Act.39 約束してくれる?
ティアマト、すごく大きな、蛇と龍の間みたいな魔物。
空中に浮いてて、とぐろを巻いて、頭にある2本の角で火花を散らして雷を落とす。
もちろん攻撃もすごいって、しっぽ一振りで大きな岩も木っ端微塵。
「——ということなんです。依頼書に書かれている内容しかわからない状態です」
「とぐろを巻いた状態で約4メートル、伸ばせば15メートル程度と思われる、か」
「胴体直径2メートル前後。強力な雷魔法を持っている……めんどくせえー」
「他にも何か持っている可能性もあります。くれぐれも用心してください」
出陣は明日、現在ギルドのラウンジで作戦会議中。
「ティアマトか……伝説でしか聞いたことがない魔物だ」
「まさか実在したとはねえ」
「つっても、ここまで来たらケツまくらねえんだろ、オッサンたち」
「オッサン言うな、小便小僧」
みんな、あっという間に馴染んでしまった。
「おそらく長丁場になると思います。こっちの計算通りにはいかないでしょう」
『長丁場? 戦闘長引くの?』
『大きくて強くて雷魔法があるからね』
『補助魔法15回じゃ足りねえかな、魔力上がったし頑張りゃ30は出せるけど』
『そんなことしたら君が危ないよ。結界の外で魔力切れになったらどうするのさ』
『潔く散る』
『まだ子ども作ってないじゃないか!』
『う…………』
『それに時間が長くなったってフォワードがもたないよ』
ほんとにケイは一か八かの勝負師だなあ。
うちに来てから変わった?
こんなに腹の据わった子だったかな?
ロランと相性がいいのかな。来たばかりとは思えない。
「作戦はひとつしかありません」
とても単純な作戦だ。
「僕は結界、ルイが重力魔法でティアマトを地面に固定します」
「化け物を固定なんてできるのか、ルイに」
ロラン、涼しい顔。
「できないなんて言わせませんよ、僕のバディなんですから」
ひとごとだと思って。
「ケイがみなさんに攻撃補助魔法をかけます」
「けっこう強いんだろう?」
「約5割増、持続時間はおよそ10分、15回まで使えます」
「5割マジか。すげえな、お前んとこの魔獣は」
「その2時間半の間に仕留められなかったら、僕たちの負けです」
「直径2メートルの首か……」
「要するに蛇の親分だろ? うろこ硬いんだろうな、俺二刀流で行くわ」
「そっか、俺も予備を持ってこ」
「一か所剥がれれば、そこから俺が槍を入れて急所を突く」
「それがベターだと思います」
うまくいくといいな。
「イレギュラーはいろいろあるでしょうが、この基本戦術に沿っていきましょう」
「死んでも恨みっこなしだぞ」
「自分で首突っ込んだんだから当然っしょ」
「大丈夫大丈夫、労災入ってんだから死んでも嫁は怒らねえさ」
「はっはっは、確かにな!」
「ケントはそういう心配なくていいな」
「や、俺嫁いるっす」
「いつ結婚したんだい、君!」
「ここ来る前日」
「君って奴は! 奥さんが可哀想じゃないか!」
「いや、ティアマト潰してこねえと離婚だって」
「はぁ!?」
「逃げ帰ったら俺、命ないっすよ。倒すか戦死か二択」
「すげえ嫁だな」
「Bランクっす。喧嘩は嫁の方がめっちゃ強ぇ」
「結婚して1日で嫁のケツに敷かれてやがんの」
「人のこと言えるのかお前」
「自慢じゃねえが結婚前から敷かれてる」
みんな陽気でよく笑う。
作戦会議が終わって解散。
家に帰ったらミリアがいた。
「どうしたんだいミリア? 学校帰り?」
そしたらミリアは目を伏せて小さな声で言った。
「学校のみんなが、ロランが帰ってくるかどうか、賭けをしてる……」
「賭けなんて先生に知れたらみんな叱られるよ」
ロラン、たぶん論点はそこじゃない。
それくらい猫でもわかるよ。
「私、まだ魔術物理学を最初の方しか教えてもらってない……」
今年入学したのに、中等部の勉強って……誰かさんみたい。
「大丈夫、ちゃんと続きを教えてあげるから」
「——本当にちゃんと教えてくれる?」
「もちろん」
「約束してくれる?」
「うん、約束するよ」
ひと段落したところでクレアの声。
「ロラン、着替えて手を洗っていらっしゃい、お茶にしましょ」
「はい、今」
「ルイ、ケイ、あなたたちもおやつの時間」
僕とケイはソファの横でおやつ。
ロランはミリアとお茶。
なんだか違うよね。
今はSランク戦闘魔術師のロラン・ヴァルターシュタインじゃない。
ロラン少年。優しい男の子。
何だか可愛い。
『何か旦那、子どもみてえだな』
『ロランは小柄で童顔だからね』
僕だけじゃなかった。ケイも同じ感想だった。
ミリアが話す学校の話をロランは笑顔で聞いてる。
一生懸命話してるミリア……怖いんだね。
ロランが帰って来なかったらどうしようって。
今は〝ものすごい魔術師だけど優しいお兄さん〟だろうけど。
ゆっくりお茶を飲んで、ロランはミリアを家まで送る。
僕とケイもお供。
「ロランはパーティリーダーだよって、お父さんが言ってた」
「今回は僕が集めたパーティだから、責任持たないと」
「待ってるから、帰って来てね」
「大丈夫だよ。観光地じゃないからお土産はないけど」
「お土産はいらない、魔術物理学の続きを教えて」
「君は勉強熱心だね。立派な魔術師になれるよ」
ミリアを送り届けて、来た道を歩く。
『彼女が来て、よかったんじゃねえ?』
『うん、リラックスできたみたいだね』
『肩に力入ってたもんなー』
『敵は伝説級の魔物、16才の魔術師がパーティーリーダー、メンバーは5人と2匹。どれも前代未聞だから』
『その、前代未聞に俺様も参加するんだなっ! テンション爆アガるー!』
「何か楽しそうだね、君たち」
「楽しいのはケイ。すっごく気分高揚してる」
ロランは笑顔をみせた。
ミリアのおかげで出発前にいい時間を持てた。




