第25話:戦士の終焉と無垢な呼び声
瓦礫に埋め尽くされた王都の一角。
その瓦礫の下、地下牢獄から必死に飛び上がってるのは美和だった。
遥斗に向かい手を伸ばす美和
だけど高すぎる位置
牢獄の出入り口は瓦礫に埋もれ見えない。
遥斗も必死に両手を伸ばす。
「ハルく〜ん!今行くからね!」
「ま〜!」
エグエグと泣く遥斗の姿に一刻も早く抱きしめないとと思う美和だが
「う、動くな!」
そんな遥斗や美和達を尻目に事態はさらなる状況に陥っていた。
「我らは王都聖騎士団!
悪災と見なし排除する!
魔獣を使役し、王都に多大な損害を与えた獣人は王都裁判で処罰が決まった!動かず大人しく投降すべし!
なお愛しき子から速やかに離れるべし!愛しき子は王に献上された王の私物である!」
聖騎士団の言葉に続くように前に出て来たのは真っ白なローブを纏った集団だった。
「我ら聖教会、魔の森の獣は聖教会管轄である!黒き獣を即刻引き渡すことを要求する」
そこにはいつの間に結集したのか、数百人の重武装した騎士と、神聖な魔力を練り上げる司祭たちが広場を包囲していた。
「……は?」
低い声を吐き出し、振り返るビッツ。その瞳は完全に野生の鋭さを取り戻している。
「私物? 管轄? ……おい、お前ら。この状況を見てまだそんな寝言が言えるのか?」
ビッツが腕の中の「爆弾(遥斗)」をチラリと見る。
遥斗は今、美和と離されているせいで、その全身の至る箇所からパチパチと金色の火花を散らしている。
それは周囲の精霊たちが「あいつら殺していい?」と遥斗に問いかけているサインだった。
「黙れ卑しき獣が! 愛しき子は王都の管轄だ!勿論、その子供である赤子もこの国に捧げるべき物!この国の繁栄の礎となるべき存在だ! 獣の手に触れさせてよいものではない!」
聖騎士団長が剣を抜き、美和がいる地下牢の穴を塞ぐように立ちふさがる。
「待って! 何度も言ったけど私は愛しき子って存在じゃないわ!それにハルくんは私の子供よ! 誰の物でもないわ!」
穴の底から美和の叫び声が響く。
だが、騎士たちはそれを無視して一斉に武器を構えた。
「――排除する!」
「……やっ!」
その声は少しも緊張感の無い、赤子特有の声。
「めっ!めっ!」
けれど確実に不機嫌なその声は遥斗から放たれた言葉だった。
プクッと頬を膨らませる遥人。その口癖は普段から美和が叱る時にすること
その仕草を覚えていたのか丸くてプクプクの頬をこれでもかと膨らませ眉を寄せる遥斗
「な!ただの赤子が!構えぇ!……放てぇぇ!」
「なっ!やめてっ!」
騎士たちの魔法と矢が、ビッツと遥斗、そして黒龍へと放たれた。
その瞬間、広場がまばゆい光に包まれる。
だが。
美和の悲鳴が響き渡るのが早かったか、美和が叫ぶと同時に、放たれた矢や魔法はすべて空中で静止し、カサカサと枯れ葉のように地面へ落ちた。
「な、なんだ!? 魔法が霧散しただと!?」
「あ……あぅ……」
遥斗が、美和の悲鳴を聞いて一瞬だけ動きを止める。
だが、ママが怒っている。ママを邪魔する奴らがいる。
その事実は、赤ちゃんの純粋すぎる正義感を着火させた。
「……マ、マ……い、いーー!!」
遥斗がぷっくりした頬をますます膨らませ、騎士団に向けて思い切り息を吸い込んだ。
「あ、おい遥斗、それはマズイ! 待て!少しだけ待てって!うわぁ〜間に合わねぇ!おい〜龍、今すぐ防壁張れ!張れるよな!」
ビッツが叫ぶと同時に、遥斗の口から放たれたのは、ただの泣き声ではない。
**「超重力波を伴った、イヤイヤ期の咆哮」**だった。
防壁が張られたのは僅かの差だった。
だけどその防壁は美和達だけ
もちろん、王都連中は生身。
ドォォォォォン!!!
