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「……何か、心当たりがあるようだな。私達を襲ったあの男について」
王宮内にある自室でミシェルはアスモダイを問い詰めていた。
ベリアルと出会ったりライラが池に落ちたりであの不気味な男の事をすっかり忘れていた。
しかしアスモダイの様子がどうにもおかしかった。
あの男の事を知っているのか。
知っているのだとしたらそれは誰なのか。
ただ男のオーラから味方ではない事はすぐに分かった。
背筋が凍るほどの負のオーラを纏い、発していたからだ。
ミシェルは冷静に、しかし話をそらす事を許さないとでも言うかのようにアスモダイを真っ直ぐに見た。
「……別に、そういうわけじゃない。ただ……物凄い力だった。それだけだ」
常に頭脳明晰でクールなアスモダイが一瞬言葉を詰まらせたのをミシェルは見逃さなかった。
やはり、何かを知っている。
正体は知らなくても、何かしらの心当たりはあるようだ。
「どんなに小さな事でもいい。確証がなくったっていいんだ」
真っ直ぐにミシェルは訴えかける。
しばらくの沈黙が流れる。
「……はぁ……全く、敵わないな」
諦めたかのように一つ溜め息を吐き、アスモダイは何かを堪えるかのように口を開いた。
「確証も確信もないが……可能性はある。だが、俺は……」
言葉を詰まらせ、眉根を寄せて俯いたアスモダイの肩にミシェルはぽん、と手を置く。
「分かってる。あくまで可能性だろう ? ほら、話してみろ。今は情報を集めなければならない。それはお前もわかっている筈だ」
顔を上げたアスモダイにミシェルはニッと微笑む。
「……ああ。分かった。だがもしそれが俺達を襲ったのだとしたら……」
話を終え、王宮から出たミシェルとアスモダイは待機していた馬車に乗り込む。
「……確証が取れるまでこの事は内密にしておく。いいな ? 」
硬い表情でミシェルは言った。
「ああ」
アスモダイもまた険しい表情だった。
「できれば、信じたくないものだな……だが、それが本当ならばまた奴は行動を起こす。真偽はその時に確かめよう」
前を見据え、そう言ったミシェルにアスモダイも同意し、頷いた。
「それまではライラにも秘密だ。無駄な動揺を誘っても良い事はない。まあ、私達二人で抱えておくには少々大きすぎる秘密だがな」
「……ああ」
「さてと。早くライラの家へ向かわないとな」
仕事モードをオフにしてミシェルは揺れる馬車の中、伸びをした。




