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「……う……っ」
最初に視界に映ったのは、ミシェルと守護魔の鳥が心配そうに私の顔を覗き込む姿だった。
「ゲホッ、ゴホッ ! 」
口から水が出てきた。
体を起こし、咳き込みながら肺の水を吐き出す。
眠りから一気に引き上げられた脳がボーッとしていて、私は力なく周りを見回す。
少し薄暗い。
布のソファに寝かされていたようだ。
小さな丸い窓からは荒野が広がっていて、ガタガタと揺れている。
どうやらここは馬車の中らしい。
ミシェルに守護魔、アスモダイ。
しかし見慣れない男がアスモダイの隣に座っており、私は首をかしげた。
「悪かった、ライラ。私が側についていれば悪魔に襲われて湖に落ちるなんて事にはならなかったのに…… ! 」
申し訳なさそうに目を伏せるミシェルを見て、私の身に何が起こったか整理がついてきた。
「いいよ、ミシェル。そもそも私が悪いんだし……そんな事より来た時より一人増えてる気がするんだけど。この人誰 ? 」
「……こいつは俺の昔の知り合いの悪魔のベリアルだ」
アスモダイにそう紹介された男を見やる。
濡れ羽色の髪に青色に近い紫色の瞳。
その瞳はじっと見ているとブラックホールのように吸い込まれてしまいそうだ。
古代の民族衣装のような黒いローブを身に纏い、紅い宝石のネックレスが首元で輝いている。
どこか古ぼけていて、まるで昔からタイムスリップしてきたような不思議な出で立ちだ。
顔はアスモダイとはまた違った感じの端正な顔つきだ。
悪人相、というのがタマにキズだが。
「どうやらそいつがライラを助けたらしいが……事情を一切話さないんだ。私はまだ完全に信用していない」
ミシェルは疑り深そうに視線をベリアルに寄越す。
「でも、私を助けてくれたならお礼はしなきゃ。ありがとう」
私が頭を下げると、ベリアルはそっぽを向きながらも答えた。
「……魔粒因子を吸い込みすぎだ。悪魔に害はないが人間が一度に多量吸入すると体力を奪い頭痛や吐き気に襲われる」
「悪魔を倒した時に出る黒い粒子だ。しばらくは体を休めておけ」
ミシェルがそう追加説明をつける。
窓を開けて外を見ると、王都が見えてきた。
「もう着きそう……わかった。今日はとりあえず家で休むよ」
そう微笑むと、守護魔の鳥が私にすり寄ってきた。
「ああ。私は国務が入っているからアスモダイと王宮へ戻る。ライラを一人にしておくのは気が引けるな……仕方ない、ベリアル ! お前ライラの様子を見てろ。ただしライラに何かしたらその首が飛ぶことになるぞ。その辺を肝に命じてろ」
「は ? ふざけんじゃねえよ。アスモダイ、何か言ってやれ」
ミシェルの命令に反発したベリアルがアスモダイに助けを求める。
「うちの主人は強引だからな。従っておく事を勧める。こう見えても国一番の白魔法の使い手だからな」
肩をすくめるアスモダイにベリアルは舌打ちをしたのだった。




