2519.予想外の幕切れ
(これが『魔神級』か……。明らかにワシのような『大魔王領域』とは差があり過ぎる。こやつは移動を行いながらも、決して油断や隙を見せずに逐一こちらの様子を窺いながら迫ってきよる。ワシが『呪法』を使う者と知らなければ、今頃はあっさりと距離を詰められていたじゃろうな。しかしその強すぎる警戒心が逆にワシを救ってくれたようじゃ)
フルーフはこれまで思考を重ねながら移動を行っていたが、その間何もしなかったわけではなく、意味有り気に手に『魔力』を集約させたり、視線を周囲に這わせて何か『スタック』ポイントに施しているような気配をあえて出して、エグゼに警戒心を持たせる動きを見せ続けていたのだった。
そしてそれはどうやら効果があった様子であり、すでに何もしなければ今頃はもう捕まえられていてもおかしくなかったが、まだ捕縛されずに一定の距離を保つ事が出来ていた。
流石にこのまま逃げ遂せるとまでは当然にフルーフも考えてはいないが、それでもエグゼ程の相手でもやりようによっては何とかなると、フルーフは戦力値では雲泥の差があるであろう『魔神級』を相手にそう考え始める。
(ソフィと戦った時はどんな策を弄しても勝ち目がないと思ったものだが、こやつに関しては分かりやすい隙などは見当たらないが、それでもこちらが色々と手を尽くせば、まだ何とかなりそうじゃな)
そう考えたフルーフはこれまで移動の合間に、ブラフやハッタリで用いていた『見せる魔力』を実際に使い始めようと試みる。
「むっ!」
これまで愚直にフルーフを追いかけていたエグゼは、何かしらのアクションを仕掛けてくるだろうと攻撃を行わずに反撃の準備をしながら様子を見ていたが、ここでフルーフの目を見た事でこれまでの気配が明確に変わった事を感じ取り、更に防御する事に意識を向けるのだった。
しかしこのエグゼの防御に意識を向ける事自体が、フルーフにとっては好都合な事と言えるのだった。
――呪文、『呪蝕』。
互いに『高速転移』等を用いて移動を行いながらの状況である為、いくら気配を察知しようとも直接的な『極大魔法』などではない限りは、対策を取る事が非常に難しい。そんな状況下でフルーフは、自身のフェイント攻撃で警戒心を高めさせた直後に、防御態勢を意識しているところを狙って『耐魔力』を一般人以下にまで下げる事を目的とする呪法を放つのであった。
「ちぃっ!」
もっとダメージを負わせる事を目的とするような、そのような直接的な攻撃を放ってくると考えていたエグゼは、突然のフルーフの謎の『呪法』にどのような効果があるものなのかが分からず、効果を確かめるより先にフルーフを仕留めようと、その意識が防御から攻撃に転じようとした、まさにその瞬間であった。
「がっ――……!?」
そのまま手を伸ばせば、直ぐにフルーフの身体に手が届く程の距離に居るエグゼが、右腕に『魔力』を集約させて『魔力圧』を放とうとした刹那、急に喉元を押さえながらエグゼは苦しみ始めたのであった。
突然に苦しみ出したエグゼだが、それはフルーフの攻撃によるものではなかった。
それが証拠にフルーフは目を丸くして、エグゼの苦しむ様子に驚愕の表情を浮かべているのであった。
やがてフルーフは我に返ると、何が起きたかを確かめる事もせずに、そのまま一気にエグゼの射程距離から離れるが如く、彼の魔王城がある場所の方角に方向転換を果たすと同時に『高速転移』でその場を後にするのであった。
そして魔王城付近にまで辿り着くと、そのまま地上へと降りて直ぐに今まで居た森の方角に視線を向ける。
「な、何が起きたんじゃ……?」
そのまま森がある方角に視線を向け続けるフルーフだが、どうやらエグゼが追ってくる気配はなかった。
現在、フルーフが居る場所は自身の魔王城がある場所の目と鼻の先と言えるところであり、エグゼの攻撃で粉々に破壊された『結界』が傍に見える場所であった。
そして原因を考え始めたフルーフは、そこでもう一体の来襲者の存在を思い出すのだった。
「今のお前の『呪法』は、他者の『耐魔力』を強制的に下げるといったモノか?」
「!?」
ここに戻って来る時には、確かに誰も居ないのを確認したフルーフであったが、いつの間にか後ろを振り返ると最初に会話を交わした初老の男が、薄く笑みを浮かべながらこちらを見ているのであった。
「お、お主、いつの間に……!?」
「何だ、気づいていなかったのか? 俺は森に居る時からずっとお前たちを近くで観察していたのだぞ?」
フルーフは、その初老の男の言葉に愕然とする。
あの時フルーフは、確かに迫ってきていたエグゼ以外の存在を認識出来ていなかった。いくら戦闘に必死で意識が他にあまり向けられていなかったのだとしても、フルーフ程の大魔王が気配すらも感じ取れていなかったという事である。
それはつまり、この初老の男もまたフルーフより強さが上の存在で間違いないという事だろう。
「まぁ、今は俺の事は良いだろう。それで? 俺はさっきの質問の答えを聞きたいんだがな」
そうフルーフに告げる初老の男は、レキの魔王城に居た頃にはあまり見せる事のなかった、まさに興味津々といった様子の表情を浮かべており、目を輝かせてフルーフの顔を見続けていた。
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