25.帰ったら今度はお前たちの番
咎人「う〜ん……やっぱ気になるなぁ」
休憩室の椅子に腰を下ろし俺は手元の写真を傾けていた。
……駄目だ。どこから見ても頭に乗った葉っぱを探している俺がいる。
みんないい顔をしている。
だから余計に自分だけもう少しどうにかならなかったのかと思ってしまう。
ロゼリオ「ちょっと♡いつまで見てんのよぉ♡そんなに見たら写真が焼けちゃうわよぉ?」
モノ「見ただけでは写真は焼けないよ。そんなの、不肖も見たことがない」
向かいのモノが真面目な顔でこちらを見た。
モノ「咎人の視線にそういう性質があるのなら別だけれど」
咎人「ないよ。あったら今頃鏡という鏡が全滅してる」
ラザルド「あっはは!やっぱ若いなぁモノっちは!そのままでいいと思うよ!」
モノ「……?何か変なことを言ったかな」
ロゼリオ「いいのよぉ。そのまっすぐなところ、アタシは好きよ♡」
モノ「……そう。ならよかった」
納得したようなしていないような顔でモノは自分の写真へ目を落とした。
その端を指先で丁寧にそろえる。
モノ「焼けることはないだろうけれど、折れないように入れ物を作ろうと思う。必要なら皆の分も」
ラザルド「お、そりゃ助かるねぇ。おじさんにも一つ頼める?」
モノ「もちろん」
ロゼリオ「アタシにもお願い♡飾っておきたいもの」
咎人「……俺にも」
モノ「分かった。咎人の分は葉を取り除いたものに作り直す?」
咎人「いや、写真はこのままでいい」
口にしてからもう一度見た。
俺の頭を指差して笑う06。
その横でつられて笑っている連中。
……葉っぱがなかったらこの顔にもなってないんだよな。
咎人「入れ物だけ、お願い」
モノ「うん」
そのときテーブルに置いていた通信の魔石が淡く光った。
城からだ。
手をかざすと光の中に黒服と目隠し姿の部下が映る。
部下「おくつろぎのところ失礼いたします。定時のご報告に参りました」
咎人「うん。城のほうはどう?」
部下「異常はございません。各所の巡回、周辺の警戒ともに滞りなく。城内も平穏を保っております」
咎人「そっか。よかった」
部下「皆様にもご不便などはございませんでしょうか」
咎人「こっちの心配までしなくていいよ。十分楽しませてもらったから」
そう答えると部下はほっとしたように頭を下げた。
部下「何よりでございます」
咎人「そっちは?ちゃんと休憩してる?」
部下「はい。交代で待機しております」
咎人「ご飯も?」
部下「はい。問題なく」
咎人「ならいい。俺たちがいないからっていつも以上に頑張りすぎなくていいからね」
部下「……お気遣い、恐れ入ります」
その声が少しだけ小さくなる。
咎人「あとさ。帰ったら、今度はそっちのみんなにも休みを取ってもらうから」
部下「我々に、でございますか?」
咎人「うん。今回留守番してくれた人たち全員」
部下「しかし、城の警備が……」
咎人「それはこっちで考えるよ。交代でもいいし、俺たちが残っててもいい」
部下「総帥や幹部の皆様にそのようなことを――」
咎人「俺の家の留守番くらい、俺にもできると思うんだけど」
部下がぴたりと黙った。
俺は少し笑って魔石に映る相手を見る。
咎人「俺たちが遊んでる間、安心して城を任せられる人がいたんだから。その人たちが遊びに行くときくらい俺たちにも任せてよ」
部下「……総帥」
咎人「遠くへ行ってもいいし、何もしないで寝ててもいい。休みの日まで俺が喜びそうなことを探さなくていいからね」
そこで言葉を切った。
どうにもこいつらは真面目すぎる。
休暇を与えても旅先で俺のために何かを仕入れてきたりしそうだ。
……土産は少し欲しいけど。それはそれだ。
咎人「自分が楽しいと思うことをしてきてよ。帰ってきたらその話を聞かせて」
部下はしばらく返事をしなかった。
やがていつもより深く頭を下げる。
部下「……承知いたしました。留守を預かる者たちにも必ずお伝えいたします」
咎人「うん。それと、お土産も買ったから。みんなで分けて」
部下「我々の分まで、ご用意くださったのですか」
咎人「待ってるほうにもちょっとくらい楽しみがあったほうがいいでしょ」
部下「……ありがとうございます」
今度の礼はいつもの報告の最後に添えられるものとは少し違って聞こえた。
俺も少しだけ背筋を伸ばす。
咎人「こちらこそ。いつもありがとう。もう少ししたら帰るから、それまでよろしくね」
部下「はい。皆様のお帰りをお待ちしております」
光が静かに消えた。魔石から手を離す。
