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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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80章 懐柔

 ……いいや、今はやめておこう。これ以上突き詰めたところで、何かが変わるわけでもない。今、必要なのはそんな持論などではないのだから。


 まずは、現状の確認からだ。話はそこから始まる。梶樹はひとまず先に魅緒の疑問に答えることにした。


 「人数は割れてる。俺が見たのは二人、そのうち一人は魅緒さんも見てる」


 「うん。……アタシが見たのも二人。両方とも、死んじゃったろうけど……」


 魅緒と梶樹が把握しているのは、もちろん海老蔵のことだ。そして、どちらも片方は発見時もしくは後に死を確認しているため、実質的に三人ということになる。


 「……じゃあ、俺らが闘ったので全員ってことか」


 その声は、三人の誰でもないものだった。はっとして振り向くと、仁王立ちで仏頂面を浮かべる覚羅の姿があった。


 「十束、やっぱ戻ってたんだな」


 「あぁ?俺が簡単にくたばるわけねぇだろ。ま、天聖も途中から一緒だったしな。そこは聞いたんだろ?」


 「それは繭から……って、どうしたんだ?それ。怪我してるじゃないか」


 ふと、梶樹は覚羅の腕に赤く染まった布が巻かれてあることに気づいた。大きさと長さからして、包帯ではない。何の布かと聞こうとしたが、以外にも覚羅が焦ったそぶりを見せた。


 「こ、これは……別に、いいだろ。なんでも。そこまで大した傷でもない」


 ぷいとあさっての方向を向く覚羅に、梶樹の頭の上でクエスチョンマークが立った。あの覚羅を動揺させるとは、いったい何があったのか。


 不思議なことはもうひとつ。そんな梶樹と覚羅のやりとりを見ていた繭愛が、なんだか嬉しそうに目を細めたのである。


 「繭?」


 「ん?どうしたの、おにぃ」


 「いや、なんだか嬉しそうだったからさ。十束と一緒にいて何かあったのかなって」


 「うん。だって、お兄さんのうーー」


 「コラァーー!」


 すると、続きを言おうとする繭愛の前を、覚羅が素早く遮った。壁を作られた。普通なら見える速さなのに、覚羅の場合は速すぎて手の動きが目で追えないほどだ。


 あまりの勢いに繭愛が萎縮したようで、言いかけたものが途切れた。


 「アッキー、どしたの?」


 なにやら触れられたくないものに触れられたらしい。それをいの一番に感じとっただろう魅緒には、覚羅の止めは通用しない。


 やりづらいことこの上ない、といったところだろう。覚羅が露骨に嫌そうな顔をした。最も肝心の繭愛は口止めに成功しているのだが。


 「………………なんでもいいだろ」


 「間が長くない?」


 「うるっせぇ!今は別にいいだろ」


 舌打ちして悪態をつく覚羅だが、その仕草には何故だか覇気がない。すっかり毒気を抜かれてしまっているようだ。


 追撃をかける魅緒に覚羅が意識を向けているうちに、梶樹はスキをついて繭愛にこっそり耳打ちし、何があったかと尋ねてみることにした。


 「繭……何かあったのか?」


 「ん……ちょっと、ね。お話したの」


 「そっか。まぁ内容については聞かないけど、十束がだいぶ馴染んできたのは繭のおかげかな。昨日と比べたらかなり柔らかくなってる気がする」


 「……わたしも、そう思う」


 繭愛は少し、目を細め、微笑んだ。梶樹もいつの間にか自分でも不思議なくらいに、自然と笑みがこぼれていることに気づいた。



 「……で、どうするんだ、これからは」


 しばらく後、ちゃぶ台を囲む四人は座布団の上で会議を始めていた。議題にはじめに上がったのは、クリーチャー、もとい巨大生物とのゲームの立ち回りをどうするか、というものだった。


 「……正直、アタシはあんまり関わりたくないかな。スルーできるなら完全にスルーしたいけど」


 真近で惨劇を見てきた魅緒の言葉は、震えていた。実際死にかけたのだから無理もない話だが。


 「でもよ、確かサイドウェポンっての使うためにはアレをぶっ倒さねぇといけねぇんだったよな?そこんとこは大丈夫なのかよ」


 沈黙が流れる。


 もともと怪物たちと戦闘するメリットは皆無に等しいのに、それをほぼ強制させているのがこのシステムの存在だった。結論からいえば、相手を全滅させた時点で対戦は終了する仕組みなのだからゲームをクリアする観点から見ればただ無駄に労力を割いているようにしか見えない。


 しかし、それを引きつける目の前のニンジンこそがサイドウェポンという未知のアイテムであることは重々承知の事実でもある。性能の何一つが不明という状態ではあるが、能力の優劣をひっくり返すためのものだとすれば無視するわけにもいかない、というわけだ。


 「今回のBP(バトルポイント)ってやつは二桁にも足りてない。やっぱり入手しようとしたら撃破するしかないんだろうが……」


 梶樹は言葉を詰まらせる。正体がわからない相手を倒す、というのは人間でも怪物でも変わらないが、人間には感情という心のブレーキが一応ある。それに対して怪物たちは当然ながら心など持ちようはずがない。本能的に殺戮を働く、キラーマシンと同様だ。


 迷いがない、というのは見かけ以上に回避しづらい。心理戦が通じないとなれば、あとは能力面で勝る怪物に軍杯があがることになる。これを覆すには、相当強力な能力が必要になってくるわけだ。


 (繭をわざわざ危険な目に、遭わせられないしな……)


 繭愛の力でかかればやれないことはないにしても、下手をすればこちら側が怪我どころでは済まされない。そのリスクをあえて踏ませるようなやり方は、議論以前に論外だ。


 つまり、能力以外で秀でているものがないプレイヤー側の圧倒的不利。本当によくできたシステムだ。浅読みして深入りすれば、逆に命を落としかねない。運営側の考えが透けてくるようだった。


 


 

 

 


 

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