬ間に増えている仕事。


 引継ぎされる、されて欲しくない事件の数々。


 あれ? 連休って何だっけ? どんな単語だったかな、辞書で調べてミナキャ……。


 ……はっ!?


 危うくパンドラの箱を開けてしまうところだった……危険が危ない危ない。過去はあくまで過去ってやつである。

 今の私を待っているのは山積みの仕事ではなく、友達と授業と委員会。


 うむ、実に健全である。


「琴ちゃーん」

「ん?」


 後ろから聞き慣れた甘い声。

 もしやと思い振り返れば、みーちゃんが小走りでこちらへ近付いてくるところだった。


「おはよう、琴ちゃん」

「おはよー、みーちゃん!」


 軽く「んっ」って息を整える姿は色っぽく、さっと髪の毛を耳にかける所作はお清楚。いやあ、今日も美少女だねみーちゃん☆

 そんなみーちゃんを見ると、なんというか。

 ああ、本当に日常へ戻ってきたんだなぁ、という感じがする。


 隣まで来たみーちゃんと並んで歩き始める。


 桜祭りも楽しかった。


 おかっちゃまとおばあちゃんのひと悶着もあった。


 着物着て歩き回るのも感慨深かった。


 あと、『優君』と友達になったことも――。


 …………。


 そういえば、あいつ、いつ転校してくるんだろう?


 なんか転校してくるんだーというのは聞いたんだけれど、実際いつ頃転校してくるっていうのは聞いていない。

 一度東京へ戻るとも言っていたし、すぐというわけでもないんだろう。

 まあ、連絡先を交換しているわけでもないから「へい、YOU。いつ来るんだい?」なんて聞けるはずもなく。

 となると次に会うのは本当に学校なんだろうね。


 つっても、な~んかやたらと変な縁があるから、もしかしたらまた別の用事でばったりあったり、何だったら案外すぐに転校してきたりとか――なんつって! 流石にもうないない! 一級フラグ建築士と呼ばれた琴音様でもねぇ、HAHAHA!


「琴ちゃん?」

「ほえ?」

「どうかした?」


 お得意の頭の中ごちゃごちゃタイムを繰り出していると、気付けばみーちゃんのご尊顔が目の前にあった。相変わらずお美しい……じゃなくて、まつげぱちぱちで裏山。


「あー、いやいや! ちょっと連休中のことを思い返してただけだよ!」

「ふぅーん?」


 ずいっと、より、みーちゃんが私の顔を覗き込んでくる。


 ……うん? なんですかその微笑み。

 何故かとても嫌な予感がする。


 みーちゃんがこういう微笑み方をする時は、大体私を弄るネタを探している時なのである。長年の経験により私は学習したのだ。


「そういえば琴ちゃん、桜祭りで男の子と仲良くしてたよね」

「ぶふっ!?」

「わっ、大丈夫?」

「な、な、ナン、なんで知ってるの?!」


 え? いや、あの時私一人だったと思うけれど? 誰とも一緒にいたりした覚えないんですけれど? あっ、なんか帰り間際に人の視線を感じた気がしてきた! 怖いっ!!


「ふふっ、琴ちゃんのことだったら、”何でも”、お見通しなんだよ?」


 そう言いながら、みーちゃんは私の頬に掛かっていた髪をそっと耳へ掛ける。


「だって私、琴ちゃんのことはずぅっと、見てるから」

「そ、そっかぁ! ずっと見てるのかぁっ!!!」


 わ……わぁ……。


 一体あなたはどこにいらっしゃったのですか? あれかな、VTRとかで巻き戻ししたり、スローモーションにしたら実は「この辺にいました!」みたいに矢印とテロップでもつけてくれるのかな?

 何はともあれみーちゃんの笑顔が怖いのです……まるで浮気がバレた旦那の気分なのです……いや前世含めて結婚したことないけれど。


「あぇ、アッ、友達に、なっただけだ、ょ?」

「へぇ~……」

「ほ、ホントだ、ょ?」

「私は何も言ってないよ?」

「アッ、ハィ」


 だ、駄目だ。


 もう、おしまいだぁぁ……。


 何がどうなってみーちゃんが知っているのかはさっぱり分からないけれど、とりあえず追及したらいけないことだけは琴音アラームがウーウーと警鐘を鳴らしている。


 あれだ。世の中には知らなくていいことというものがある。


 都市伝説の真相とか。


 深夜に聞こえてくる謎の物音とか。


 男性がトイレに籠って中々出てこないこととか。


 母上が一体どこから私の写真を撮っているのかとか。


 みーちゃんが私のことを何でも知っていることとか。


 ……最後の二つ、身近過ぎない?


 もしかして私の周囲って、割とホラーだったりする?


