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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第29話:聖泉アルテミスの涙(※お米研ぎ用)

すみません、少し長くなりました。



黒龍の広い背中に揺られながら、美和は眼下に広がる絶景に目を丸くしていた。


「ほへぇ〜……島が浮いてる。やっぱ異世界すごぉ〜い!」


「あれは天空の民の国、空島『エルフェスタ』だ。独自の魔導技術で浮力を保っている、世界で最も閉鎖的で入国が厳しいと言われる国だな」


レオが教える。


そこは羽根を持つ民が住み、希少な硝子陶器や独特の食料、そして何より美しい白い穀物で育つ不思議な動物がいるという。


「白い穀物……それってもしかして、お米!? 食べたい! 行ってみたい!」


目を輝かせる美和。しかし、レオの返答は無情だった。


「無理だ。入国審査の門は**『天を突く聖山よりも高く、竜の逆鱗を撫でるより険しい』**と言われている。各国の王族でも数年待ちという話だ」


「聖山、逆鱗……」


美和は指を咥え、遠ざかっていく美しい空島を「お米……エルフ……」と恨めしそうに見つめていた。


だが、諦めかけたその瞬間――。


キィィィィィィィン!!


けたたましい警報が空を切り裂いた。


「な、なんだ!? 敵襲か!?」


レオが身構えるが、原因は明らかだった。


伝説級の黒龍。それを取り囲むおびただしい数の精霊。そして何より、その中心で「すやすや」とお昼寝をしている遥斗の、無自覚かつ禍々しいまでの魔力オーラ。


空の民の鋭い感知能力は、その「世界の終わり」のようなプレッシャーを即座に捉えたのだ。


「何奴! 禍々しいオーラを放ちおって! 半径100メートル以内での威圧は宣戦布告と見なす!」


一気に飛び出してきたのは、背に真っ白な羽根を持つ飛龍騎士団。


「あぁ、すまぬ。オーラは我だ。1000年前はここにこのような島は無かったものでな」


黒龍が気だるげに答えると、騎士たちの顔色が劇的に変わった。


「なっ……黒い鱗に金色の瞳! まさか!」


「た、隊長! 俺は夢を見てるんですかね!? 目の前にあの伝説の黒龍様が!」


「バカ! 俺にも見えてるわ!」


次の瞬間、空中で数十騎の騎士たちが一斉に膝を突き、深々と頭を下げた。


空の民にとって、龍は神。その頂点に立つ黒龍は、崇拝の対象そのものだったのだ。


「我ら、神の再臨を歓迎いたします! どうか我が国へ!」


「……え、入れるの?」


美和がポカンとする中、エベレスト級の審査は一瞬で消滅し、一行は空島へとエスコートされることになった。


天空の着地場へゆっくりと舞い降りる黒龍。


地面に足がついた瞬間、そこにいた国王をはじめとする空の民全員が、こうべを垂れた。


(は、羽根っ! ……っ! エルフ! エルフぅ! ほわぁ! 神秘的! 美しい!)


美和の頭の中は、今や米どころではなかった。


(なんて綺麗な種族なの! 背高っ! シルクの髪! 尖った耳っ! 触らせてくださいって言ったら怒られるかな? 怒られるよね!


あぁ! 羽でも良い! いや、アレは触っちゃ駄目なやつ! 何この天国パラダイス! ここは天国なの!?)


顔に出さないように必死な美和だったが、鼻息が荒くなっているのは隠せていない。


「ようこそお越しくださいました。我ら一族、黒龍様を心より歓迎致します」


国王が厳かに告げると、ハルくんのペットと化している黒龍が、エッヘンと胸を張った。


「うむ、よきにはからえ」


(……どの口が言ってるのかしら、あのトカゲさん)


