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Act.32 初陣…………なのだが


 ロランは荷物が届いた。

 細長いの。

 ロランはそれを部屋に持っていって、厳重な梱包を解いた。

 中から出て来たのは……何だろう?

 首を傾げて見てたら、ロランが笑った。

「ソードだよ」

 魔術師だって想定外のことが起きたら物理攻撃する可能性もある。

 だから厳しい体術の授業があったんだし。

 僕がいるからいらないかなって思ってたけど……。

 それって慢心だよねきっと。

 保険はいくらあってもいい。

 これがソードなのかあ。

 白い木箱に入ってる。ふたつ。

 細いな、ケースから見てもよくあるソードより細い。

 でも長さは脚の付け根くらいまでありそう。

「2本あるの?」

「刃が傷んだら研ぎ直してもらわなくちゃならないから、その間丸腰だと困るからね」

「交代で使うんだね」

 そう、と言って、ロランは細い鞘を握ってソードを抜いた。

 真っ直ぐじゃない。

 ちょっとだけ刀身が反ってて片刃だ。

 見たことない。

 え? これって大丈夫? 細くない?

 刃薄いんじゃない?

 片刃なんて使いにくくないの?

「何ていうの?」

「カタナっていって、隣のヤマト帝国の職人さんが作ってるんだ」

「隣の国でわざわざ作ったの?」

「持ってる人は国内にはいないかもね、剣士向きじゃないし」

 ちょっと頼りないかなあ。力伝わらない感じ。

 普通は魔術師は長物を持たないし。

 うーん……一抹の不安。

「僕は体が小さいから一般的なソードは扱いにくい」

「無理なのは確かだよ」

 振り回されて危ない。

「ショートソードは重さのわりに使い勝手が中途半端」

 ロラン、小柄でリーチが短いから。

「ダガーは1本じゃダメ、ランスとボウは邪魔……いろいろ探して、これが合いそうだなと思って」

 そうか、この独特なソードは正解かも。

 刃が薄くて少し反ってるから、力が弱くても斬りやすいかもしれない。

 反ってるのがポイントなんだ。

「グリップが手に馴染むし。ものすごくバランスがいいソードだ」

 ずいぶん気に入ってるみたい。

 でもせっかく魔術師になったのに、カタナも届いたのに、ギルドに行くふうはない。

「魔術師になったのにギルドに行かないの?」

 お茶の時間、ロランに訊いた。

 何か、すごく微妙そうな顔。

「うん……身内から禁忌が出たから、自主的に謹慎中」

「お仕置きでギルド行けないの?」

「そうじゃないよ。ないけど……しばらく身を慎みたい」

 バレルは逮捕されて取り調べ中。

 凶器の草刈り鎌に呪術をかけた魔術師たちは死刑確定。

 禁忌を犯したら死刑。殺人の企てなんて罪が上乗せ。

 バレルは実行犯だけどまだ15才の未成年。

 死刑にはならないかもしれないって。

 ただ、ロランを2度殺そうとしたのは裁判所も揉めてるみたい。

 クレアもロランも言わなかったのにさ。

 あいつ、感情昂ぶって全部自白しちゃったみたい。

 うちに警察の人が来て、話を聞かれた。

 正直に答えるしかない。

 確かに2度狙うって悪質だよね……いくら子どもでも釈放はないな。

 3度目があったら大変だもん。

「実際、問題はあるんだ」

 ロランはクッキーをポリポリ食べて、お茶を飲んだ。

