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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第26話:愛し子の真実と、最高の一杯






地下牢の底。湿った土の匂いと、逃れようのない絶望が混ざり合う。



レオは折れ曲がり、血の通った色を失った足を瓦礫の影に隠し、冷徹なまでに静かな声で告げた。



「いいか、ビッツ。俺は足を少し挫いただけだ。ここで休めばすぐに追いつく……。俺の頑丈さを知ってるだろ?だから、お前は二人を守って先に行け」



それが、誇り高き戦士が選んだ「死に場所」であることは明白だった。



ビッツは拳を地面に叩きつけ、血が滲むほどに歯を食いしばる。



「嘘だ……! 骨が、粉々に砕けてるじゃないですか……! 置いていけるわけないだろ!」



ビッツの慟哭が響く中、黒龍の首に導かれて美和が地下へ降り立った。



「大丈夫?何かあった?レオさんの国に行くの大丈夫じゃない? 早く行かないと日が暮れちゃうけど行ける?」



能天気な声。だが、美和はレオの異変にすぐ気づき、顔を真っ青にして駆け寄った。



「はっ……レオさん! その足……! 」


オロオロしながら近付いて来たが、何も出来ない現状に美和は凍り付く。だけど、すぐに精霊の存在を思い出す。



ここには幸か不幸か、おびただしい程の精霊が居る。


美和はゴクッと生唾を飲み込み、天井付近で漂ってる精霊に向け声を張り上げる。



それはレオを治したい一心だった。




「精霊さんっ……お願いします……レオさんの足を……身体を直してください」



おそらく足だけではない、きっと見えない箇所もボロボロの筈、私に出来る事なら何でもするからと美和は遥斗を抱えながら必死に両手を組む。



そして、魔の森で見守ってくれた精霊たちに祈りを捧げる。


お願いします……と願いを込め瞳を閉じる。



そんな美和の元へフワリと一体、また一体と精霊が降りてくる。



美和の周りをフワフワ飛び回る精霊達



だが。



現れた光の粒――精霊たちは、レオの傷に触れるどころか、美和の指先をすり抜け、楽しげに空中を舞い踊るだけだった。



『キャハハッ!』『アハハ!』



残酷なほど無邪気な笑い声。



腕の中の遥斗が泣き疲れ、スヤスヤと眠っている今、あるじの命令を介さない彼らにとって、獣人の命など道端の石ころと同義なのだ。



その光景を見て、レオの脳裏に衝撃が走った。



(……そうか。精霊を従えていたのは、美和さんじゃなかったんだな)



彼女は「精霊の愛し子」ではない。ただ、本物の愛し子であるあの赤子を抱く、「器」として認識されていたに過ぎなかったのだ。



愛しき子が大切な存在だから手を貸してただけ。


美和自身が大切なわけでもない。



だから、美和がどれほど必死に叫んでも、精霊たちは一顧だにしない。



絶望に顔を歪める美和を見て、レオは静かに目を閉じた。



やはり、奇跡などというものは、この世には存在しない。


レオは己の運命を受け入れ美和に向きなおる。


だがレオの声より先にビッツの声が響き渡る。


「……アレだ!アレだよ!」



少し興奮気味のビッツの声。



彼は自身の腰に下げたポーチを、ひったくるように開ける。



「精霊が助けないなら……力ずくで治してやる」



取り出したのは、レオ達が王都へ出発する前、美和が



「お守り代わりのハーブティーよ。出がらしだけど」と笑って渡してきた、ただの水筒。



以前、それを一口飲んだ時に感じた、身体中の魔力が沸き立ったあの異常な感覚を、ビッツは思い出していた。



「レオさん、これっ!これっ!俺っ」


ビッツは泣き叫ぶ様に声を張り上げる。


その声は何かを我慢する声にも、嬉しさを抑えきれないようにも聞こえる。



「ビッツ……それ……あの時の……」



「あぁ、そう……そうだよ!あの時のっ……」


これで治る!ビッツはそう信じ、確信してレオの口元へ水筒を寄せる。



中身が喉を通った、その瞬間。



ドクンッ!!


地下牢全体を、目が眩むほどの黄金の光が塗りつぶした。



メキメキッ、グシュッ、ピタッ!



ありえない速度で骨が再構築され、死んでいた筋肉が猛烈に再生していく。



その圧倒的な「生命の奔流」の気配に、さっきまで嘲笑っていた精霊たちが驚愕し、一転して平伏するようにレオの周りを祝福の光となって旋回し始めた。



「……え? 治った……? というか、前より力が……?」



恐る恐る立ち上がったレオの全身から、かつてないほどの濃密な魔力が溢れ出す。



ビッツは腰を抜かし、涙も鼻水も忘れて呆然とレオを見上げている。



そこへ、美和が涙を拭い、不思議そうに首を傾げた。


「二人とも……よかった! 治ったのね?何が何だか分からなかったけれど、良かったわ!これで心置きなく出発出来るわね!




やっぱり、獣人は身体能力も回復力も桁外れなのね……お茶で治るなんて……なにかレオさん達獣人に良い成分でも入ってるのかしら?


あ、お茶のおかわり、まだログハウスのポットにあるわよ?」


「……これは、ちゃんと教えないとな」


「……俺もそう思う」



どこまでも「獣人の生命力凄い!」で済ませようとする美和の横顔に、レオとビッツは言葉を失った。



「さあ、今のうちにログハウスへ行きましょう。ハルくんのオムツも哺乳瓶も、絶対置いていけないもの!」



完全復活したレオと、魂が抜けかけたビッツを乗せ、黒龍は夕焼けの空へと力強く飛び上がった。



瓦礫の山と化した王都をそのままに美和達は小さくなっていく。



その日、王都から精霊が居なくなり、復旧もままならない王都がどうなったかは、後の話で……。

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