「……ちなみに、どこで見てたの?」

「ふふっ」

「笑ってたらわからないよ!?」

「琴ちゃんは可愛いね」

「話を逸らすなぁ!」


 結局。


 どれだけ聞いても、みーちゃんは聖母のような微笑みを浮かべるだけだった。いや、美しいんですけれどね。尊いんですけれどね。


 それはそれとして怖いのです。

 眩しい笑顔が逆に怖いのだ……。


 そんな超常的幼馴染に恐れ戦きながら歩いていれば、いつの間にか学校へ到着していた。


 うーむ。


 肝心なことを何一つ聞き出せなかった気がするけど、きっと、みーちゃんぱぅわー的な何かだ。つまり人は、幼馴染歴が長くなると、相手の行動を予知できるようになる特殊能力でも開花する……ってこと?!

 琴音、初めて知ったぁ!


「おーっす」

「おはよー」

「おはよう、真君」


 教室へ入ると、既に席に着いていた真がこちらへ手を上げる。


 連休明けだというのに朝から笑顔モリモリで元気だねぇ。うへ~、最近の若い子は凄いねぇ、おじさんには眩しいよ。いや、こいつは基本的にいつでも元気だったわ。


 しかし、月曜日という人類共通の敵を前にしてもいつも通りとは……まさか月曜耐性持ちか? いや、羨ましくはないけど、一家に一人いたら朝の景気付けにはなるかもしれない。


「なんだ琴音。朝から変な顔して」

「乙女に向かって変な顔とは失礼なっ」

「いや、いつもより二割増しくらいで変だぞ」

「はぁ? 今日も琴音ちゃんはプリティーでキュートでラブリーでしょうが!」

「琴ちゃん、さっきからずっと面白いんだよ」

「みーちゃんさん?!」


 くすくすと口元を押さえて笑うみーちゃん。

 何やらみーさんが真に余計なことを吹き込もうとしているらしい。


「何かあったのか?」

「あ、あー! 聞いてよ真! みーちゃんが――」

「琴ちゃんにね? 秘密が出来たの」

「ちょっ↑?!」


 私の言葉を遮って、みーちゃんがさらっととんでもないことを言い放った。


「秘密?」

「そう。琴ちゃんの秘密」

「へぇー?」


 真の口元がにんまりと歪む。


「その『へぇー?』やめろ!!」


 こいつ今、完全に弄る対象を見つけた顔をしている。こうなるとろくでもないことになるのは必至! 何とか話題を逸らしてターゲットから外れなければ……。


 そしてみーちゃん?


 何故あなたまで満足そうなんですか? 心なしか肌もつやつやしだしてきているよ? 余計に美少女指数上がっていっているよ?


 っ!!!


 もしやこれ、共闘戦線張られた?!


 琴音ちゃん包囲網?!


「で? 何やらかしたんだよ」

「何もやらかしてないよ!」

「じゃあ何の秘密?」

「それは……」


 思わず口籠ってしまう。

 いや、だって秘密だよ? 秘密ってそんな簡単に口にしてもいいものではなくてだね――。


 ……あれ?


 冷静に考えるとさ、別に友達になったこと自体、秘密にするようなことではないよね?


 新しい友達できたんだっ!

 へー! できたんだ、友達! ふふっ、良かったね!


 そんなはっぴーわーるど~。


 うん。


 普通。


 実に普通だよ。


 何で喋るのを躊躇していたんだろうか、ここは正直に――。


「ふふっ。真君には、まだ内緒」

「は?」


 みーちゃんが人差し指を唇へ当て、楽しそうに笑った。かーっ、その動作に痺れる、心が震える! 美少女の特権!


「なんでだよ」

「秘密、だから?」

「いや、俺だけ知らねぇのおかしくね?」

「私も知らない方が普通らしいよ?」

「じゃあなんで美鈴は知ってんだよ」

「ふふっ」

「だからなんなんだよその笑い!」


 おお。


 真が混乱している。流石は魔性の女だぜ……。


 わかるぞ真。


 今のお前と数分前の私は同じ気持ちだ。


 ただまあ? 親友の私が? 聞いても答えてもらえなかったんだからね。お前に分かるはずもあるまい。諦めたまえ。

 世の中には触れてはいけない深淵というものが――。


「美鈴、お前また琴音で遊んでるだろ」

「遊んでないよ?」

「絶対嘘だろ」

「琴ちゃんがね、可愛いから見てるだけ」

「それを遊んでるって言うんじゃねぇの?」

「みーちゃん?! せめて否定して?!」


 全く、朝から私を中心に世界が回りすぎて困っちゃうね! 人気者は辛いぜ。


 ……いや、違うか。


 なんか違うな。


 どちらかというと玩具とか珍獣とか、そういうポジションな気がする。そう言われたわけではないけれど、そんな扱いっていうか。


 ノー! ですっ!

 私は理想のお姉ちゃんになる女!

 断じて珍獣琴音ちゃんではないのだ!!