「本当なら死刑になる罪人……一生自由になれないのは確定だけど」

 出せないよね。猫でもわかるよ。

「独房からも出さないと思うんだ」

「どくぼう?」

「ひとりっきりの牢屋のこと。何人も一緒に入るのは雑居房」

「ひとりで閉じ込めておくの?」

「あんな性格だから雑居房だと他の受刑者と揉めるよ」

「すごいことになるね……」

「強制労働も無理かもね……他の人と一緒にさせられない」

「きょうせいろうどうって何?」

「罰だよ。刑務所の中で働かされるんだ。重労働だよ」

「うーん、バレルと働くっていうのが結びつかない」

「でも、そうすると一生無為徒食になってしまう。税金でそれは難しい」

「むいとしょくって?」

「働かないでご飯を食べて、だらだら生きること」

「それはダメだって猫でもわかるよ。罪人なのに」

「まあね……悪い予感が当たらなければいいけど」

 その悪い予感は当たったらしくて。

 裁判の判決を聞きに行ったロランがクレアに何か言ったら、うつむいて奥に引っ込んでしまった。

 キッチンになんて立ったことがないロラン、ものすごく大変な思いをしてお茶を淹れたけど、美味しくないらしい。

 表情もすごく暗い。

 無資格魔術師3人は裁判官全員一致で死刑判決。

「バレルは……売却処分だった。3年間牢に繋がれて、18才になったら売られる」

 ロランは口の中にある何か嫌なものを、お茶で流してるみたいだ。

「殺人未遂2回と禁忌、やっぱり無為徒食は無理だった……」

 ゴロゴロしてご飯を食べるのは無理だったみたいだ。

「18才成人なら死刑だったんだけど」

「売られるって大変なことなの?」

「奴隷になるんだ。死刑の方が彼には救いだったかもしれない」

 思ってたより事態は厳しいらしい。

「まさか呪いを使って情状酌量があるなんて考えてなかったはずだけど……きっと初めから何も考えてなかったんだろうね、僕を殺したい一心で」

 ロランはうつむいて暗い目で言った。

「俺は悪くない弟が悪いって泣き叫んで、看守に引きずられて退廷していった」

 自分が長男なんだ、いまだに。

「死刑の方がいいくらい大変なの?」

「自由は認められない。理不尽な命令にも逆らう権利はない」

「うちから出て行った時みたいに逃げちゃうでしょ」

「逃げられないよ……そういうものなんだ、奴隷って」

 数日内に競売? っていうのがあるって言って。

 何日かしたら書類が来て、読んだクレアはやっぱり泣いてた。

 ロランに訊いたら、鉄鉱石を掘る会社だって言ってた。

 ものすごく過酷で、奴隷が大勢働かされてるって。

 働くわけないじゃんって思ったけど、鞭でぶたれたり食事をもらえなかったり、命令に従わないと生きていけない、すごい世界だって。

 自我がもつかな、あの子。

 無理かも。

 今度こそ頭が変になる気がする。

 死刑の方がよかったかもって、僕も思った。

 18才になったら引き渡しで、代金は税金に。

 罪人を売ったお金だから。

 薄暗い雰囲気の中で静かに暮らしてたら、ロラン宛に手紙が来た。

 冒険者ギルドのマスターからだ。

「何て書いてあるの?」

「いくつも依頼が来てるから早く登録して働け、っていう内容」

「ギルドに呼ばれたの!? え? まだ登録してなかったの?」

「そう……。マスター、僕の立場もわかってほしい……」

 立場は……わからなくはないけど、呼ばれてるんだよ?

