81章 ホッパー
そこはかとなく意図は理解できるが、肝心な部分は未だ謎のまま。やはり、このゲーム自体の本来の目的が、あまりにも漠然としすぎているような気がする。
(あのGMだったら、割とその場の気分ってこともあり得そうだけどな)
自分で諭しておきながら、梶樹は心の中で、流石にそれはないだろう、と苦笑した。
これだけ大掛かりな舞台を用意しているのだ。少なくとも、運営側はゲームマスターの一枚岩ではなくかなりの人数が動いている。初日に案内された黒服たちもそうだとすると、全貌は想像しているよりかはるかに巨大な組織だと考えられた。
(目的……か)
リアリティが高いがゆえ、念頭から消えがちになっているものの、大前提としてこのゲーム自体は大規模誘拐なのには違いない。そして、その中で死人も出ている以上は、類を見ない世紀の大犯罪だといえるだろう。
梶樹がここにいるのは、巨大ナメクジに遭遇したからだ。ほんの数十時間前のことのはずなのに、やけに遠いものに感じられるのは、状況がもたらす緊張感によるものなのだろうか。
「でも、確か一回はガチャ引けるんだよね?」
均衡を破ったのは、魅緒のひとこと。
「……ん、いつの間にかもらってたの」
繭愛が同調する。
そう、ほんの少しだけ前。サイドウェポンに必要な量の金額を前もって入手していることが判明したのだ。想定外の展開で忘れかけていたが。
「おにぃ、回してみようよ」
身を乗り出して、改まった顔になった繭愛。それに、周りが同調する。
「まぁ使えるんなら、な。越したことはねぇんじゃねぇか」
「アタシも。てか、やっぱガチャって引きたくならない?何が出るかーとか、気になるじゃん」
梶樹は多少、これでいいのかと思考を巡らせた。なにか、見落としているものはないか、と。
けれど、はっきりしたことはわからない。結局のところ、使えるものは最大限活用しなければ生き残れない。出し惜しみをしている場合ではないことは、早々に理解できた。
「……よし、引こう」
「そうこなくちゃな」と、覚羅。「いいの出て、お願いだから使えるの!」と、魅緒。そして繭愛は、梶樹の手に自分の手を重ね、そっと頷いた。
全員の意見が一致したこともあり、梶樹は素早く自分のスマホを操作、デッド・オア・ディアー専用のアプリから例の画面へと指を滑らせる。
「ガチャを引く」とありていに書かれただけの画面。確率表もなければトピックもない、明らかに闇鍋要素満載の沼の匂いがぷんぷんしている、現実であれば絶対に敬遠されるであろう不親切な画面。
四人が息を呑み見守る中、梶樹が意を決してボタンをタップする。
「おわ!?」
ポン!と何かが弾けるような音がして、上から急にダンボール箱が落ちてきた。ごつん、と魅緒の頭にぶつかって机の上に転がる。
「いたた……なに?今のもしかして演出なの?」
「めちゃくちゃシュールだったな」
覚羅が腕組みしながらうなる。確かに、能力ガチャのときは無駄に演出にこだわっていた気がする。サイドウェポンの場合は違うのか、それともただ単に条件を満たしていないのかもしれない。
「んで……こいつが武器になんのか?」
「なんだか……思ってたより小さくない?」
「わたしも、もうちょっと大きいかなって思ってた」
「見た限りは普通にダンボールだけどな……」
現れた箱の大きさは、ちょうど二リットルのペットボトルを箱買いしたくらいの大きさしかない。サイドウェポンというから、剣や槍など長いものを想像していたのだが……
「……ハズレってわけじゃないよな?」
沈黙が流れる。嫌な予感が全員の頭にこびりついていた。そう、要は使えないハズレモノの可能性が大きいのだ。武器らしい武器の形をしていないモノであることは、大きさからしてみれば一目瞭然であろう。
入手が難しい、特にそれをBPの会得量で実感したメンバーには重い話だ。
「ま、まぁ、開けてみよーよ。まだわかんないじゃん?」
魅緒が取り直そうとするが、声が明るくない。出鼻をくじかれた感がものすごかった。不安なのは共通事案だ。
「でもどうすんだ?力技で開けんのか?」
パキパキ指を鳴らす覚羅。けれど、梶樹は
「中身が分からないから、無理矢理こじ開けるのはやめたほうがいいだろ」
と、一蹴。
「ハサミとかカッターとかないの?ここ割となんでもありそうだけど」
その一言で何かを思い出したのか、側で聞いていた繭愛が瞳を大きくさせた。
「繭?」
「ちょっと待ってて、とってくるから」
と、何を思ったか席を立ち、そのまま奥の方へと行ってしまった。
ついていこうか、と考えた矢先、十数秒もしないうちに繭愛が何かを手に戻ってきた。
「これ……ダンボールカッター?」
「うん、今朝たまたま見つけたの」
「ナイス仕事だ、天聖。んじゃ、早速使わせてもらうとするか」
覚羅がキャップを外し、ギコギコとテープで留められた隙間に刃をねじ込んでいく。こういうことは慣れているのか、あっという間に開封が完了した。
「で……なんだ、これ?」
「何かの機械っぽい?かな?」
ダンボールの中身は、包装紙代わりのビニールで包まれた黒い、球のようなぴかぴかしたものだった。
説明書らしきものは見当たらなかったが、別に入っていた一枚の紙にはこう書かれていた。
「ヨハネス・ホッパー」と。