「朝からよく元気だな、お前ら」

「おはよ、誠治!」

「おはよう」

「おー」


 気付けば登校してきた誠治が、呆れたような目をこちらへ向けていた。


 相変わらずクールだ。


 この混沌とした状況を前にしても眉一つ動かさないとはね。私にもどうかその精神力を分けてほしい。


 あ、でも私がクールキャラになったら、弟たちへの愛を表現しきれなくなってしまうのでは?


 ならいらないな。


 やっぱり私は私らしく元気いっぱいが一番である。


 うむ。


「つーか何の話してたんだ?」

「琴音に秘密があるらしい」

「ほう」

「誠治まで乗らなくていいからね?!」

「別に興味ないし」

「なら『ほう』って何?!」

「反応」

「条件反射?! もうちょっと感情込めて?!」


 そんなくだらないやり取りをしているうちに、教室には少しずつ人が増えていく。


 久しぶりに会った友達と連休中の話をしたり。机に突っ伏して死んでいたり。宿題を見せてくれと誰かへ縋りついていたり。


 ああ――。


 なんというか、これこれ。


 これが学校だよね。


 数日前まで桜祭りだ、着物だ、優君だーとどんちゃん騒がしく随分濃い時間を過ごしていたけれど、こうして教室へ戻ってくれば、いつもの日常がそこにある。


 相変わらず、ちょっとだけ懐かしく感じるのが不思議だ。


 ほんの数日しか離れていなかったのにね。


「席につけ」


 ガラッと扉が開くと同時に聞こえた低い声に、騒がしかった教室が目に見えて静かになる。


 我らが担任、凩先生のご登場である。


 にしても相変わらずの威圧感だ。普通に入ってきて、普通に喋っているだけなのに、何故か場の空気が引き締まる。


 特殊技能かな?


 《威圧》とか常時発動してらっしゃる?


 先生のレベルいくつなんだろう。


「川田」

「はいぃ!?」

「何をぼーっとしている。席につけ」

「ァ、はい!」


 いかんいかん。


 本人を目の前にしてステータス鑑定ごっこなんぞしている場合ではない。私はそそくさと自分の席へ移動する。

 皆が席へ着いたのを確認すると、凩先生は出席簿を教卓の上へ置いた。

 けれど、すぐに出席を取り始める様子はない。


 さて。


 連休明け最初のホームルーム……なんだけれど……あれ? 何だろう、何かあったっけ?


 何だか物々しいというか、これから何かの確認か発表でもするのか、どこか落ち着かない雰囲気が漂い始めた。

 何か提出物でもあっただろうか?


 …………。


 待って?


 私、忘れてない?


 GWな記憶しかないよ?


 ハァッ!?? 


 もしや……こういう長期休み明けに限って「ちゃんと伝えてただろう」とか言われてプリント提出を求められるやつ!もしかしてそれが今かっ?!!


 社会人時代でもあった。


 連休前(実質1日休み)に来ていたメールを休み明けに見つけて、「あ゜っ」ってなるやつ!


 ヤバいヤバい、ヤバいですぞ~!


 琴音ちゃん脳内データベース、緊急検索開始!


 提出物!


 宿題!


 プリント!


 なんかの申込書!


 検索――検索――。おい、AI! くそ、この時代には無いかっ! OPEN琴NEAI特製のAIをこの土壇場で作り上げるしかないっ!?


「ホームルームの前に一つ連絡がある」


 くっ、来た! 来てしまった! まだ何も思い出せていないというか何にも記憶に引っ掛からなくて苺飴!!


 何?!


 何を忘れた私ぃぃぃ!!


「来週、このクラスに転校生が来ることになった」

「…………へ?」


 転校、生?


 一瞬静まり返った教室が、次の瞬間には一気に騒がしくなる。


「え、転校生!?」

「こんな時期に?」

「男? 女?」

「どこから来るんですかー?」

「静かにしろ」


 凩先生の一言でしーんと静かになる。流石、みんな良く訓練されている。


「男子だ。東京からこちらへ引っ越してくる。名前は――」


 ん? 待って。


 東京?


 こちらへ引っ越してくる?


 スゥ……なんか、ものすごーく、心当たりのあるフレーズですね?


「神代優」

「…………」


 …………。


 ……。


 え?


 脳裏に、桜祭りで見たふにゃっとした笑顔が浮かぶ。


『僕こっちに来るの楽しみではあったけれど――』


 うんうん、聞いたね。確かに聞いたよ? 転校してくるとは聞いていた。いつとは聞いてなかったけど。


 ”案外すぐに転校してきたりとか――なんつって!”


 ”流石にもうないない!”


 ”一級フラグ建築士と呼ばれた琴音様でもねぇ”


 ”HAHAHA!”


「…………HAHAHA?」

「川田。どうした」

「イエ、ナンデモナイデス」


 乾いた笑いを漏らしながら、私は机へ視線を落とした。


 Dear、数十分前の私へ。


 あるじゃねぇか!!!


(続き)あるじゃんね!

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