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「じゃあ行くぞ。しっかり掴まってろ。落ちても助けねえからな」
「え ? 」
その言葉を理解する間もなく、ベリアルに担ぎ上げられ、大きな浮遊感に襲われる。
反射的に閉じた目を開けると、先程いた馬車が下に小さく見えた。
(うそ……飛んでる)
いつもよりも近い水色の空と見下ろす王都の景色は何だか新鮮で心の中で感嘆の声を漏らす。
ふと、ベリアルの背の黒い翼が目に入った。
程よい艶と大きくてしっかりとした翼を素直に綺麗だと思った。
「綺麗な翼だね」
「別に、何とも思わない。無駄話はいい、家はどの辺りだ」
無駄話と言われ微妙にテンションが下がる。
しかし意外と高いようで、目を凝らして自分の家を探す。
「……あっ。あの赤レンガの家」
私が指を差す方向に緩やかに降下していく。
そっとベリアルが地面に降り立ち、私も下ろされる。
「ふぅ……とりあえず家に入ろっか」
そう言ってベリアルの背中を押しながら薄暗い家の中に入った。
「……ただいま」
小さく呟くが、いつもの如く家の中からは返事はない。
一人暮らしなんだし、仕方ない。
「家族はいないのか」
「まあね。両親の顔も知らないし、いたかさえも分からない」
自分で言っておきながら、今さらのように空虚感に襲われる。
家の中で自分以外の声を聞くなんていつ振りか。
くすぐったいような、嬉しいような、不思議な感覚だった。
「けど、探してはいるよ。この指輪だけを頼りに。だから絶対に失っちゃダメなんだ、これは」
私と名も知らぬ家族を繋ぐ、たった一つの道しるべ。
家族の温もりはどんなものか知らないけど、私はそれに憧れている。
帰る場所があって、ただいまって言うとおかえりって返してくれる人がいて。
――けど、私はそれを知らない。
どんなものなのかさえも。
ぎゅっと握りしめた拳の中の指輪は変わることなく輝いている。
「綺麗でしょ、この指輪」
ベリアルに指輪を見せると、ベリアルのポーカーフェイスが微妙に固くなった気がした。
「……知らね。黙って大人しく休んでろ」
突き放すように言ったベリアルに少し距離を感じた。
「わかった。ゴメン、ちょっと喋りすぎた。少し寝るからミシェル達が来たら起こして」
そう言って私はベッドの中に潜り込んだ。




