61話 あ、そう言えばそんな話したね!
ふりーたーいむ。
お昼になる前の少しの時間ではあるがフリータイムがある。親や祖父母に連れられて来た子供たちが多いので、大体はご家族と一緒に弘前公園内を練り歩いている。順当に行けば私もお祖母ちゃんと一緒に色々回るところなんだけれど、何やら外せない事案が発生したのか、少し眉尻を下げ申し訳なさそうな雰囲気を出しながら電話を始めた。
お祖母ちゃんってポーカーフェイスと言うか、表情が常に冷ややかで威圧的に感じるんだけれど、こうやってよくよく見てみると目元の微かな変化があり、そこから何となくどんな心境なのかわかるようになってきた琴音ちゃんなのであった。
と言っても、私もまだまだ観察が足りていないので打率は低めかな?そこそこ本当に何考えているのかわからない時があるしね。今回は多分表情筋が動いた方でイージーでした!
と言うわけで私は完全フリーな人間になってしまったので、一人で公園内を歩こうと思うのだよ。
流石に11時くらいになると公園内も活気が溢れ……溢れすぎてくる。既に悠々と歩くにしては人口密度が高い感じだ。イメージとしては……そう、お休みの日の新宿南口みたいな感じ?あれよりちょっと人は少ないと思うけれどね。
「ひゃー、相変わらず人が多いなぁ……」
今の琴音ちゃんは12歳のピチピチJCでか弱いのだよ。つまりどういうことかと言うとね、この人ゴミの中を一人で歩くのは過酷だなってことだよ!
なので歩くのもそこそこに、売店の並ぶ道から外れちょっとだけ静かなベンチに座り人の流れを見ることにした。あっちにもこっちにも人人人。どこもかしこも人だらけだ。なんかこのくだり昨日もやった気がするね!
でもねぇ、別に今はお祖母ちゃんがいるでもないし、みーちゃんや真達がいるわけでも無いし。なにより愛しのマイブラザーたちもいないんだもの。ハッキリ言って暇を持て余しているのだよ!暇を持て余すと人間は余計なこと考えがちというか、哲学者になっちゃうからね!そいらてす?スタバにありそう!
一応お祖母ちゃんからお小遣いも貰っているのだけれど、一人だとこれ買おうとか、これやりたいとかそんなのも沸いてこないこないのだから不思議なものよ。何か食べ物でもって思ってもこの後お昼だし、今食べるのもなぁとか思ったりしている。
お子様はここで我慢できずに欲望に忠実になっちゃうだろうけどね!琴音ちゃんは出来るお姉さまになるのでこの程度の誘惑には屈しないのだ。だから決して目の前の売店で売っているイチゴ飴美味しそうだなとロックオンしているわけではないのだよ。
よって、イチゴ飴、じゃなかった、リンゴ飴、でもない、やることのない私は綿あめ、こうして一人でこんにゃく、人間観察に勤しんでいるわけだ。
人間観察はいいゾ^~。
色んな人を見れるから、あーこんな人がいるんだー、そーゆー表情あるんだー、そんな仕草あるの?みたいな感じで、とてもよく、勉強になるよ。
いちゃつきながら歩くカップル。あれ買ってこれ買ってとねだる子供とそれに付き合う親。同じくらいの年代の男の子グループや女の子グループ。混合グループもある。おいしそう。
いろんな人たちが色んな表情や素振りであっちへこっちへと行き交っている。昨日の私たちもこの人たちと同じ様にこうやって歩いていたのだろうな。仲の良い友人といちゃつきながら、最愛の弟たちと笑顔を浮かべる様子はきっと理想そのものだろう。食べたい。
何故だか現実感がドンドン薄れていくような不思議な感覚。なんだろう、こう集中しだすと自分だけがそこから浮いて周りから隔絶された感じって言ってわかるかなぁ。ふわふわとするというか。浮遊感、無重力?でもちょっと苦しくなるというか閉塞感もあったり。矛盾するような感覚だけど、でもあえて言葉にしようとするとそんな感じ。1個くらい買っても良いかな。
「……あれ?」
口の端から垂れそうになっている涎を拭いつつ声を上げる。
なんかやることなさ過ぎて人間観察《売店観察》してたけど、そう言えば昨日どこかのイケメンが会えたら会いたいな、なんてこと言ってなかったっけ?
