2518.魔神級との速度差を理解する大魔王
大きく後ろへ跳躍を行い距離を取ったフルーフは、早速『死神皇』を使役しようと『死司降臨』の準備に取り掛かろうとしたが、顔を上げた視線の先にグングン迫ってくるエグゼを見て、これだけの距離では使役は無理だと即座に判断し、身体を捻って方向転換を行いながら更に距離を稼ごうと『高速転移』を行い始めるのだった。
あっという間に自分の魔王城が見えなくなり、平地の先に深い森が見え始めてきたが、このまま森の中に入ったところで『魔力』を感知出来る相手には何の意味もなく、むしろ視界を狭くするだけだと判断して一度『高速転移』を解除し、そのままフルーフは思いきり地を蹴って、今度は空高く飛翔を始めるのだった。
しかし『高速転移』を解除したコンマ数秒、それも相手からすればいきなりの予期せぬ方向転換があったにも拘らず、ぴったりと離れずにフルーフに追従し続けてきたエグゼは、もう目と鼻の先にまで迫って来ていたのだった。
(これが『魔神級』の領域に居る者が出せる移動速度か。明らかにワシとは違いすぎる……!)
魔力の量に関して言えば、フルーフが圧倒的と呼べる程にエグゼよりも高いのだが、それ以外の部分ではエグゼが全てフルーフを上回っている。
『大魔王最上位』と『魔神級最上位』では、攻撃力、守備力、機動力の全ての面でフルーフに勝てる道理はなく、同じ『高速転移』を用いているにしても、如実にその差を見せつけられてしまうのだった。
もちろん『呪法師』であるフルーフは、僅かにでも相手の油断や隙を突ければ、その瞬間に『呪法』で相手に不利を背負わせる事も可能となる筈だが、一度移動を開始してしまった現状では、その隙を突く事が非常に難しくなってしまっていた。
そして同じ『高速転移』を用いていながら、もはや並走していると呼べる程の互いの距離間にまで差が縮まってしまう。手を伸ばせば届きそうなその位置から、遂にエグゼが追走から攻撃へと意識を変え始めた事をフルーフは悟るのだった。
(こやつが攻撃を行うところを実際に見たのはあくまで『結界』を破壊した時だけだが、固有や汎用的な『魔法』すらも使う素振りを見せず、単に『魔力』を放出するだけの『魔力圧』を使用したところから判断するに、相手に防御や対策を取らせぬように速度を優先するタイプなのだろう。つまりそれだけ殺傷力に自信があって、殲滅魔法などを使う必要性すら感じていないという事じゃろうな。ワシにとっては、こういう奴が一番厄介じゃ!)
『理』から生み出された『魔法』が対象であれば、呪法を扱うフルーフにとってはそれが一つの狙いに出来て、有利不利の場所に強引に持っていけるのだが、目の前に居る『エグゼ』のような『理』が基となる『魔法』を全く使用せず、自らの魔力だけで攻撃を行われてしまうと、魔力量の差を活かした能力を用いての対抗が上手く行えず、戦力値の数値をそっくりそのまま照らし合わせるような戦いを強制されてしまうのであった。
更にフルーフの考察には明らかに異なる部分があった。それはエグゼが相手の防御やその手段の対策の為に、わざわざ意識して速度優先の攻撃を仕掛けているわけではなく、純粋に本来の身体の感覚のまま攻撃を行っているだけに過ぎないという事である。
フルーフはこの『代替身体』状態のエグゼの強さを踏まえて、自分の呪法の対策を講じての速度重視の『魔力圧』を用いたという考えに至ったのだろうが、単にエグゼは本来の身体のつもりで攻撃を行っている為に、魔法ではなく、魔力圧を放ったに過ぎない。
大魔王エグゼは今のこのフルーフとの戦いでも充分に『魔神級』最上位としての強さをしているが、実際の身体はこんなものではなく、単純に現状の戦力値と魔力値の十倍以上を有する『超越者』なのである。
エグゼ程の『超越者』ともなると、わざわざ『殲滅魔法』や『極大魔法』といった類の『魔』の概念技法を用いずとも、単に高めた魔力を無意識に相手にぶつけるだけで大半の敵が消滅してしまう為、彼にとっては魔法を使う必要性が皆無なのである。
その時のなごりで彼は魔法を用いていないだけであって、フルーフが考えたように速度を優先して相手の攻撃に備えての択を取っているというわけでは決してなかった。
だが、直接戦っているフルーフは、今のエグゼが本来の強さなのだと判断している為に、魔法を使わない理由が自分への対策なのだと結論を出したというわけである。
そしてそのフルーフの『対策を講じているのだろう』という考えに説得力を持たせている理由の一つに、執拗にフルーフとの距離を詰めようとエグゼが迫って来ているところにあり、これこそが本来の『呪法師』対策を担っていると言える行為であるが故に、フルーフの思案の結論に至った理由に挙げられたというわけであった。
そして先程の移動の時にも触れた事だが、現在のエグゼが『代替身体』であろうと、元々が『大魔王領域』に居るフルーフが相手では、単純に位階差が如実に表れている為に、呪法師本来の戦い方をフルーフがこの戦闘で行うには、あまりにも準備不足感が否めなかった。
せめてエグゼが『魔神級』下位や、中位領域までの存在であったのならば、もう少し楽に『死神皇』の使役が叶っていただろうが、相手が『最上位』では唐突に始まった今回の戦闘では対抗するのが至難と言わざるを得ない。
(ワシが思っていた以上に『魔神級』は甘くはなかったな。これなら奴らがこの世界に来た時点で『死神皇』の奴を使役しておればよかった……!)
――契約を果たしていたとしても、神々を使役する事自体が容易になるわけではない。
もちろん使役には膨大な『魔力』を用いる事は当然だが、それ以上に神々を降ろす為には、神経を研ぎ澄まして行わなければならない程の『術式』が必要不可欠となるからだ。
当初、大魔王ヌーが『死神公爵』の『テア』を連れて常に行動していたのには、こういった面も関係していたのだった。
一度現世に顕現していれば、魔力さえ持つのであれば『死神』が幽世に戻るまでは使役者の裁量で現世に残せるのだが、一度でも幽世に戻ってしまえば再び『術式』を用いる必要性が出て来る。
何より大魔王ヌーも三色併用が使える前までは、自身の魔力単独では『テア』を呼び出す事は不可能だった。魔力を一定時間増幅させる事を可能とする『魔法』を用いた事で、一時的に自身の『魔力値』を高められたからこそ、テアを呼び寄せる事が出来たのだ。
もちろんその契約した者達を呼び出した後も、現世に残す維持の為の『魔力』は、術者が補い続けなければならないが故に、呼び出すタイミングも考えなくてはならない。
フルーフも『エグゼ』達が現れた時に『死神皇』を呼び出すか悩んだが、あの時点では戦闘になるか、それすらも分からなかったが故に、相手が『魔神級』程の相手となれば当然に魔力の温存を考えなくてはならない為、最善を何処に定めるか、それがフルーフであっても難しいタイミングだった。
そして実際に相対してみた感想としてフルーフは、自分が想像していた以上に『魔神級』という存在は決して『能力』なしの状態では、明確に太刀打ちが出来ない程の差があるのだと理解するのであった。
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