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『……ろも……待て……待ってくれっ ! 』
「……ッ ! ? 」
バッ、と飛び起き、辺りを見渡す。
シンプルな茶色のソファに木の本棚、アンティーク調のテーブルが目に入る。
(家か……私、休んでたんだっけ……何か、変な夢だったな)
よく分からないけど胸の奥がぎゅーって締め付けられるような感じで……。
俯いた途端、ぱたたっと両目から雫が溢れ落ちてシーツにシミをつくった。
私はぎょっとして慌てる。
(あれ、何で私泣いてるんだろ)
ごしごしと目元を拭い、ベッドから這い出た。
湖に落ちたせいか体が気だるい。
と、視線を後ろから感じて振り返る。
そこにはベリアルが立っていた。
一抹の違和感を感じ、思わずベリアルをじっと見てしまう。
なぜなら、ベリアルの格好は先程の古臭いローブではなかった。
黒い長袖のシャツに黒いスラックスという黒ずくめの服に、紅い宝石のネックレスがよく映えている。
「この時代の服はこんな感じか」
少しボーッとしていた私はベリアルの声で我に帰る。
「あ、うん。いいと思う。そんな服どこにあったの ? 」
「この時代に合わせて具現化させただけだ」
「へぇー、すごいんだね」
リーン。
ベルの音が家の中に響く。
「あ、ミシェル達が来たのかな」
慌てて玄関へ走っていき、ドアを開ける。
私が想像した通り、ミシェルとアスモダイが立っていた。
「二人共、上がって」
そう言って二人をリビングに案内した。
「そうだ、ライラ。風呂に入ったか ? 」
ミシェルに聞かれ、私はシャワーも浴びていなかった事に気づいた。
「あーっ、忘れてた ! ゴメン、しばらくくつろいでて。軽くシャワー浴びてくる」
私は急いでシャワールームに駆け込んだ。
そんなライラを見送り、ミシェルはソファに座った。
「ベリアルとやら。馬車の中でお前の事はアスモダイから聞いた。とりあえずは信用しておく」
「そりゃどうも。あいつ、親がいないと言っていたな。どういう事だ」
「ライラは赤ん坊の時に荒野で衰弱しきっていたところを保護された。本当に幸運中の幸運だった。普通は低級な悪魔に襲われる事が多いからな。それからは孤児院で生活していて、去年……つまり十五歳で孤児院を出て一人暮らしを始めて今に至る、ってとこだ」
ライラの壮絶な生い立ちをミシェルは話す。
部屋に微妙な空気が漂う中、底抜けに明るい声が響いた。
「ゴメン、待たせちゃって ! 出たよー」