いまいち良くわからない少年だけれど、というか普通に現実感の無い少女漫画とかに出てきそうな少年で微妙に引くんだけど、不思議と顔を合わせることがある優男君からのお誘いがあったような。
いくら硬い意思を持つ琴音ちゃんとは言え、あまりにも誘惑の多い環境はよろしくない。どんな人だって心から求めているものが目の前にあったらコロッと靡いちゃうものだ。正に悪魔の誘惑。古来より天使と悪魔がいるように、誘惑とは悪魔の所業。人は欲望に忠実だからこそ、誘惑を絶つためにも折角思い出した約束を果たすとしよう。
「はい、一つ100円だよ」
「おじさん!ありがとー!」
琴音ちゃんは見た目は淑女、中身は大人なのだ。大人とはつまり理性を持って行動できるのであって、決して誘惑に負けてはいけないのだ。
何故か満足値が上がり幸福度も上がった琴音ちゃんだが、流石にジッとし過ぎていても時間だけが過ぎて行ってしまうので、早速例のあの人を探そうと思うのだけれど。
「これ、どうやって探そうかなぁ」
都会に比べたら人口密度は低いけれども、とは言えほぼ遜色のない混み具合だし、そんな中から特定の人を探すというのは中々大変な作業だよ。というかさ、普通会いたいってんなら待ち合わせ場所くらい指定するやろ。
渋谷だったらハチ公前とかさ、そんな感じで指定がないと流石に厳しいものがあるというもの。気分的にはそう……白紙のパズル的な?
「てか、そもそも本当に来てる?11時前までに来てもらえれば可能性あるかもね、なんてテキトーなこと言ったけど、それを真に受けて待ち続けている例の人の事を考えると……なんか可哀そうに思えてきた」
曲がりなりにも約束してしまったので出会う努力だけはしてみようと思う。まぁ居なかったら居なかったで暇つぶしにはなるだろうしね。とは言え、どうしたものか、と、取りあえずぶらぶらと適当に歩き回ってみることにする。考えてもしょうがないので足の赴くままに歩くのだ。
テクテク。
私の足が向かった先は弘前城(天守閣)の手前の赤い橋だ。赤い橋は何個かあってそれぞれに名前があるんだけれど、流石に弘前マニアではないのでどの橋かまではわからない。確か下乗橋だったかな?なんかカップルで写真撮ると別れるみたいな話があったような、なかったような。テキトー。
現在地からそんなに距離はないのですぐに到着してしまったが、ふむ、やはりそれらしい人物は見当たらない。そしたらまぁ後は弘前城と展望台の付近かな?弘前城ならそのまま道なりだから流れに合わせてカッポカッポ。
弘前城に近づくにつれてより人の量が増していき、歩き慣れていない着物と履物のおかげで歩行スピードも落ちてしまう。これが出勤や退勤時であったならこめかみに青筋、目は据わり、明らかに不機嫌な様子の人間の出来上がりであるが、今の私にはそういったメンドーごとはないので、非常に穏やかな気持ちのままである。何だったら、ゆっくり歩くから周りの様子が良く見れるなぁとか、人探しするのもやりやすいねぇとか、着物着て歩くって非日常感を満喫出来ているなぁとか、プラス思考だよね。あぁ素晴らしい学生、あぁ素晴らしい仕事のない日常。
とは言え、人が多い=顔認証しなければならない人間も多いということなので、ここから探すというのは一苦労だよね。私にもAIをくれ。
さて、大分ゆっくり歩いていたとは言え、橋から弘前城前までもそんなに距離があるわけではないのであっさりと到着してしまったわけだけれど……ふむふむ、それらしい人はいるかしらっと。
ちょっと背伸びして眉の上あたりに手をかざし周りをキョロキョロ。明らかに人探してまーすっていう恰好をしておけば、向こうも探してくれていた場合見つけやすくなるであろうという私なりの配慮である。あー、私ってば天使、優しい!