そんな冷ややかな視線を一瞬だけ送りつつ、美和は黒龍の背中からピョンと飛び降りた。


それまで美和たちの存在に気づいていなかったのか、周囲のザワザワとした声が急に大きくなる。


「人間……?」


「嘘だろ、空の上に人間がいるなんて」


入国審査が世界一厳しい、雲の上の閉鎖国家。


滅多に訪れない「人間」の姿に、美和は好奇の目にさらされることになった。


崇拝する黒龍の同行者とあって不快感を露わにする者は少ないが、それでも視線が痛い。


だが、そんなことは美和の「カレー欲」の前では無力だった。


「か、観光! 観光しましょう! 米! 米を探すのよ! カレーが作れるわ! 私は今、猛烈にカレーが食べたい!」


黒ちゃん(闇の精霊)の亜空間へ放り込んだエコバッグの中身を思い出し、美和の鼻息は荒くなる。


「お、おい、我も、我も行くっ……」


「黒龍様!」「神よ!」と一気にエルフたちに囲まれる黒龍を尻目に、美和たちはいそいそと歩き出した。


「なぁなぁ美和、カレーってなんだ?」


「ん〜、カレーはね、茶色い食べ物で、辛いけど美味しくて、ご飯と食べるの!」


「げ! 俺、辛いのムリ!」


「美和、さん。……遥斗が起きた」


「あら〜、ハルくん起っきしたのね〜って、レオ! また『さん』付け!」


「す、すまない……つい癖で」


美和がジト目でレオを見つめると居心地悪そうに身動ぎしたレオは「『美和』、だろ?」と諦め呟く。


それにニッコリ笑う美和。



背後では黒龍の悲痛な叫びが響いていた。


「おい、我を無視するな! 置いてくな!


