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Act.38 伝説の魔物、討伐へ


「これはちょっと、まずい気がする」

 依頼のことで、ロランが魔物の本を片っ端から開いて調べてる。

 今までそんなことなかった。どんな魔物でもすぐに思い出せてたのに。

「ロランでもわからないの?」

「僕が知らないことは世界に無数にあるよ。でもこれはちょっと」

「大変なの?」

「文献がほとんどない。明日、魔術大学の図書館に行こう」

 家にだって本はすごくたくさんあるのに、それでもわからないなんて。

 翌日、ロランは魔術師の服にアームガード。

 初めて行った、魔術大学。

 魔術学校より全体的に静か。

 みんな研究をする人だからかな。

 歩きながら議論をしてる人たちもいるけど、大声を出す人は全然いない。

 研究者って穏やかなんだな。

 研究といえば、僕をオーブンに放り込んだ奴。

 研究者の資格を剥奪されて、いつ刑務所から出られるかわからないって。

 庭から魔獣みたいな骨がたくさん見つかったって聞いた。

 実験とかで死なせたのを隠したんだろうって、ロランが言ってた。

 ロランは図書館の入り口でギルドカードを出した。

 それからカウンターの中の人と少し話して何か受け取って、中に入った。

 ものすごい……ものすごく大きな部屋の視界に入る全部が本だ。

 うちの図書室なんて全然比べられない。

 調べ物の間、僕は椅子の脚にもたれて昼寝。

 広い図書館を散歩したり。

 ロランは机に戻るとカウンターでもらったカード出して置く。必要なんだって。

 半日後、図書館を出た。

 僕はロランの左腕に飛びついて話した。

「図書館ってギルドカードがいるんだね」

「あれは〝係員に許可をもらっています〟っていう証明カードをを借りるため」

「証明がないと図書館使えないの?」

「本の内容を書き写してたから」

「書き写してもいいの?」

「許可があればね。大学だって大金を使って本を集めてるんだから、むやみに書き写されたら困るよ」

「それで、調べ物はわかった?」

「全然わからない……しばらく通わなきゃ」

 1週間通って、やっと資料が見つかったみたい、だけど……。

「本当に困ったな……依頼書以外の情報が出て来ない。やっぱりまずい」

「戦うの?」

「逃げたい」

 初めて聞いた、ロランのそんな言葉。

 すごい敵なんだ。ロランが躊躇しちゃうほど。

 黙ったまま僕たちは家に帰った。

 ロランはお茶をリビングで飲まずに部屋に持っていった。

 僕もついて行った。

「相手はとても大きくて、体力も相当高いと考えられる」

「強いの? レッドバックより?」

「比較にならない。それと強力な雷魔法を使うようなんだ」

 あんなに苦労したレッドバックビーストより強い!?

「蛇や龍みたいに長い。とぐろを巻いてフワフワ浮いたりもする」

「大きくて浮くの? それで?」

「ここまでしかわからない、伝説級の魔物なんだ。500年前に現れたって文献があった」

 500年前?!