するとすぐ隣から顔をのぞき込まれた。
Φ「わぁ♡咎人様部下にも優しぃ♡かっこいいよぉ♡」
咎人「ん?」
Φ「ねえねえかっこいい♡今のすっごくかっこよかった♡」
近い。あとやけに念を押してくる。
咎人「そ、そう?」
Φ「うん♡」
咎人「……まあ、上に立つ者として当然というか」
ベルベット「写真見てたときよりいい顔してんぞ」
咎人「うるさいな。今褒められてるんだから邪魔しないで」
Φが楽しそうに笑う。
その笑い声が少し落ち着いたところでスルトがぽつりと言った。
スルト「私たちも、連れてきてくれたの。嬉しかった」
振り向く。
スルトは両手で湯飲みを包みこちらを見ていた。
いつもと同じ静かな表情。
でもその言葉を言う前に少しだけ考えていたような間があった。
スルト「いつもは、帰ってくるのを待ってるから」
咎人「……うん」
スルト「今日は一緒に帰れる」
隣のローデリヒがゆっくりうなずいた。
ローデリヒ「はい。私も同じ気持ちでございます」
膝の上で手をそろえいつも以上に丁寧な声で続ける。
ローデリヒ「私とスルト、そして鵲は、幹部の中でも下位にございます。今回のお供を許された際も、皆様のお世話を務めるものと考えておりました」
咎人「実際、だいぶ世話してくれてたけどね」
ローデリヒ「……習慣とは、なかなか抜けぬものでして」
少しだけ苦笑する。
ローデリヒ「ですが、総帥は私にも席をご用意くださった。給仕をする側ではなく、皆様と同じ料理をいただく者として」
その視線がテーブルに置かれた集合写真へ向いた。
ローデリヒ「湯へ入るようにとお声をかけてくださり、写真にも当たり前のようにお呼びくださった」
ローデリヒ「……このような時間を私どもも共にしてよいのだと。そのことが何より嬉しくございました」
いつものローデリヒならここで「今後いっそう忠義を尽くします」と続けるだろう。
でも今回は少し迷ってからただ頭を下げた。
ローデリヒ「お誘いいただき、心より感謝申し上げます。今日のことは、生涯、忘れません」
その隣で鵲も小さくうなずいていた。
鵲「……私もです。任務のことを考えずに過ごすのは久しぶりでした」
シェンリィ「途中、彼に何を考えているのか聞いていたけどね」
鵲「あれは個人的な興味です」
咎人「それはそれで怖いんだけど」
少し笑いが起きた。
ローデリヒがまだ頭を下げているので俺は手を振る。
咎人「顔上げてよ。そんなに感謝されると次に誘うとき緊張するじゃん」
ローデリヒ「次も、ご一緒してよろしいのですか」
咎人「もちろん。来たいならね」
スルト「行く」
返事が早い。
鵲「私も、予定が合えば」
シェンリィ「素直に行きたいと言えばいいのに」
鵲「……行きたいです」
俺は頬を緩めそれから三人を見た。
咎人「そもそも、そんなの関係ないけどね。上とか下とか」
ローデリヒが顔を上げる。
咎人「役職とか位とか、表向きはそのほうが格好いいじゃん。最高幹部とかさ。呼ばれたらちょっと嬉しいし」
ベルベット「お前の趣味じゃねえか」
咎人「かなりそう」
即答するとロゼリオが声を上げて笑った。
咎人「任せる仕事が違うのはあるけど。誰を旅行に誘うとか、誰と一緒に飯を食うとか、そういうところで上だの下だのは特に気にしてないよ」
写真を指先で持ち上げる。
端のほうでローデリヒはいつものように姿勢を正している。
スルトは俺の隣。鵲も隠れずにちゃんと写っていた。
咎人「俺はここにいるみんなと来たかったんだから」
スルトが湯飲みへ目を落とした。
口元がほんの少し緩んだ気がする。
ローデリヒ「……はい」
今度は頭を下げずまっすぐこちらを見て答えた。
ロゼリオ「やぁねぇ。そんなこと言われたら次の旅行の準備まで始めちゃうじゃない♡」
ラザルド「おじさん、次も温泉でいいなぁ」
レイ「次は海とかもよくない?」
ニルカ「みんな、行くなら。どこでも、いい」
Φ「あたし、咎人様の隣ね♡」
紫苑「席順は、その……移動手段が決まってから、適切に」
ベルベット「もう次の話してんのかよ。まだ帰ってねえぞ」
咎人「そうだった」
立ち上がる。
写真を折らないようそっと荷物へしまった。
城には俺たちの帰りを待っている連中がいる。
土産を渡して今日の話をして。
今度はあいつらにも楽しい思いをしてもらおう。
咎人「これからも、みんなで仲良くやろうよ」
見渡すとそれぞれ違う顔で違う調子で返事が返ってきた。
俺は軽く伸びをして笑った。
咎人「さて、帰ろうか!」




