59話 私の次の目標が決まった瞬間である
さて、白鳥さんのところの従業員さんたちによってあれよあれよと着付けが進み、気付いたらあっと言う間に終わってしまっていた。
流石着物を取り扱う本職の人間たちである。私が自分でやったら多分めっちゃ時間かかる。特に帯の部分とか。あれ難しいんだよね。しっかり巻いている筈なのにゆるくなっちゃったり、真っすぐやっているつもりが曲がっていたり。で、それなりに帯って長いし重いし硬いから直すのにまた時間が掛かってって。この辺の事情は着たことがある人ならよくわかるだろう。
まぁそれも本職の人たちにとっては朝飯前と言わんばかりにあっさりと終わってしまった。一瞬私は早送りのビデオでも見ているのかと思ったよ。おっと、ビデオって今の人には伝わらないだろうか?VHDってやつ。現代風に言えばDVDとかBlu-rayってところかな?あ、因みに今私が生きる時代はギリギリビデオが生き残っているよ!DVDに移り変わってきているところだから、主流はDVDになりつつあるけれど!
閑話休題!
兎に角、私とおばあちゃんは着付けが無事終わったので、今は鏡に映る自分を見ている。
梔子色※の着物と散りばめられたお花柄。まだまだあどけなさが残る容姿と私の明るい雰囲気にピッタリだ。正に私のために織られた着物って感じがする。
勿論この着物を注文したのは私でもお母さんでもない。でも白鳥さんは「注文していたもの」って言っていたので、消去法からおばあちゃんが準備していたということだろう。え?お父さんの線は無いのかって?あるわけないじゃん。無理無理、うちの父親ってそういうのてんで無理だから。気遣いていうか、うん、鈍感?鈍感系主人公?いやそれよりも質が悪い気がする。まぁなのでありえないよね。
それに白鳥さんとの会話でおばあちゃんが「あら早かったわね」って言ってるしもう確定以外のなにものでもないだろう。
何が言いたいのかと言うと、この着物を注文する時おばあちゃんは何を思ってこれにしたのかなって。
だってさ?こーんなにピッタリで素敵な着物なんだよ?
きっとこのデザインにするって決めた時おばあちゃんは色々な想いを込めていたに違いない。私のデザインには春の陽気さと温かさを感じた。つまりおばあちゃんは私にそういう風なイメージを抱いていてくれたんだ。もしくはそれが似合う女の子になって欲しいかな?なんにしろ、私のことを想って選んでくれたって、そういう想いが伝わってくる。
おばあちゃんは見た目も言動も動作も、どうしても冷たい人の様に見えてしまう。実際、お母さんと過ごして日々の中で、与えた印象はそういうものだったんだろう。
私はその時のおばあちゃんもお母さんも知らない。知っている筈もない。だから当人たちがどれくらい苦しんで悲しんでぶつかってきたのかなんて想像もつかない。だけれど、この着物からはおばあちゃんは私たちを想ってくれていたということが伝わってくる。
この前は桜祭りを断られて胸が苦しくなったけれど、でも今はなんだかとてもぽかぽかとして温かい。そして心地いい。
あぁ、お母さんとおばあちゃんにもこの感覚を共有できたらな……。
私は胸に温かな想いを抱きながらお祖母ちゃんの方を向く。相変わらず澄ました表情だけど、心なしか少しいつもより表情が硬い気がする。もしかしたら少し緊張しているのかも……?ってそれは無いか!ないない!
何にしろ、まずはおばあちゃんに伝えたいことがある。こういうのはしかっりと言葉にしないとだよね。
「おばあちゃん素敵な着物をありがとう!」
「……」
何の捻りもない言葉だけれど、でもそれが全て。偽る言葉も飾る言葉もいらない。私の素直な気持ちだから!これには琴音ちゃんホーリーエンジェルスマイルも漏れ出ちゃう!えへへ。
おばあちゃんはすぅっと短く息を吸い呆気に取られている。何とも言えない反応に「あれ?私また変なこと言っちゃった?」と少しなろう系主人公の様な心境になり心配になる。が、それは杞憂だったらしい。
「……喜んで貰えたのなら良かったわ」
普段のおばあちゃんとは思えない程柔らかな微笑みだった。いつもの少し眉間にしわが寄ってたりすることもあるような澄ました顔ではない。その表情に私は更に胸が、心が温まるのを感じた。
なんだ、そんな顔もできんじゃん。
なんだ。あれだ。おばあちゃんもやはり可愛い孫娘のアルカイックスマイルには敵わないってことね!流石琴音ぱいせん!褒め称えよ!崇めよ!
「あ、そう言えばけーちゃんとよーちゃんのはあるのかな?」
と言うことで、珍しいものも見れて勿論嬉しくもあるのですが、やっぱり我が愛しのブラザーズの着物にも興味がある。前世では紺青色※の落ち着いた袴タイプのものだった。そうすると今回もそんな感じなのかな?
私は気になってしまいおばあちゃんに聞いてみることにした。
「おばあちゃん、けーちゃんとかよーちゃんの着物ってあるんですか?」
「あー男の子ふたりの着物ねぇ。そっちはまだ仕上がっていないのよぉ」
ごめんなさいねぇ。代わりに白鳥さんが会話に混ざってきた。どうやらまだブラザーズの着物は出来上がっていないようだ。
むぅ、残念。でもきっと私と同じ様に二人にぴったりな着物であることは間違いない。けーちゃんはやっぱり紺青色かな?よーちゃんは勝色※の渋い感じのとかかな!以外とパステルな明るいカラーも似合うかも!私の弟たちなんだから何着ても似合うこと間違いなしだけれどね!
次の機会にでも一緒に着る機会があるかな?いや、作らないとだね。チャンスは待つのではなく自分で掴み取れって言うしね。そこは姉たる私が二人により良い経験と感性を磨く機会を与えなくてはね!
決して私が二人の着物姿気になって仕方がないからってわけじゃないからね!ちゃんと二人のためを思ってなのですよ!?
……まぁそのついでで二人の色っぽいじゃなかった可愛らしくもカッコいい姿が見られたらなって思っただけなんだよ?くふ……。
私の次の目標が決まった瞬間である。
―― 琴姉メモ ――
梔子色 … 黄色よりの橙色っぽい感じだよ!春っぽいよね!
紺青色 … 空の青色を少し暗くして薄めた感じ?表現が難しいね!青だよ!!
勝色 … 紺色なんだけれど、更に黒っぽくて藍色?っぽい感じだよ!青だよ!!