 僕の前のコールサルトと変わらない。

 確かに伝説。

「でも倒されたわけじゃない、姿を消しただけ」

「雷魔法は衝撃もあるから防御が大変だよね」

「受け流せるけど、流した先で衝撃が出る。戦士の足下が心配だ」

「地面が固いところに強い雷なんて落ちたら、割れて怖い」

「そんな魔法を何度も使われたら長くは持ちこたえられない」

「僕も雷を打って相殺できるかな?」

 ロランは手を額に当てた。

「僕の仕事を増やさないで」

 うーん¬¬得意なんだけど難しいなあ、雷魔法。

「相手がもし他にも魔法を持っていたら本当に無理だ、抑えきれない」

「みんなが危ないよ、やめた方がいいよ」

「それ以前に受けるパーティがないんじゃないかな。負け戦確定なんだから」

「レイドは?」

「僕が守れるのは4名様までだよ」

 そう言って、ロランは依頼を保留にした。

 確かにヴァルターシュタイン家は勇敢だけど、魔術師ひとりじゃ何もできない。

 予想通り引き受けるパーティなし、フリーもゼロ。棚上げの案件になった。

 少人数で倒せるわけないし、ロランは4人までしか守れない。

 誰も受けられないよ、そんな討伐。

 その間もロランには別の仕事がいくつもある。

 世の中には魔法を使う魔物がこんなにたくさんいるのかって、ロランとバディになってから改めて驚く。

 マリスは普通の魔術師だったから、無理な仕事は受けなかった。

 勇敢と無謀は違うから。

 1度だけ、アイスリザードはやった。ただし2匹。

 パーティにシールドを持った人がいたから。

 でなくちゃ怖くて魔法を使う敵なんて無理。

 だから滞ってた話がどんどん来るんだ。

 そしてどれも高難易度の依頼ばかりだから、ロランはめでたくSランクに昇格した。

 16才でのSランク昇格の前例は、歴史の話になるって。

 ギルドカードを更新したロランは、そのまままっすぐにパートナーショップに行って、正式にシェッティを譲ってもらう手続きをして、家に帰った。

「シェッティ、シェッティ、どこにいるんだい?」

 シェッティの力って実はDランク相当なんだよね。

 実戦に出てなかったからGランクだっただけ。

 これから現場で経験を重ねて、すぐにランクアップするよ。

 呼ばれたシェッティが寝そべってたソファの陰から立ち上がると、ロランは前に膝を折って言った。

「僕と仮契約する?」

『マジ!? するする! 俺が全力で旦那を守るぜ!』

 しっぽ、ブンブン振ってる。

 そのままふたりは部屋の方に行って、しばらくしたら戻って来た。

「改めてよろしく、彼はケイ、今までどおり仲良くしてあげて」

『やったね、ケイ! ヴァルターシュタイン家にようこそ!』

『ウハー、やっと名前ついた! 今後ともよろしくな!』

 ロランが使えるカードは2枚になった。

 ただし、忙しくなったけど。

 ケイのランク上げで弱い魔獣を大量に討伐しなくちゃならなくなって。

 相手はEランクFランク。退屈過ぎる。

 でも元々能力があるからトントン上がった。

 家の魔法訓練場で自習もできるし。

 そのタイミングで、あの依頼ふたたび。

「S、A。Bランクの登録者が招集されることになりそうだ」

「それで大丈夫なの?」

「対応できるのは僕と、魔法反射魔法を持ってる人のパーティ」

「反射は物理攻撃しかできなくなるんでしょ?」

「魔法での回復もできないし、長丁場は確定だから現実的じゃないね」

 ロランはお茶をひと口飲んで、小さくため息をついた。

「どうしたらいいのかな、ロラン……」

「今打てる最善の方法を教えようか?」

「手があるの!?」

 ロランはちょっと笑って言った。

「今回は〝招集〟っていうのが鍵なんだ」

「みんな呼ばれるんでしょ?」

「ううん〝招集〟っていうだけで〝強制〟じゃない」

「じゃあ行かなくていいんじゃん」

「ところが、これを蹴れない魔術師がいる——僕だ」

 あ……家訓……。

「ロラン・ヴァルターシュタインを餌にして、命知らずの戦士を4人釣る」

 そんな、ひどい……!

「富とか、名声とか、そういうのが大好きな人はいるからね」

「なっ、なんでそんな回りくどいことするの? おかしいよ!」

「いつもはギルドから依頼があるからね」

「じゃあどうして直接呼ばないのさ!」

 ロランが普段見せない顔をした。

 ちょっと意地悪そうな微笑。

「未成年の魔術師に〝お前死んでこい〟とは言えないから」

 ——猫でもわかった……ギルドの体面なんだって。

 ギルドは世界規模の大組織。討伐依頼を受けつけないのは沽券に関わる。

 ちゃんと派遣したからなって言い訳なんだ。

 ロランが死ぬかもしれないのは織り込み済みなんだ。

 誰も勝てるなんて思ってない。

 捨て石なんだ……。勝てばよし、負けても仕方がない。

「強制招集して行かせたら警察沙汰だよ。幹部の何人かが逮捕だ」

「警察沙汰でいいじゃないか!」

「ダメ。僕は自分の意思で招集に応じるわけだから」

「断りなよ、そんなの!」

「僕はこの家の当主であることに誇りを持ってるんだ」

「…………」

「退かない、これだけは」

「君がもし死んじゃったら、跡取りいないんだよ?! 家どうするの!」

「戦闘魔術師が家を守って討伐に行かないなんてダメでしょ」

 そんな話をしてたら、ケイが来た。

『おいおいおい、俺抜きで穏やかじゃねえ話してんな?』

「——ケイだ!!」

「あっ……可愛くて忘れてた、物理攻撃補助!」

『肉弾戦なら俺様を抜きに語るなよ〜』

「でも、相手は空中に逃げると思う」

「重力魔法で地面に押さえつければいいんじゃない?」

 普段、重力魔法ってめったに使わないから計算に入ってなかった?