「あ、いた!」
私がここで探してまーす!迷子の男の子を探してまーす!をしていると、聞いたことのある声がした。声の方向を向くとそこには例の探し人が笑顔で手を振っていた。
存外近くにいたなぁと思っているとテテテーと神代少年が駆け寄ってきた。
「やぁ、約束通り来てあげたよ、少年」
「また会えて嬉しいよ、川田さん!実は昨日帰った後でね、なんできちんと約束の時間とか場所決めておかなかったんだって凄い後悔したんだよね。きっと変なやつだなとか思ってきてくれないんじゃないかって思ってたけれど、なんか諦めきれなくて。だから半分期待の半分諦めの気持ちでここに来てみたんだけど、そしたら川田さんの姿が見えて。一瞬自分の妄想かなと思ったけれど目をこすっても居なくならないし、てことはやっぱり現実だよねってことで慌てて声を掛けちゃったよ!いやぁ、本当にここに来てよかった」
「あ、うん……」
いや、あの、十分変なやつだなと思っていますよ?私の気まぐれが無ければ君はここで一人でポツンと来もしない人を待つことになっていたんだよ?うぅ……悲惨だよ……辛いよ……虚しいね……バニバニ。
そして口数多いな。前まではちょっと気に食わないイケメン系かなと思ったけれど、今の感じで雰囲気イケメンの中身オタク説が私の中の有力候補になりましたよ。
「なんかさぁ、神代君って変だよね」
「え゛?」
「だってさぁ、別に私と神代君て特段特別なエピソードとか会話なんてしてないんだよ?なのに今日こうして会えたからってそんなに嬉しそうにするもの?」
ついつい変だよねって口に出てしまったけれど、そうなんだよね。普通さ、多少の会話したくらいじゃそんなに嬉しそうになんてしないものだけれど、何が良かったのか、神代少年の中では劇的な出会いってことになっているようなんだよね。
まぁ確かに自転車に轢かれそうにはなっていたけれども、というかその轢きそうになった犯人は私ですけども、学校まで案内してあげたけれども、言ってしまえばそれだけなわけで。
ちょっとショックを受けたような顔をしている神代少年を見ながら小首を傾げてしまう。
「自転車で轢かれるかもって結構な衝撃だったよ?殺っちまった……!って」
「別に殺ってはないんだよなぁ……でもその節はどうもすみませんでした……」
いやぁ、まぁ、うん。普通に思い返せば中々衝撃でしたね?危うく人を殺っちまってたら、ここらでは有名な暴走族琴姐の誕生だ。頼りになるお姉ちゃんにはなりたいけれど、姉御はちょっと解釈違い、というか普通に危ないやつだよね、うん。いつも笑顔で轢いちゃうゾ☆
「いやいや、僕は怪我もしていないし、寧ろ君の方こそ転んじゃっているし……」
「あぁ、いやそれこそ全然気にしないでよ。私の不注意なんだしさ」
お互いにいやーあの説はどうも的な会話をしていたら、なんだか少しおかしくなって我ってしまった。すると、神代少年は安心したようなふにゃっとした笑顔を浮かべた。きっと耐性の無い、というか普通に乙女な心を持つ清い女の子たちはこの笑顔にクラっとしてしまうのであろう。残念なことに私は女である前に姉なのでこの程度ではそよ風もいいところ。私を夢中にさせたければ弟を連れてくるか、何か美味しいものでも持ってくることだね!!
「そういえば途中でイチゴ飴買って来たんだ。大したものじゃないけどどうかな」
「ありがとう!|《私をモノで釣ろうなんて100年早いね!》」
神代少年が私にイチゴ飴を手渡してくるが、そんなモノで釣られる程私は尻軽ではないのである。今手の中にある赤く艶やかな物体を舐めながら強くそう思うのであった。
うまうま。




