第23話:黒龍、王都に現る
空の上、遥斗が笑い、ビッツが顔を青白く染めてた頃。
王都の空は、ざわめいていた。
最初に気付いたのは、城壁の上に立つ見張りだった。
「……なんだ、あれは」
遠く。
空の彼方に、黒い点。
「……と、り?」
「おいおい、鳥なんて珍しくもない。何言ってんだ」と見張り番の一人が笑う。
だけど、それは、ゆっくりと——しかし確実に、こちらへ近付いてくる。
その全容が、ゆっくりと露わになっていく。
「……違う」
遅れて、理解が追いついた。
あれは、鳥じゃない。
魔物でもない。
もっと——圧倒的な“何か”。
「報告だ!!」
声が裏返る。
鐘が鳴る。
王都に、警戒の音が響き渡る。
人々が空を見上げる。
商人が足を止める。
子供が指を差す。
そして——
誰もが、言葉を失った。
一瞬、王都に静寂が訪れる。
しかし、誰の言葉とも取れない呟きがポツリ響き渡る。
「黒……黒い……」
巨大な、黒。
空を覆うように広がる翼。
その一振りで、雲が散る。
「……龍……?」
誰かが、呟いた。
だが、それはすぐに否定される。
「あ……あれは……」
伝承でしか語られない存在。
——黒龍。
ざわめきは、恐怖へと変わる。
「なんで……こんな所に……」
「逃げろ……!」
「いや、無理だろ……!」
混乱が、広がる。
だが——
その黒龍は。
攻撃するでもなく。
破壊するでもなく。
ただ、まっすぐ王都へと到達し——
広い街の上空を、ゆっくりと迂回し始める。
逃げ惑うのは人々だった。
——その時。
一人の男が、声を震わせた。
「……あれ……」
黒龍の、大きな鍵爪に。
「……人?」
黒龍が何かを握りしめて——いや。
正確には、その手に
しがみつくようにしている影。
そして——
その腕の中に、小さな影。
「……赤子……?」
あり得ない光景。
黒龍。
人間。
そして——赤子。
そのすべてが、同時に存在している。
王都の空気が、凍りつく。
「……何が、起きてるんだ」
誰にも、分からない。
だけど次の瞬間、黒龍のけたたましい咆哮。
その金色の瞳が、ゆっくりと辺りを見渡す。
その姿は、何か探しているようにも見える。
——そして、もう一つ。
その巨大な黒龍と並行するようにフワフワと飛ぶ精霊の姿だった。
だけど——見えている者は、ほとんどいなかった。
だが——それでも。
その極小数の人間達は空を見上げる。
「この世の終わりだ……」
——夥しいほどの精霊。
見えていない者たちには——
それが、すべて黒龍の脅威にしか映っていなかった。
「何ボケッとしてるんだ!逃げるぞ」
「は?お前……アレが見えねぇのかよ……あんな……数、見たことねぇ」
その光景は
まさしく、あり得ないものだった。
ただ一つ、確かなのは——
あれは、災厄か。
それとも——
“何か”の来訪か。