「あんなことがあったから、魔術師として信用問題だからね……」

「早く行こうよ! ロランに助けてほしい人がたくさんいるんだ!」

 煮え切らない返事をするロラン。

「ヴァルターシュタイン家の当主は、人の役に立たなきゃダメだよ!」

 ロランは苦笑して更衣室に行った。

 少ししたら着替えて、アームガードを着けながら戻って来た。

 左の腰にカタナを差してる。スマートでカッコいい。

 こうしてみると君にとても似合ってる。

「君が言う通りだ。当主の責務を果たさないと」

 アームガードに飛びついた僕を抱えて、ロランはギルドに向かう。

 まだちょっと照れくさそう、魔術師の服。

 お日様に透けると青い髪と、青い瞳。

 僕のバディ。

「ご指名ってことは、魔法結界だな……僕の仕事は魔術師なんだけど」

 仕方ないよ、稀少スキルだもん。

 ものすごく頑張って会得したんだから、使わないともったいないよ。

 ギルドのドアを開けてホールに入った。

 中にいた人たちがみんな僕たちを見る。

「待ってたぞロラン」

 声をかけられた。

「お前が来ないからやりたい依頼も受けられん」

 バレルが禁忌を犯したのに、誰もロランを責めない。

 そうだよね、ロランは〝正しい子〟なんだ。

「仕度してさっさと行くぞ、魔法結界、味わってみたいぜ」

 あちこちから声をかけられながら登録の手続きを済ませた。

 と同時にカウンターに依頼書を何枚も出された。

 うわー、全部魔法を持った魔物。しかも複数。

 これ、みんなレベル高い。

「できれば急いで頂きたいのがこれです」

 アイスリザード。面倒くさい相手だよ。

 氷魔法とアイスブレスを使う奴。

 僕、一度、パーティに呼ばれて戦ったけどさ、近づくの大変。

 魔法反射で力業。

 ちょっと近づくと氷魔法とアイスブレスでやられちゃうんだ。

 頭からしっぽの先まで2メートルくらい。

 Cランク指定なんだけど、事実上のBランクっていわれてる。

 とりあえず3匹以上はいると。

〝以上〟ね……つまり〝何匹いるかわかりません〟ってことだよね。

 危なくてうかつに近づけないから、仕方ないか。

「食用の魚が捕れなくて、タウンの方々が困っています」

 ロラン、ちょっと無言。

「あの……僕は初陣なんですが……」

「あなたなら大丈夫です!」

 カウンター越しのお姉さんに思いっきり断言された。

 根拠はどこにあるんだろう?

 うん、もちろんロランなら大丈夫だけど。

「ほれ決めろ、行くぞ、俺たちはずっと待ってたんだ」

 マリスくらいの年の剣士に肩を叩かれて。

「俺が命がけで守ってやる、一緒に来い!」

「あ、ええ……」

「何だ、装備持ってないのか?」

「いえ、あります」

「じゃあ決まりだ」

「いっ、いえ、ルイを同行するので手続きがっ」

 ものすごい勢いで初陣が決まって、バディ同行の手続きに走って。

 普通は前もって申請しておくからね、こういうの初めて。

 敵は数もわからない厄介な奴で。

 家に戻れないから、ホールにいた同級生にクレアに言伝を頼んで。

 まさかこんな勢いでデビューが決まるとは思わなかった。

 馬車に乗って目的地に向かう。

 みんなのバディは連れて行かない。

 魔法結界も無条件ってわけにはいかないって。

 目的地の町に着いたのは2日後。

 出発してからロランとはあまり話せてない。

 馬車の中で話せないし。

 休憩の時もパーティの人と仲良くしなきゃいけないし。

 1泊してからアイスリザード討伐。

 出没情報がある、森の中の湖。

 お日様が入りにくくて薄暗い。

 じっとり湿度が高くて、アイスリザードが好む環境。

 湖の近くで何度も見かけられてて、住民のみんなが行けなくて困ってる。

「遭遇してからでは遅いので、結界を張ります」

 ロランは自然な力みのない姿勢で、みんなの方に手をかざした。

 僕、初めて見たよ。魔術師のロラン。

 普段と全然表情が違う。

 初陣なのに緊張した感じはしないな。

 でも引き締まってる。

 いい感じの臨戦態勢だ。

「事前に申し上げた通り僕から離れすぎないでください」

 目で追える範囲にいないとダメなんだって。

 意識できなくなるから。

「視認できる範囲でないと結界を維持できなくなります」

 ロランはそう言って、ひとりずつを包むように球体の結界を作った。

 もちろん自分にも。

 まぁるい網の球がみんなを包むのが一瞬だけ見えた。

 すごい、何これ? いくつも同時に結界張れるの!?

 僕、てっきりみんなまとめてだと思ってた——けど、それじゃ戦闘できないもんね。

 本当にすごいんだ、ロランは。

「いたぞ! ちくしょう、すばしっこい!」

「任せろ!」

 1匹倒した。

 問題は数だけど、さすがにそれは僕にもわからない。

 でも気配は多い。3匹どころじゃない。

 みんな神経を張り詰めて気配を探る。

「右にいる! アロイス!」

 連携がいい。2匹目。

 ひとりがアイスブレスかけられたけど、居場所がバレて3匹目。

「大丈夫か?」

「おう、全然問題ねえ! 結界すげえや」

 そうしたら、仲間がやられたからか、何匹も出てきた!