……やめろ! 我に花を捧げるな、鼻がムズムズして敵わん! ……おい! 我も……我もカレーが食いたいんだぁぁ!」


その願いは、買い物の熱気に浮かされる美和の耳には届かなかった。


黒龍を置き去りに美和達一行は様々なお店が立ち並ぶ場所にやって来ていた。


「うわぁ〜絵本の中みたい……」


周りを見渡し感激に胸を打ち鳴らす美和


「たぃ〜!」


美和の口真似をしご機嫌な遥斗


そんな二人とレオ達は非常に目立っていた。



「ねぇ母様?あれは何?」


「指差しちゃダメよ! アレは『人間』という種族よ」


「耳が生えてるのも?」


「あれは獣人って言う種族よ」


「僕初めて見たぁ!」


閉鎖的な空島では、人間も獣人も珍しい「見世物」状態。


レオの提案でフードを深く被り、一行はようやく人混みを避けて念願の市場へと辿り着いた。


黒龍の存在を忘れ、楽しむ一行。


念願の「白い穀物(米)」を発見し、黒ちゃんの亜空間へ仕舞った時のこと。


店主の中性的なエルフが、美和をマジマジと見てキョトンとした顔をした。


「へぇ〜珍しい。こんなに小さいのに、亜空間持ちとは。人間にも才能ある個体がいるんだね」


「へ? 小さい……?」


「おっと、失礼。人間にしてはマダムな振る舞いだと思ったら、本当に母親だったのか! これは珍しいお客様だ」


エルフは長命種。


美和がどれだけ「大人の女性」として振舞っても、彼らからすれば「まだ乳歯でも生え変わっていない子供」に見えるらしい。


「人間は肉を食うというのは真か? あと一夫多妻制とは? 子供……おい、それは赤子か!? 人間の赤子! 歳は? 非常に興味深い!」


質問攻めに合う美和だったが、ハルくんを褒められて(珍しがられて)悪い気はしない。


「お肉は、細かくしてハンバーグみたいにすれば食べれますよ! この子はもうすぐ一歳です」


「ハンバーグ……!? 何だその未知の料理は。詳しく教えてくれ!」


気づけば意気投合し、美和は「カレーの具」になる野菜の情報を、エルフは「人間界の離乳食」の知識を交換し、ホクホク顔で別れることになった。


「この先の森を抜けると、国一番の聖泉『アルテミスの涙』がある。行ってみるといい。


この国自慢の泉だから。


そこの水は、どんな不純物も寄せ付けない至高の清らかさだと言われているよ」


エルフの店主の言葉に、美和の主婦センサーが激しく反応した。


「至高の清らかさ……。ねぇレオ、至高だって!見てみたいっ!」


「おいおい、聖泉の水って言っても、ただの水だろ?」


獣人のビッツからしたら共感出来ないことだった。


レオも小さく頷く。


店を後にした美和達はワイワイ喋りながら森へ向かう。


「え〜絶対綺麗だって!神秘的!至高! 黒ちゃん、空のペットボトル……じゃなくて、水筒の予備あったわよね!?」


「ギィ……(了解)」


黒の精霊が亜空間から、かつてログハウスで使っていた生活感溢れる容器を取り出した。


「まさか泉の水、飲むつもりか?」


「え〜ダメかな? 私の故郷(日本)でも、美味しい湧水が汲めるところは人気なのよ」


「ニホン……? また聞いたこともない地名を……」


レオが呆れる中、一行は神秘的な森を抜け、ついに『アルテミスの涙』へと到着した。


水晶のように澄んだ水面。


しかし、そこに立ち塞がったのは白銀の鎧に身を包んだ「聖泉守護騎士団」だった。



「止まれ! 何奴だ! 神聖なるアルテミスの涙に触れる不届き者!」


鋭い剣が突きつけられ、一触即発の事態。


しかし、ここで美和の腕の中にいた遥斗が「たぃ〜!」と無邪気に声を上げ、むちむちの手を泉の方へ伸ばした。


その瞬間。


泉を守っていた精霊たちが水面から次々と姿を現し、騎士たちが目を見開く中、遥斗に向かって深々と跪いたのだ。


「っ……おのれ!精霊を使い抵抗するか!?」


「捕らえろ!」


「え!?え!?」


驚く間もなく美和達へと槍を向ける騎士達。


だけど次の瞬間、上空に影が出来る。


美和達も、騎士達も言葉を失い見上げると、そこには見慣れた姿。


地響きのような羽音と共に、黄金の眼光が騎士たちを射抜いた


「ま、待て。あの黒い影……あれは黒龍様!?」


バッサバッサと大きな翼を羽ばたかせ、美和達目掛けてゆっくり降りてくる。


騎士たちは慌てて剣を収め、その場に平伏した。


「黒龍様っ!本当に我が国に……」


感無量の騎士達を尻目に黒龍がブルブルと震え言い放つ。


「我も……我も!仲間に入れろぉ!」


少し涙目の黒龍がいじけて美和をジト目で見つめる。


一触即発だった場が黒龍の登場で騎士達は頭を下げ美和達に謝る。


「失礼いたしました!黒龍様のお連れ様とは知らず……!」


「大丈夫です!あの……ここのお水って貰っちゃ駄目ですか?」



その言葉に騎士達が答える前に何故か


「うむ、許可する」


黒龍が偉そうに答える。


それに突っ込むのはビッツだった。


「お前が許可するのかよ」


勿論、黒龍の決定に騎士達が拒否出来るはずも無く、美和は感激しながら水筒に水を入れていく。


「これでご飯炊いたら美味しいかな?」



独り言を呟きながらニヤニヤと笑う美和


「……なぁ、ビッツ。アルテミスの涙って、今思い出したが、あの水だよな?たった一口で魔力が全回復するっていう宝物だったよな?」


「……見ちゃダメです、レオさん。今、あの水は『お米を研ぐための水』になろうとしているんです」


一方、黒龍が、思い出したように美和に向き直る。


「おい、我も、我もカレーを!」


「黒龍さんはダメ。さっきお留守番の間にエルフさんたちからお花いっぱい貰ったでしょ? お腹壊しちゃうわよ」


「花は食べておらん! 刺さっただけだ!」


かくして、空島で最高級の米と聖水をゲットした一行。


美和の鼻息は、次なる目的地「獣人の国」でカレーを作る野望に燃えて、ますます荒くなるのだった。


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