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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第41話:雇われないなら、作って売ればいいじゃない!






――それから、数日後。




「玄関すら開けて貰えなくなりました……。横の窓からチラッと見たら、あとは完全に無視ですよ! どう思います!?」


「あら〜、それは仕方ないですよぉ〜。なんたって大の人間嫌いだし〜」


「それにしてもですよ! いい歳した大人のすることですか!?」


「まぁ〜、色々あるんですよぉ〜」


 冒険者ギルドのカウンターで、美和は兎の受付嬢を相手にブツブツと小さな声で文句を言っていた。


 あの日から何度も丘の上の屋敷へ足を運んだものの、蛇族の主――ルードヴィヒ(受付嬢曰く、そんな名前らしい)は、口をきいてくれるどころか、最近では完全に居留守を使われ、窓の隙間から琥珀色の目で冷たく一瞥されるだけで終わる始末。


結局、あの好条件なグレーゾーン求人は諦めざるを得なかった。


(やっぱり、そう簡単にはいかないよね……)


 ギルドを後にし、トボトボと街を歩きながら美和はため息をついた。


 この獣人国に来て、新居を紹介してくれた豚の獣人や、街の人々のウェルカムな雰囲気に最初はホッとした。


実際、友好的な獣人は多いし、人間のことが好きなのだろうな、と感じる場面もたくさんある。


 だけど、それと同時に、同じくらい嫌われている。


それも、この数日の職探しで痛いほど思い知らされていた。


「……人間の国へ帰れよ」


 昨日、大通りですれ違った幼い豹の獣人の子供に、冷たい目でそう言われた時は流石にショックだった。


 職探しをする傍ら、この世界の歴史を学ぶうちに分かったこともたくさんある。


人族と獣人との仲は、想像以上に根深く、そして難しい。


(地球でも戦争や差別があって、奴隷制度の歴史もあった。正直、日本が平和すぎて軽く考えていたけれど……この世界は日本とは違うんだ)


 獣人たちが人間に向ける憎悪の深さは、一朝一夕で消えるものではない。


 自分にとって、そして何よりハルくんにとって、この獣人国で暮らすことが本当に正しいのか。


もう少し真剣に考えるべきなのかもしれない。


 けれど、少なくとも、この世界にある「4つの人族の国」のどれかに身を寄せるよりは、今はこの獣人国で様々なことを学び、視野を広げた方が良さそうだということは分かっていた。


 その4つの国のうちの一つが、この前まで自分たちがいた人間の国だ。


 昨夜、あの国が今どうなっているのかを何気なくレオに聞いてみた時の、男たちの反応が脳裏をよぎる。


『当然の結果だ』


 レオはいつになく真顔になり、冷淡にそう言い放った。


『精霊の愛しき子を怒らせたんだ、報いを受けて当然だよ! 美和さんが気にするようなことじゃないよ』


 ビッツもいつもの軽い調子を完全に消し、静かに首を横に振る。


『むしろ滅びろって思いました〜』


 小さな狐族のコハクからその言葉が飛び出してきた時は、流石にギョッとした。


 あの国が犯した罪の結果とはいえ、彼らにとって「人間の国がどうなろうと知ったことではない」のだ。


(……この先、ハルくんの教育を一歩間違えたら、とんでもないことになるんじゃ……)


 美和はズキズキと痛み出す頭を押さえた。


 ハルくんの背後には、あの壁紙と恐ろしいミスマッチを起こしている「国滅ぼしセット」を贈ってくるような最強の精霊たちがついている。


もしハルくんが人間の身勝手さに絶望したり、誰かを深く憎んだりしたら――。


「気を引き締めて、正しく育てないと……。私の育て方一つで、世界が滅ぶ……なんてね」


 夕食の席で、半分冗談混じりにそう笑ってみせた美和に、レオたち一同が箸を止め、一斉に「真顔」で「その通りだ」と頷いた時の恐怖は忘れられない。


本当に笑い事ではないのだ。


(怖い。何が正しいのかなんて、視点が変われば悪にも正義にもなる。……だからこそ、自分の目で見て、自分で考えて、自分で信じられる人間に育てよう)


 愛しい我が子の未来を思い、美和は心の中で固く誓った。


「よしっ、まずは今日のご飯だね!」


 気持ちを切り替えるように両頬をパンッと叩き、美和は活気溢れる市場へと足を踏み入れた。


 石畳の両脇に露店がズラリと並ぶ外国風の市場を、一つ一つ品物を物色しながら歩いていく。中には、人間嫌いオーラを隠そうともせず、「人間には売らないよ」と、あからさまに商品を売ってくれない店もあるけれど、比較的みんな好意的だ。


「あ! 姉ちゃん、姉ちゃん! 良い魚が入ったよ! 釣りたて!」


 威勢の良い声に振り返ると、そこにはもう何度も顔を合わせている鳥獣人の魚屋の店主が、大ぶりな魚を掲げて笑っていた。


「姉ちゃん」とはもちろん、美和のことだ。


「わあ、本当! すっごく新鮮!」


「そうだろ!?そうだろ!?塩焼きがオススメだぜぃ!」


 店主と楽しそうに言葉を交わしながら、美和の頭の中に、ふと一つのアイデアが閃いた。


(どこに行っても雇ってもらえないなら……)


 自分で……お店をしたら……?


 この温かい市場の片隅で、自分の得意な「料理」を使って、自分たちの力で生計を立てていく。


周りを見渡したら次々とアイディアが浮かんで来る。


祭りの出店みたいにその場で食べれる物とか……。


そんな新しい未来の可能性が、美和の胸の中で、小さな、けれど確かな光となって灯り始めるのだった。



いつも美和や遥斗を応援していただき、本当にありがとうございます!

昨日、最新話の更新予定日だったのですが……すみません、完全に寝落ちしてしまっておりました……!楽しみにお待ちいただいていたみなさん、本当にごめんなさい!

お詫びに2話連続投稿しましたので楽しんで頂けたら幸いです(汗)

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