2514.大魔王フルーフと、呪法師ロプトウスの邂逅
仄かな紫色に光る『呪法』に包まれたエグゼの『魔力圧』は、そのまま役割を全うする前に蒸発するように消えた。
あれ程の勢いがあった『波動砲』と見紛う程の『魔力圧』が、こんなにも容易く消されるとは流石に想像していなかったのか、エグゼはフルーフを見る視線を鋭いものに変えて、警戒心を高めるのだった。
そして更にエグゼの背後の上空で腕を組んでみていたロプトウスは、レキの魔王城でも一度見た事があるかどうかと呼べる程の上機嫌な笑みを浮かべてこちらもフルーフを眺めていた。
その眼差しは決して『敵』を見るような視線をしておらず、まるで久しく見ていなかった『同類』を前にしているかのように、興奮を交えた目で彼の姿を捉えていたのだった。
「……今放った俺の攻撃は、少なくとも『大魔王領域』程度の相手なら、まず間違いなく瀕死にはさせるだけの威力を有していた筈だ。それを何故あんな風に無傷で居られる……?」
「分かっただろう? これこそが本物の『呪法師』の持つ『力』だ。アイツを単に戦力値で判断して『大魔王領域』程度の魔族だと考えていると痛い目に遭うぞ。正直に言ってお前程の奴であっても、立ち回りを間違えれば即座にやられるぞ」
今のエグゼは代替身体とはいっても、あの大魔王レキの最側近にして『魔神級』最上位の強さを持つ大魔王である。そんなエグゼの強さを直に手を合わせて知っている筈の『ロプトウス』に、そう断言されたエグゼは視線を後ろに居るロプトウスに向けて忌々しそうに睨みつけるのだった。
「それも『呪法師』の中には、自らの強さの一部を代償に強力な『呪法』に代えて相手を呪い殺す者も居る。アイツ程の『呪法師』が『大魔王領域』のままで居るのも、そういった理由があるのかもしれん。明らかに今の『呪法』一つ取っても、単なる『大魔王領域』の奴が放つ事を可能とする範疇を超えている。表に出している情報だけで判断せぬ事だな」
同じ『呪法師』であるロプトウスの言葉を聞き、エグゼはいつものように『ロプトウス』に対して脊髄反射で否定を行わず、どうやら今回に関しては、何も間違っていないのだろうと判断して頷くのだった。
「ふん、どうやらアイツを少々甘く見ていたようだ。お前に従うのは癪だが、少しばかり考えを改める事にしよう」
「待て、アイツの相手は俺にやらせろ。これはレキとの取り決めで認められている筈だろう?」
「……良いだろう。それとレキ様を呼び捨てにするなよ。それを忘れなければ代わってやってもいい」
「はいはい、分かったよ。レキ様、レキ様」
まるで煽るような返事をしてきたロプトウスに苛立ちを募らせたエグゼだが、ここで仲間内で争っている場合じゃないと、エグゼは大きく深呼吸を行いながら堪えるのだった。
そして深い息を吐いた後、エグゼは上空でロプトに場所を譲るように横に移動を行う。
「良いだろう、大魔王フルーフはお前に任せるが、その代わりしっかりと役目は果たせよ?」
「誰に向かって言っているつもりだ? 黙ってそこで見ているがいい」
そう告げたロプトウスは、わざわざエグゼの肩に手を置きながら厭味な笑みを見せた後、静かに地上へと降りていくのだった。
「『呪法師』に『呪法』か……。確かに侮れぬモノのようだ」
空に残ったエグゼは、忌々しそうに舌打ちをした後に静かにそう独り言ちるのだった。
…………
空に居る魔族達の一撃を見事に防いだフルーフは、新たな追撃が来るだろうと警戒を強めていたが、一向に降りてくる気配がない様子の両者を地上で見上げ続けていた。
そこにフルーフを除いてこの場に一人残ったレアが、フルーフの傍に寄って声を掛けてくるのであった。
「す、凄い! フルーフ様、今のは『結界』に仕掛けていた『呪法』で相殺させたのでしょう!?」
「うむ、その通りじゃ。結界に奴の魔力圧が着弾した瞬間に、防ぎきれるモノではないと理解したからな、粉々にされる前にわざと結界の防ぐ力そのものを代償に、潜ませていた『スタック』を用いて『呪法』で相殺を図ったというわけじゃ……しかし、想像以上にあやつらはヤルようじゃ。レアよ、今の内に『リラリオ』に待機しているソフィの仲間の誰かに、この来襲者達の事を伝えに行くのじゃ」
「え、ええっ!? ふ、フルーフ様は?」
「あんな連中を引き連れてソフィの『仲間』が居るところには行けんじゃろう。何とかワシがこの場で食い止めておる間に、この事をソフィの『仲間』達に知らせに行って欲しい」
「で、出来ません! それではフルーフ様が……!!」
「大丈夫じゃ、簡単にはやられはせぬ。それに魂さえ無事に逃せればソフィであれば、例の神聖魔法でワシを蘇生も可能の筈じゃ。今最悪な事は、この襲撃を知らせる事が出来ずにこの地で全員があやつらにやられてしまう事だ。聡明な我が愛娘よ、お主なら分かるじゃろう?」
「……くっ!」
『魔王』レアは何も出来ない自分を歯痒く思いながらも、最後にはこくりと頷いて見せるのだった。
せっかく夢にまで見た父との再会に喜び、これから幸せな日々が送れると信じて疑っていなかったレアは、予想だにしなかった出来事に怒りを募らせて、あの大魔王ヌーに対して向けているモノと同じぐらいの恨みを込めた視線を向けるのであった。
「か、必ず伝えた後に、私はフルーフ様の元に戻ってきますからね!!」
――神域『時』魔法、『概念跳躍』。
無事にこの場からレアが去ったのを見て、フルーフは安堵する。
そしてその直後――。
先程『魔力圧』の攻撃を放った方とは違う魔族が、空から降りて来るのであった。
……
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