2516.大魔王フルーフの洞察力
「その顔を見るにもう質問は終わりのようだが、今度はこちらが質問をしても良いか?」
「……構わぬ。ワシが答えられる事であれば答えてやる」
「それは有難い。先程も言ったが、俺はお前こそが『大賢者』と名乗る事が相応しいと思える程、その『魔』の概念理解度を認めている。だからこそ、わざわざこんな世界にまで足を運んでいるのだからな」
彼の質問の前置きの発言で『こんな世界に』という言葉が出た事で、フルーフは少しだけ不満そうな顔になるのだった。
「少し前にうちのボスが使っていた呪法が少し珍しいものだったのでな、どういう『理』から生み出された呪法なのかを尋ねてみたんだ。しかしボスが言うにはどうやらお前が生み出した『理』から創られた呪法の為に、どういう『理』の理論が用いられたのかに関しては不明だと告げられてしまったわけだ。だが、その呪法の『理』を生み出したお前の居場所は知っていたみたいでな。それで俺はお前に合いに来たとい――……」
「そのお前達のボスが使っていた『呪法』とやらは、どういったモノなのだ?」
ロプトウスの話を聞いたフルーフは、この初老の男の素性や、ボスが何者かという先程の疑問よりも、今の話に出てきた『呪法』が、どういったモノかという事の方に余程に興味を示し始めて、まだ話の最中だというのにロプトウスが話を続ける前に、フルーフは自らが抱いた疑問をそのまま先に投げかけてしまうのだった。
話の腰を折られたロプトウスだが、彼は心底嬉しそうに口角を上げ始める。どうやらこのフルーフの反応こそが、本当の『呪法師』なんだと言いたげな、そんな満足そうな笑みであった。
「俺が直接見たモノはボスが放った呪法が、すでに魂が抜けて抜け殻となっていた奴の身体に口から体内に侵入を果たして、死体であった筈のその身体が急に悲鳴を上げて苦しみ始めるといったモノだった。完全にソイツの魂は『代替身体』に向かった後だったからな、そもそもが悲鳴を上げる事自体が有り得ない筈だが、その呪法に取り込まれた男は、そのまま何度も命を奪われるような断末魔までも上げていた。そしてボスは一度や二度で済ませるつもりはないと言っていた。つまりその魂がもうなくなっている筈の男は、ボスが止めようと判断するまで永遠に繰り返す事になるというワケだろう。そんな呪法は流石にこの俺であっても、これまで見た事も聞いたことがないものだった」
フルーフはその呪法が齎した影響の話を聞き、直ぐに自分が生み出した『理』で相違無いと理解する。そしてその『呪法』の基となったモノの正体が、彼自身が生み出した『呪法』である『苦呪追従』だろうという事も。
「質問に答える前にまず尋ねたいのじゃが、何故その質問を『理』を生み出したワシに訊くのだ? 確かに基となった呪法はワシの『理』が関係しているモノのようじゃが、その呪法自体はワシの呪法とは全く関係がない。明らかにお主のボスとやらが独自に進化させたものと断言が出来る。お主はその呪法を知りたいのではなく、基となった『理』の正体が知りたいという事なのか? 悪いがそのボスの『呪法』を知りたいという事なのであれば、ワシには答えられはせぬぞ?」
至極当然と言えるフルーフの回答に、ロプトウスは浮かべていた笑みを戻して真剣な表情になる。
いくら呪法の元々の『理』がフルーフが編み出したものであったとしても、そこから更に進化を遂げた『魔』の概念技法に関しては、すでに親元であるフルーフを離れた、ある意味で別種の全く異なる『魔』の概念技法となるのだ。
今回の話に近い一例を挙げるとすれば、アレルバレルの精霊女王から生み出された『理』にあった魔法が、後のエルシスの生み出した『理』によって、基の『四元素』から全く異なる魔法に変貌を遂げて異なる『新たな魔法』となっているようなモノである。
あくまで基の『理』がフルーフのモノであったとしても、その後に改良を加えられた魔法には、別の『知識』や異なる『理』そのものが含まれている可能性があり、その時点でもはやフルーフは全く関係がなくなる為、こういうものが使われているのだろうという発想があっても、それはあくまでフルーフの予想に過ぎなくなる為に、正着となる解答そのものは当然に彼には用意が出来ない。
そしてフルーフの言う通り、実際に自分の『理』から進化を遂げているその呪法の正体については、自らのボスに直接訊けばそれでいい話である。
だが、それではロプトウスはいつまでも解答を得る事は出来ない。
――何故なら、その『呪法』を生み出した存在はすでにこの世を去っており、あくまで大魔王レキは大賢者『ミラ』の身体を奪って『呪法』を使っているだけに過ぎないからである。
ボスがミラの身体を奪っているという事実を伝える事は、上空でこちらを監視し続けている面倒な存在が居る以上は正直に言えるわけがなく、だからといって先程ロプトウスがフルーフに告げた言葉までが話せる限界と言えるのだった。
「……」
いつまでも先程の質問に返答がない為、その理由を考え始めたフルーフはここに来た時に目の前の初老の男が口にしていたとある言葉を思い出した。
――ボスがお前の身体をご所望のようなのでな。
(こやつはさっき確かにそう言っておった。つまり、ワシを代替身体の候補として拉致しようというのではなく、他の目論見から連れて行こうとしていると考えられるな。ワシの『知識』? いや、もっと直接的な意味かもしれぬな。たとえば、何らかの『魔』の概念技法。いや、それ以上の強い力である『金色の体現者』としての『特異』などで他者の身体を奪い、知識を含めたワシの『能力』そのものを奪おうとしているとかな。その大賢者とやらの身体もこやつらのボスが奪ったが、能力自体は使用可能だとして、どう進化させたのかまでは分からないといった事も考えられる)
――何と大魔王フルーフは、ロプトウスが意識せずに告げた、たった一言から見事に真実に辿り着いてみせるのであった。
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