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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第31話:カレーの残り滓と、無秩序な入国行進





結局、昨夜の騒動はレオの鉄拳と、ルゥの「我の飯(鍋の底)に触るな!」という威嚇で幕を閉じた――はずだった。



翌朝、国境の検問所へと続く道。


そこには、かつてないほど奇妙で、おびただしい大行列が出来上がっていた。


「なぁ、奥さん! 昨日のアレ、次はいつ作るんだ? 今日か? 今すぐか!?」


「無理よ。ルーがもう無いんですってば。それに朝からカレーは重いわよ」


「そんな! 人生の楽しみが昨日で終わっちまうなんてあんまりだ!」


「おい、そこのトカゲ! その鍋を寄越せ! まだ匂いが残ってるだろ!」


「くどいぞ犬共! 渡さぬ! この鍋の底にこびり付いたカレーは我のものだ! 舐め取るのは我の特権ぞ!」


一晩で完全に「食い意地の張った愛玩龍」へと成り下がったルゥが、鍋を抱えて唸っている。


その後ろでは、猫族の獣人たちが精霊たちを見つけて大はしゃぎだ。


「あ! 赤にゃ! 赤にゃよ! 赤い精霊にゃ! 初めて見たにゃ! 触りたいにゃよ、こっちに来るにゃ!」


キャキャと笑いながら、猫族の手をスルリと掻い潜る姿は楽しんでるようにも、バカにしてるようにも見える。


「俺が触るにゃ! 舐めさせろにゃ!」


「狡いにゃ! 舐めるのは私にゃよ!」


「猫共うるせぇぞ! 騒ぐな!」


「犬の方が煩いにゃ! あ〜、あのビッツの肩にも精霊が居るにゃ! 狡いにゃよ!」


「わぁ! 馬鹿! 猫共! 飛び掛かって来るな! この精霊はっ!」


「「にゃー!!(乱入)」」


ビッツが言い終わる前に飛び掛る猫族


だけど、一匹、また一匹と


「「「にゃ〜!」」」


四足歩行の子猫の姿になり



「きゃ〜可愛いっ!」


それを見た美和が、本来の姿(全裸の親父)を忘れて子猫を抱き締め、頬擦りし始めた。



阿鼻叫喚。


精霊を追いかける猫、その精霊の怒りを買い、強制的に愛らしい子猫へと変貌させられる猫。


突撃する猫を追い払う犬、鍋を死守する黒龍。


そして、呆れ果てて白目を剥くレオ。


普段ならこの騒音を止められる唯一の人物である美和は、今や「モフモフの沼」に沈んでいた。


「にゃんこ〜、はぁ〜天国……」


「……どうしてこうなった。美和、頼むから戻ってこい。現実を見ろ」


「レオ。この可愛さの前には、現実なんてどうでもいいわ! 見て、このつぶらな瞳! 尊すぎる!」



そんな美和の姿に怒り心頭なのは、愛する母を奪われた(?)息子の遥斗だった。



「マーっ! やっ! めっ! めっ! ムゥ〜!!」


「あらあら〜ハルくん、お餅焼いちゃって〜! 可愛い! 勿論ハルくんが一番よ! でも少しだけ、ママにモフを補給させて……! ほら、ハルくんも猫さん抱っこ〜」


(美和よ……その猫、昨夜の全裸の一人で、かなりゴッツイ髭面の親父だぞ……。見ろ、その猫の虚無を抱えた顔を……)


レオの切実な心の声は、主婦の歓喜に掻き消された。


そんな中、一人の猫族がルゥに無邪気な疑問を投げかけた。


「てか、そのトカゲは何獣人かにゃ? 変身は解かないのかにゃ? もっといい男になるのかにゃ?」


その言葉に、ルゥの誇りがピクリと反応した。


「我は高貴な存在ぞ。そこら辺のトカゲと一緒にするでない!」


「にゃはは、威勢がいいにゃ! 犬〜、疲れたから私を背中に乗せて運んでくれにゃ〜」


「嫌だ! 絶対やだね!」と拒否するビッツ。


ならばと、レオに矛先を変更する猫。


「こっちのデカイ犬が良いニャ! 乗り心地が良さそうニャ!」


猫はさらにしつこくレオへと絡みつく。それにレオを慕ってるビッツが即座に反応。


「あ! レオさんに纏わりつくな! 乗りたいならそのトカゲにおぶされ!」


「貴様らぁぁぁ! 我にはルゥという可愛い名前がある! トカゲなどと呼ぶな! それに……」



猫がビッツの言葉に反応し、ひょいっとルゥの背中に飛び乗ろうとした。


その瞬間、ルゥの堪忍袋の緒がブチ切れた。


「我の背中は、遥斗専用ぞぉぉぉぉぉ!!!」


ドォォォォォン!! という爆音と共に、ルゥが変身を解き、元の巨大な黒龍へと戻ってしまう。


「「「ひ、ひえぇぇぇぇぇぇ!!?」」」


周囲は騒然。


あまりの巨体とプレッシャーに、検問所の門番たちは腰を抜かし、猫族は毛を逆立てて木の上に飛び乗り、犬族は尻尾を巻いてク〜ンと鳴いた。


大混乱、阿鼻叫喚、乱痴気騒ぎ。


まさに無秩序の極み。


美和たち一行の入国は、この先、獣人国内で数百年語り継がれる伝説となった。


「おびただしい数の精霊を引き連れ、巨大な黒龍を従え、カレーの香りを漂わせる聖母がいた」と。


国境は大騒動。


入国審査どころではない。


「……ねぇ、レオ」


「……なんだ、美和」


「……お家にこの子猫、連れて帰りたくなっちゃった」


「……悪いことは言わない。それだけは、絶対にやめておけ」


遥斗だけが、巨大化したルゥの背中で「きゃっきゃっ!」と楽しそうに笑っていた。

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