表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/118

79章 動揺の波

 普段と変わらない繭愛を見た瞬間、梶樹の中の張り詰めたものがひとつ、崩れた気がした。


 とてとて小走りでこちらへ向かってくる繭愛を、梶樹は腕を広げて迎え入れた。


 「繭……!お前も無事だったんだな、よかった……」


 「お兄さんと、いっしょにいたから。おにぃは、どうだったの?大きい虫、大丈夫だった?」


 「あぁ、見たよ。でも……俺より、魅緒さんが…………」


 本当なら無事であることに歓喜したいところだが、素直には喜べない。魅緒が受けた心の傷は、大きい。


 自分の代わりになどという綺麗なものではなかったが、同じようなことを経験した梶樹には、人並み以上にその辛さが分かる。


 「お姉さん、大丈夫……?」


 心配そうに覗きこむ繭愛に、何かが魅緒を動かしたのか、彼女は繭愛を抱きとめ、すがりつくように掠れた声を絞った。当の繭愛は少し驚いたようで、わずかに瞳が揺れたが、魅緒の意志を汲み取ったらしく、されるがままになっている。


 「ごめん……ごめん、あみゅたん……アタシ、ちょっと弱気になっちゃって……。ダメだよね、こんなんじゃ」


 弱音を吐き出す魅緒の姿を見て、梶樹は懐かしい子ども時代の映画を見ているような、そんな感覚を得ていた。


 嗚呼、そうだ。


 これは、あのときの自分と同じ立ち位置なのだと、そう実感した。両親を亡くし、死の概念に改めて生々しく触れたとき、これほどにも恐ろしく理不尽なものなのかと知った。


 誰とも知れない神サマを呪って、なにもかも放り投げて、もうどうなったってよかった。全てが意味のない、どうなってもいいと投げ出して、生きるを放棄しようとした。


 あのとき、繭愛に出会っていなかったらと今でも思う。そして、考える。もし、自分が繭愛に特別な想いを持っていたとしても、それを押し付けるようなことはあってはならないと。いくら彼女がお互い様といってもこれだけは変わらないだろう。

 

 自分はーー水影梶樹は、もう救われたのだから。だから、同じように、繭愛にも救いがなくてはいけないと思う。繭愛が受けた傷は、こんな程度(流れる時間)じゃ消えないほどに深く刺さっているだろうからーー。




 「ーーにぃ。ねぇ、おにぃ?」


 はっとして意識が戻ると、目の前に繭愛の顔があった。魅緒のほうはというと、どうやら多少は落ち着いたようで、肩を上下してはいるもののうわずった声ではなくなっていた。


 「……悪い、繭。また考え事で沼ったみたいだ」


 どうも悪い癖のようだった。自分では意図していないのに、指摘されて初めて気づく。まぁ概ね癖とはそういうものなのだろうが、こうも周りが聞こえないものか。

 

 「うぅん、気にしないで。それより、おにぃが考えてることを教えて。わたし、今のところで気になってることがあるの」


 「さっきのゲームで、か?」


 こくり、繭愛は頷く。


 確かに、先程は今までのゲームとは大きく変わった展開が強いられたが、そのぶん不可解なことがそれまで以上に増えた。

それが、明確な死を目の当たりにして朧気になっている気がしてならない。


 「アタシも。っていうか……アタシが見た相手側の人数が足りてないんだよね。カゲっちは途中から会ったけど、結局見かけたのはあの人だけだったし……」


 海老蔵のことを思い出しているのか、魅緒の手がふるふると震えている。梶樹も同じように悲しみを分かち合いたいところなのだが、何故かそれが沸いてこなかった。


 (廃れたかな、俺は)


 人並みより倫理に関しての体感が鈍いことは、薄々感じとっていた。あの事件がもたらしたものは繭愛だけでなく、自分までも蝕んでいる。


 別に人の死に対してなにも感じないわけではないが、魅音の動揺を津波とするなら、梶樹の場合は井戸の中に起こる小波程度といったところだろう。それほど起伏が抑えられているのはやはり、繭愛を"糧"としてきた反動なのか。


 依存という形で残った気持ちの安定剤が、今こうして変異しているとするなら、受けなくてはいけない報いなのだろう。


 (それでも……俺は……)



 


 

 

 


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