82章 オプション
一見すると、武器どころかよくある家電の一種にも見える。こんなものがサイドウェポンなのかと、その場の誰もが我が目を疑った。
特に魅緒の落胆ぶりは凄まじい。能力差を覆せるというのだから、神話に出てくるような「これこそ伝説の武器」に当たらずも遠からずな想いを馳せていたのだろう、数秒前のキラキラした目はどこへやら、深い影が落ちている。
「らしくねーぞ、新魂。こんなんでへこたれてどうすんだ」
「うぅ……だって……だって…………」
半分泣き目の魅緒を覚羅が叱咤する。元来が不器用な漢だけに、フォローもそれが謙虚に出てはいるが、言葉の中にしっかりと気遣いが垣間見えた。
(無理もないな……)
実のところ、梶樹も求められたら出てくるのは「がっかりした」のひとことだ。あれだけ前もって大きく宣伝したのだから、最低でもそれなりに役立つものが出てくるのだとほぼ確信していた。それだけに、フタを開ければ用途不明の金属のボールだった事実はかなりショッキングな出来事だった。
ブレードもなければトリガーもない、ただ黒く、丸い、球体のようなもの。まさか投擲用というわけでもないであろうし、今のところはタダの粗大ゴミだ。
「……ねぇ、これ……二つ入ってる」
ダンボールから包装のビニールを外していた繭愛がふと、そんなふうに呟きを漏らした。言われてみれば、よくよく見てみると別に包装されてある球体がもう一つ、箱の奥に鎮座していた。どういうことなのかと、梶樹は一瞬、疑問符を頭に浮かべた。が、箱の側面に重なって閉まる開け口があるのを見つけると、答えはすぐに理解できた。
ダンボールカッターを使わずとも、元から開けられるように設計されていたのであれば、そもそも開ける向きが間違っていたことになる。本来なら左右に二つが並んで入っている構図だったはずだ。先入観で長物と決め込んでいたばかりに起きたミスだった。
「同じものが二つ……?」
何かにつけて使うのか、それとも他に意味があるのか。いずれにしても、だからどうした、としか言うことはないが。セットものにしてもせめて説明書くらいはつけておいて欲しいものだ。
指定数の金額が足りなくなり、暗くなったサイドウェポンのガチャ画面に目を落とし、梶樹は静かにため息をついた。
と、球体を手にとった繭愛があることに気がつく。
「……おにぃ、わたしこれ、何かわかったかも」
「え?本当か?俺はさっぱりだが……」
「おにぃも知ってるよ。ほら、うちのパソコンにもついてるの。名前は忘れちゃったけど……」
「パソコン…………」
思い浮かべてみるが、それらしいものは記憶ない。というより、見たことがあるならとっくに気づいているはずなのだ。ついている、ということはマウスのようにオプションのひとつであろうか。
悩んでいる梶樹を見かねた繭愛は、球体をくるくると回して側面の一部分を指差した。そこには、どこかで見たことがある形状の小さな穴が空いている。大きさからして小指も入らないが、よくよく見ると細かい金属がきらりと鈍く光っていた。
「充電器……とは違うと思うけど。おにぃは、わかる?」
「……ちょっと待ってくれ。この形は……」
パソコン、穴、金属の光、これらのキーワードが重なりあって脳内が素早くそれに近しいもの、それらと思われるものをピックアップしていく。
「あぁ、なるほど。そういうことか」
「思い出した?」
「これが接続プラグだとすると、多分あれだな」
「分かったのか?水影」
横から覚羅が入ってきた。どうやら魅緒の慰めは終わったらしいが、それにしてもかなり長かった。事実を突きつけられてどうにかなることではないが、それらしきものは確かに存在する。
「まだ確定じゃないけど、この球は外付けハードディスクの一種だと思うぞ」
梶樹も繭愛も普段から家のパソコンを使うことがほぼないため置物になりがちだが、それらしいものがある、というのだけは覚えていた。外付けハードディスクとは、パソコン及びコンピュータのの容量過多を防ぐために内部とは別に設置するハードディスクのことである。ハードディスクは保存や記録をするために必要な媒体のため、普段使いではすぐに溢れてしまうことが多い。
これを利用することによって、録画した番組を別媒体で保存しておく、など利便性が高くなる。
……だが、どうやってもゲームに直接関わるようなシロモノには見えない。よくも悪くも現代的といえば聞こえはいいが、今欲しいかと尋ねられて答える返事は、限りなくノーに近い。
「にしてもこれをどう使えってんだ?要は計算機みたいなもんだろ。殴り合いに計算機なんていらねぇぞ」
「いや、その通りなんだけどな?」
はっきりと断定できないのは、これが普通のハードディスクでないという考えからだ。ここまで幾度も不思議なことが起こっているのに、ここらで現実を見ろだなんて話はいくらなんでもナシだろう。サイドウェポンというからには、なにかがあると踏んでいたほうがいい。
「……ま、いいだろ。次のバトルはまた明日みてぇだし。ひとまずこれのことは忘れろ。いいな?」
結局他に意見も出ることはなく、傷心の魅緒をケアする形でお開きとなった。
次のバトルまで、残り10時間。時刻は午後2時を回ろうとしていた。