 ロランは忘れてたのを思い出して真剣な顔になったけど。

「ケイに訊いてほしいことがあるんだ」

「いいよ」

「物理攻撃補助は何回まで使える?」

『そうだな、回復を念頭におかなきゃ……15発』

「って言ってる」

「そんなに使えるの!?」

「戦闘力を上げた状態で持続できるね」

『効果は3割増し持続時間は10分。2時間半だ、余裕だろ?』

 でもロランは喜んだふうはなくて、むしろ深刻な顔になった。

「——死ぬかもしれないけど行けるか訊いて。仮契約だから無理しなくていい」

『行くに決まってんだろ! しっぽ巻くくらいなら契約しねえわ! 死ぬときゃ〝これがヴァルターシュタイン家の魔獣の死に様だ!〟って威張れる死に方するからな』

「——だって」

 ロランは少し苦笑して、ケイの頭をなでた。

 ケイはしっぽを振って嬉しそう。

「君が僕のところに来てくれて本当に心強いよ。でも死んじゃダメ」

 巡り合わせってすごいよね。

「少し時間がかかると思うけど、必ず君もバディにするから待ってて」

『おう、俺がキレッキレの現役のうちに頼むぜ旦那!』

「ルイはどう? 2時間半、ティアマトを押さえつけられる?」

 今、魔力5500だからね、

 ロランの仕事がハイランクばかりだから、僕もスイスイ上がる。

「上から押さえつけるのはそんなに大変じゃないよ。摂理に合ってるから」

「助かる」

「使う魔力自体は少ない魔法だけど、相手が大きいと地味にくるね」

 そして僕たちは想定訓練を始めた。

『君は魔法のかけ直しでロランの結界から出るかもしれない』

 ケイは補助も回復も非接触でできるけど、範囲に限界がある。

『まあ、そうなる可能性はあるな。戦士が有効範囲から出ちまったとか』

 シールドはあるけど使うと体力を削られる。

 できれば避けたい。

『とにかく的にされないように、雷に当たったら即死だ』

『血ぃダラダラ流しながら足掻いて死ぬより楽でいいじゃん』

 確かにそれはそうだけど……ロランには言わないでおこう。

 ケイは訓練所を借りて、とにかく走る。

 瞬発力のあるターンに磨きをかける。

 どんどん走り込む。

 相手は雷なんだ。光ったらどこかに落ちる。

 立ち止まって方角を確認する時間なんてない。

 だから何かあった時、狙いを定められないようにしておかないと。

 魔法の練習はうちでできる。し放題。

 Sランクの魔術師が使う建物だもん、魔獣じゃ壊せない。

 でも僕が本当に全力を出せるのは現場でだけ。

 ……クレアから「高価だから壊さないで」とは言われてる。

 実戦に出たことがないわりにケイは魔力が高い。

 最初600くらいで、それでも実戦経験なしじゃ高かったのに、もう1000を超えてる。

『俺、魔力上がりやすいタチなのよ。体質ってやつ?』

 本当に戦闘魔術師のバディに向いてる。

 原っぱで薬草探しに従事してなくてよかった。

 攻撃以外の魔法の計測も家でできるから楽。

「ルイの補助魔法は攻撃と魔法が4割、ケイの回復魔法は5割……補助魔法は物理攻撃が4割増し以上……どうなってるんだい君たちは」

 ロラン、苦笑。

『君、実は天才なんじゃないの、ケイ?』

『だから言ったろ、俺様のありあまる才能を世界が欲してるって!』

 どこまで冗談なのか本気なのか、見極めるのが難しい。

 これにはロランも笑ってる。

「今までうちの子にはいなかったタイプだ。直接話せたら楽しいだろうね」

「楽しいよ、お調子者で。でも、やる時はきちんとできるし」

「本当にうちはいつも優れた魔獣に恵まれてる。これからもよろしく」

 そんなふうに特訓して、ケイのランク相応の討伐を重ねて。

 ケイはあっさりCランクまで駆け上がった。

 ほんとに天才だった。