王都自慢の聖騎士団の盾が、教会の高価なローブが、紙屑のように空へ舞い上がる。
誰も傷つけてはいない。ただ、全員がパンツ一丁のような姿にまで装備を剥ぎ取られ、王都の端まで文字通り「掃除」されてしまったのだ。
「……あ〜あ。仕方ねぇ……コイツを怒らせたお前らが悪い」
ビッツが呆れ顔でため息をつく。
そこへ、ようやく黒龍が地下へ首を伸ばし、美和をパクっと(猫の親が子を運ぶように)優しく銜え上げた。
「うわぁ。大きい牙ぁ……あ、ハルくん! お待たせ!」
龍の背中に吐き出された美和が、そのまま遥斗をぎゅーっと抱きしめる。
「マ〜〜!!」
さっきまでの破壊神が嘘のように、遥斗は美和の胸に顔を埋めてスリスリと甘え始めた。
その足元で、全裸同然で瓦礫に埋まった騎士団長が「バ、バカな……我が聖騎士団が、赤ん坊のひと泣きで……」と絶望し項垂れる。
「レオさん!手を……!」
そう言って地下牢へ横たわるレオへ向け手を伸ばす美和。
だけど、レオは顔をふるふると横へ向け苦笑いする
「すまない、俺は行けない」
そう言ったレオはすまなそうに眉を下げる。
レオの耳はヘタリと垂れ、尻尾は力なく項垂れる。
そんなレオに悲痛な声を掛けたのはビッツだった!
「レオさん!そんなっ!そんなこと言わないでくださいっ!一緒に行きましょう!」そう言ってレオへと手を伸ばすビッツ
だけどレオは顔を振るばかり
その手を決して掴もうとはしなかった
「俺のことは良い!この国を出たら俺たちの国を目指すと良い。美和も住みやすいと思う。それに子育てするなら他者の協力も居るだろう?そこなら……誰かしら力になってくれる」
「っ……嫌です!なんでですか!?レオさんも一緒に行きましょうよ!」
ビッツは必死に叫び、そしてとうとう我慢出来ず、レオが居る牢獄までその脚力を使って降りて行く。
だけど、レオの傍まで来たビッツはハッとする。
ビッツの目から流れる大量の涙。
滅多に流さないその涙の訳を、レオが一番よく分かっていた。
「ビッツ……大丈夫だから……泣くな?俺たちは誇り高きローの一族だろ?」
それでもビッツの涙は止まらなかった。
近くまで来て、ビッツは気付いた。
ふと視線を落としたビッツの心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
不自然な方向に折れ曲がり、血の通った色を失ったレオの足。
戦士として、誇り高き獣人として、その終わりを意味する残酷な光景に、視界が滲んだ。
つい先ほどまで響いていた怒号も、魔法の音も、今はもう聞こえない。
ただ、ビッツが地面に滴らせる涙の音だけが、不気味なほど静まり返った広場に響いているようだった。
レオの足は、もう動かない……
獣人にとって、それは戦士としての死をも意味することだった。
――だが。
遥か頭上、瓦礫の上からは、そんな絶望を微塵も感じさせない声が降ってくる。
レオが隠し、ビッツが打ちひしがれているその事実に、美和だけが気づいていなかった。
遥斗をその胸に抱き締め、再会の喜びに頬を染めた美和が、ニコニコと無邪気に叫ぶ。
「レオさんも早く登って来てっ!一緒に行きましょう!」
その明るい声は、不気味なほど静まり返った広場に、あまりにも場違いに、けれど力強く響き渡った。
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