「ルイ、行って!」

「でも……」

「ナリマンさんがいてくれるから大丈夫。みんなを手伝って。僕が助かる」

 離れるのはちょっと心配だけど、護衛さんに任せる。

 僕はこの面倒なのを倒さなきゃ。

 その前に……。

 あたり一帯を走り回った。追い出しだ。

 待って探ってたらきりがない、ロランだってもたなくなる。

 追い出されたリザードの喉をレザークローで掻き切った。

 実はけっこうたくさんいるんじゃないかな?

 パーティの人たちもものすごく頑張ってるのに、まだ気配が消えない。

 みんな疲れてたから魔法で回復した。

 直接触らなくても使えるように進化させたんだ、神聖魔法。

 すごい、魔法結界って本当に弾かないんだ、治療系魔法。

 湖の周りを一周して追い立ててみたけど、もう出てこなかった。

 おかしいな……気配はある、んだけど。

 僕が目の前に座ると、ロランはちょっと疲れた顔で笑んだ。

 結界を解除。

「お疲れ!」

 護衛の人がパーティと合流しようとしてロランから離れた。

 直後。

 ロランに這い寄ったアイスリザード。

 レザークローで一撃。

 終わり。

 追い立てて出て来なくても、現場を出るまで、森を抜けるまで、気を緩めない。

 残ってるかもしれない、依頼を受けてない魔物に襲われるかもしれない。

 不測の事態なんて、いつ起きてもおかしくない。

 ——実は、現在進行形、だ……。

 マリスの二の舞は絶対に嫌だ。

「すまん! 大口を叩いておいて死なせるところだった! 借りにしておいてくれ!」

 本気で謝ってる護衛さんに、ロランはちょっと疲れた笑顔で手を振った。

「大丈夫ですよ。結果さえよければすべていいんだと父が言っていましたし」

 そう言って笑ってたロランの目がスッ……と冷めた。

 僕が動こうとしたら、ロランに視線で止められた。

 ロランは斜め後ろの方に軽い動きで走っていく。すごく身軽だ。

 20メートルくらいで魔物がロランの前に立ちはだかった。

 大型のアイスリザード、変異種だ。

 まずい、大きすぎる、普通種の3倍はあるよ!

 後ろ足としっぽで体を半分起こしたリザード、見上げるほど大きくて、これは僕じゃないとダメだと直感した。

 相手が食いつこうとして頭を下げようとしてる。

 ロランは真正面に立って動かなくて。

 まさか動揺した?!

 移動魔法で飛んだ時、ロランが左手でカタナの鞘を押さえて、食いつこうとしたリザードの喉を刃で横に一直線に薙いだ。

 けど、全然ダメージがない、空振りだ!

 と思ったら、リザードの動きが止まった。

 無傷の喉にポツポツと赤い粒の列ができてきて——大きなリザードが喉から血を噴いて倒れた。

 何が起きたのかわからなかった。

 返り血を避けて横によけてたロランが静かに深く呼吸した。

「試してみたかったんだ。やっぱり補助魔法をまとわせると威力がすごいな」

 いや、すごいのは君でしょ。パーティの人たちも呆然としてるよ。

 ほんとに君デビュー戦なの!?

 ちょっと腰が引けるとか、ないの!?

 ヴァルターシュタイン家の人ってみんなそうなの!?

 そして。

 確かに〝3匹以上〟っていう情報だったけど。

 23匹もいたじゃないか! どういうことなのさこれ?!

 しかも変異種まで!

 ちょっとこれ、情報誤差の範囲を逸脱してる。

「これってさ、特別報償の対象だよな」

「初期情報の7倍とか、ねえだろ普通」

「しかも変異種のおまけつきだ」

「ともかくも交渉しようぜ」

 みんな証明の背中の皮を切って、ギルドに行った。

 変異種だけはマジックバッグに入れてお持ち帰り。

 これだけで特別報償もの。

「特別報償出たぞー!」

 みんな嬉しそう。ロランも嬉しそう。

 僕も嬉しいけど気疲れでグッタリ。

 ロランって、現場だと人格変わるんだ……。

 確かにマリスもクレアもそうだ。

 たぶん僕もそうなんだろうな。

 そしてロラン・ヴァルターシュタイン、Cランクに昇格した。

 まだ学校を出て2か月も経ってないけど。

 普通、学校出てすぐに変異種の大型リザードをひとりで倒さないって。

 しかも一刀両断だし。

 カタナって切れ味すごいんだな……。


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