 確かにケイは魔法とスキルは数が少なかった。

 でもポテンシャルは並外れてたんだ。

 トレーニングでシールドも加速度的に強くなった。

 最初はちょっとした火でも防げなくて大騒ぎだったけど。

 今はもうランク以上の力だ。

 ドームの大きさは3メートルに足りないけど、自分とバディは守れる。

『ランク上げねえと旦那の本来の仕事について行けねえだろ!』

 本当にその通り。申請しても許可が出ない。

 だけど今の君は十分強い。

 そのタイミングで、ロランはティアマト討伐に名乗りを上げた。

 ギルドマスターの思惑に乗ってあげて、貸しひとつ。

 命かかってるけどね。

「僕は自分を信じているし、君たちも信じてる」

 全力で応えるよ、僕たちは。

 みんな、お互いを信じてる。

 ギルドで「ロランが立ったぞ!!」って大騒ぎ。あっという間に広がった。

 どれほど調べても今手元にある情報しかないなら、先送りの意味がない。

 今ある情報だけで討伐に踏み切る。

 やれることは全部やった。引き延ばす理由もない。

〝常に冷静で勇敢であれ、人々の役に立て〟という、先祖代々の家訓。

 小さな背中に家名を背負って。

 Cランクだけど、ケイも同行する。

 相手の情報ないし、伝説の魔物としかいわれてないんだもん。

 ランク設定がない。

 ブリーダーギルドもショップ組合も申請を却下する論理的根拠がない。

 ロランの計算通り。

 もちろんケイは跳ね回って大喜び。

『ティアマト討伐の戦士を募ります。4名まで。ただし労災に加入している方のみ。生還の保証を致しかねるため』

 ギルドの依頼ボードに募集が貼られた。

 ロランは「まあ簡単には集まらないよ」って苦笑してたけど。

 その日のうちに、ひとり手を挙げた。

 初陣の時、うっかりロランを死なせかけたナリマンさんだ。

「今こそ借りを返すぞ、一緒に行こう」

「たぶん、本当に死にますよ」

「死ぬ時は何が相手でも死ぬもんだ」

 なんて言って笑ってる。

 意外なことに、3日くらいで枠は埋まってしまった。

 遠征してた隣の町から馬で駆けつけた人も。

 みんな、ロランが行くことになったら一緒に行くって決めてたって。

 戦闘で気が合ったり命を助けられたり、ロランを信じてくれる人たち。

 お金や名誉を欲しがる人は誰もいなかった。

「お前が物理攻撃補助ができるやつか。4割以上上がるって? すげえな」

 お兄さんが片膝をついてケイをなでまわしてる。

「ケイです。今回が事実上の初陣ですが、必ずやってくれますよ」

「あっはっは、あんな超大物が初陣とは、お前はツイてるぞケイ」

『やっぱそう思うよな! 俺様ラッキー!』

「名が上がるぞ。生きて帰っても死んでもどっちにしてもな」

『勝手に殺すな! 俺はまだ1匹も子ども作ってねえんだぞ!』

 僕も抱っこされてなでられてる。

「久しぶりだなあルイ。あの時は助けてくれてありがとうよ」

 ナイトメアの時一緒だったシンさんとネロさんだ。

 久しぶり、元気そうだね!

「いっぺん落とした命だ、ロランとお前にくれてやるぜ」

「よぉっ、久しぶり! お前となら地獄までつき合うぞ!」

 19才のケント君はロランの戦友。

 彼が入ってるパーティに何度も呼ばれてて、ものすごく息が合う。

 ロランが動かなければ立たなかった人たち。

 立ったら駆けつけてくれた人たち。

 Sランクの人だって立候補しなかったのにさ。

 集まったのはBランクやCランクの人たちだった。

 さあ、メンバーは集まった。さっそく準備だ。

 人が住むところに堂々と巣を作ろうとしている巨大な敵、ティアマトを駆除するために。


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